第29話:卒業は始まり
学園の卒業式。
フローラはアストリとレティシアの三人で、目を真っ赤にしながら過ごした。
1、2年生の時はシルヴィとモルガンのせいで、落ち着かない学園生活を送っていた。
3年生になり、やっと学生らしい嬉しさと、学生らしい苦しみを楽しむ事が出来た。
他人の目を必要以上に気にせず、友人と語らいながら食事をする。
たまに婚約者の愚痴や自慢を言い合う。
試験勉強の為と言いながら、単なるお泊まり会になってしまった事もあった。
卒業後はアストリは辺境伯へ、レティシアは侯爵家へ嫁いで行く。フローラは、自領へ生活拠点を移す。
そもそも結婚後ずっと
王宮勤めの文官や、近衛兵ならばそれも有りだが、ダヴィドは単にファビウス家に寄生していただけである。
「アストリの所へなら、いつでも行けるからもう泣くな」
その大きな手でそのように繊細な動きが出来るのか!? と、周りを驚かせながら、アルベールはそっとフローラの目元の涙をハンカチで押さえる。
「いつでも?」
フローラが問うと、アルベールは頷いて見せる。
「デュリュイ辺境伯家は親戚だから、転移魔法で屋敷まで行ける」
アルベールは魔法騎士である。
しかもかなり優秀な。
「お二人だけ狡いですぅ」
フローラの涙は止まったが、今度はレティシアが泣き出してしまった。
「だが、他人の屋敷に転移陣は敷けない」
アルベールがピシャリと断ると、一瞬泣き止んだレティシアだったが、更に「それでもぉ」と泣き出してしまった。
普段のレティシアは、淑女として伯爵令嬢として、恥ずかしい行動はしない。
今日は卒業式だという事と、自分だけ仲間外れにされたような気持ちになってしまい、感情が抑え切れないのだろう。
「大丈夫です! 離れていても親友です」
フローラがレティシアの手を握る。
「そうだ。会えなくても、常に心は一緒にいるぞ」
アストリも、二人の握りあっている手の上に、自分の手を添えた。
「ファビウス卿、可能だったらうちの屋敷にも転移陣とやらを敷いてほしい」
レティシアの婚約者であるジェルヴェ・バルビエ侯爵令息が申し訳なさそうに笑う。
まるで今生の別れのように盛り上がる三人を、このまま何もせずに分かれさせられる程、ジェルヴェは
例え年に一度は、王家主催の新年祝賀パーティーで会えるとしても。
「すぐには無理だが、新婚旅行の時にでも寄らせてもらう」
それは侯爵家の
アルベールの言葉を聞いて、フローラの表情がぱぁと明るい笑顔に変わる。
当然、レティシアもアストリも。
「ありがとうございます」
フローラがアルベールへ抱きつくと、それを見たレティシアもおずおずとジェルヴェへ抱きつく。
アストリは関係無いと二人の様子を微笑ましく見ていたが、婚約者であるシプリアン・デュリュイ辺境伯令息に肩を叩かれ振り向いた。
そこには両手を広げたシプリアンが居る。
抱きつきはしなかったが、その腕の中へ、アストリはそっと身を預けた。
その後、年度末の終業式と同じように卒業式後のパーティーが有り、何となく恥ずかしい思いで顔を合わせる事になるのだが、卒業式で気分が
高位貴族の後継者は、王都と自領で2回結婚式をする事が多い。
なぜなら、王族に参加してもらう為だ。
厳密には正式な婚姻の儀はどちらか片方でのみ行われ、両方で披露宴を行う。
伯爵位では半々といったところだが、公侯爵位では必ず、である。辺境伯は自領でのみ、が多い。
フローラのファビウス伯爵家も、両方で結婚式を行う。
特にフローラはダヴィドの件があったので、周りの貴族に王家とは確執が無い事を見せつけなければならなかった。
「招待する方……どうしましょう?」
フローラは当主として活動するのはこれからなので、親戚以外で招くべき相手がよく判らない。
最終確認は後見人をしてくれていた実母の従兄弟がしてくれる約束にはなっているが、一応の名簿作成はしなければいけない。
「こちらの方はかなり遠い親戚ですが、お仕事関係で繋がっている……けれど、王都からは遠い所に領地があるのね」
フローラは頭を悩ませる。
しかも通常、王家主催でない式典では揃わない国王夫妻と王太子夫妻が揃って参加するので、参加したがる貴族は多い。
なぜ揃ってしまったか。
アルベールのせいである。
新郎のアルベールが拗らせていた初恋を実らせたので、特務部隊員が冷やかし含め面白がって全員参列するので、
特務部隊と言えば、バルビエ侯爵領の隣領に偶然仕事で行く事が有ったアルベールは、ついでとばかりに相棒と制服のまま訪ねてしまい、侯爵を驚かしてしまった事は、フローラには内緒にしている。
ジェルヴェにも、かなり苦い顔をされてしまった。
先触れは出していたのだが、まさか制服で来るとは思っていなかったらしい。
とにかく、転移陣の設置は済んでいるので、アストリもレティシアも両方の結婚式に招待する予定である。
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