第3話 出した答え

 村長と班長たちが頭を抱えていたころ、ソウはだんだん自分のことをめてくれたり、優しくしてくれたりする人たちに、セイ村の村長の悪口や、「自分のことは話してはいけないと言われた」という話をするようになっていった。


 優しい者たちはソウの言葉にのめり込み、彼らは「彼女の言葉ばかり信用するな」と忠告する村人たちの話を無視するようになった。

 そのせいで仲の良かった村人たちの間で、衝突しょうとつが起こるようになっていったのである。


 村長も班長たちもソウのいる状況を変えなければいけないと思った。このままではカモ村がそうだったように、セイ村の中でも村人同士の分断が起こってしまう。


 しかし、どう追い出したらいいのか、方法も浮かばず、村長と班長たちは村人同士の喧嘩けんかの仲裁に入るしかなかったのである。


     ☆


 それから数か月後のことである。ソウのことは何も解決せずに、セイ村には収穫期が訪れた。


「皆、盗賊とうぞくが入って来ることも考えて、穀物こくもつの入った倉はきっちり閉めておいてくれ」

「分かった!」


 この辺りでは、収穫の時期が訪れると村を襲う盗賊がやって来る。そのため、いつも以上に警戒をしていた。

 しかしその夜、盗賊の奇襲きしゅうがかかったのである。


 盗賊たちは家をお構いなしに壊していき、さらに女をさらおうとしていた。男たちは必死に、畑仕事をするときに使うかまくわで応戦する。


 するとそのときだった。


「助けて!」


 一人の女性が盗賊の馬に乗せられたのが見えた。


 助けなくてはいけないと思ったタチイラだったが、連れ去られようとする者を見て立ち止まった。ソウだったのである。


 彼女は必死に泣き叫び、助けを求めていた。だが、タチイラは鎌を持ったまま、足に根が張ったように動けない。


「助けて! 助けてってば! 助けてっていっているでしょう!」


 ソウの悲痛な声が響く。

 だが、タチイラはぎゅうっと鎌を握る手を強くすると、意を決してきびすを返し、ほかのところへと応戦へ行った。彼の背には、ソウの断末魔のような声が響き続けていた。


     ☆


 夜が明け、盗賊が入ったことで村はぐちゃぐちゃになってしまった。

 皆、沈痛な顔をしている。


「皆、いるか? 各班長、確認してくれ」


 村長の指示に従い、班長たちが地区の面々を確認する。すると、スウムーが冷静な声で次のように報告した。


「村長、報告いたします。ソウが……いません」


 その瞬間、周囲がざわついた。


「本当か?」

「はい」

「それは確かか? 間違っていないのだな?」


 村長が重ねて尋ねると、スウムーはうなずいた。


「はい。もしかすると盗賊に連れ去られたのかもしれません」

「そうか。それは……残念だったな」


 村長がしんみりとした声で言うと、話を聞いていた村の者たちも気を落としたになった。


「他にいなくなった者は?—―いないのだな。よかった」


 村長が他の班の状況を確認すると、ソウ以外いなくなったものはいなかったようである。村長は表情を引き締め、周りにいた村人たちに励ましの言葉を言い放った。


「皆、大変かもしれんが、がんばって片付けよう。冬が越せるかどうかも問題になってきそうだから、俺は他の村に助けてもらえるか聞いてみてくる」


 そう言って、村長は先にスウムーたちの班のメンバーに指示を出していたときのことだった。

 タチイラの肩をぽんぽんと叩く者がいた。マイバルである。


「辛かったよね……。でも、あなたの判断は正しかったと私は思うわ」


 その一言に、タチイラが表情を強張こわばらせた。彼女は昨夜のタチイラの様子を見ていたということだ。


「見ていたのか?」


 タチイラの問いに彼女は静かにうなずくと、こう言った。


「彼女がいたままだったら、この村は壊れていた」

「そうかもしれないが、俺はあの子を見殺しにした。もっとやりようがあったはずなのに……」


 マイバルは少しの間黙っていたが、考えの整理がつくと「確かにそうかもしれない」と言ってから言葉を続けた。


「でも、優しい村長は、あの子を追い出すことはできなかったと思う。だけど、ソウへの優しさが村を救うとは限らない」

「それはそうだが……」

「本当の正しさなんて、私には分からない。でも村のことを考えたら、私は良かったと思う。だから、ありがとう」

「……」


 タチイラは何ともいえない表情をしていたが、マイバルのお礼の言葉に少しだけ表情をゆるめた。


 それから数か月後。セイ村は、ソウが来る以前の状況に戻りつつある。


(おしまい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

善を問う 彩霞 @Pleiades_Yuri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ