第2話 カモ村の話
「ああ、来たよ」
「なんてこった。早く追い出したほうがいい」
カモ村の村長のいい方に、セイ村の村長はむっとした。
「追い出すって、何でそんなことをしなくちゃならんのだ。そもそもソウは、以前いた村に居場所がなくなって出て行ったと言っていたぞ。まあ、確かに前の村の悪口を言う癖はどうにかならんかとは思うが、致し方あるまい。それくらい心に傷を負ったと言うことだろう」
するとカモ村の村長は、神妙な面持ちで言う。
「悪いことは言わない。早く追い出せ。そうじゃないと、村が
セイ村の村長は目を見開いた。
「……なんだって? じゃあ、ソウが前にいた村っていうのは……」
「そうだ。うちの村だ。あまりよくない身なりをして、口がきけないでいたから
「うちに来たときと一緒だ……」
戸惑うソウ村の村長に対し、カモ村の村長はため息をついた。
「あいつの手口なんだろうな。弱いところを見せて、前にいた村でどんな仕打ちをされたのか話して相手に同情してもらう。そして自分の居場所を作り、だんだん色んなことを話すようになるんだ」
「色んなことって?」
すると、カモ村の村長は肩をすくめた。
「根も葉もないことさ。俺たちの村では、ソウのせいで信じるべき人を信用られず、追い出してしまったことがあったんだよ」
ソウ村の村長は身を乗り出し、「具体的に教えてくれるか?」と尋ねた。
カモ村の村長は、少し目線を上に向け、そのときのことを思い出しながら語り出す。
「畑の土の改良をしようとしていたときだ。土のことを研究しているっていう、遠い街にいる先生が通りかかったんだよ。それで話をしているうちに、もう少し詳しく話を聞きたいと思ったら、ソウが『やめておいたほうがいい』というんだ。『あれは前の村にも来て、畑を前よりも悪くしていったんだ』『自分たちのやっている土の方法を信じたら?』ってね」
「それでどうなったんだ?」
セイ村の村長が尋ねると、彼はため息交じりに答えた。
「俺たちはソウの言葉を信じて、やっぱりやめておくと言ってその人に帰ってもらった。だが、翌年、カモ村の隣にあるコウ村の村長に聞いたら、その人は土のことを良く知っている学者だったっていうんだ。話を取り入れたコウ村は、いくつかの作物が前年よりもよく実ったらしい。まあ、作物が上手くいくかいかないかは、色んな要因があるが、コウ村を見たらその先生の話は聞く価値があったと思う」
セイ村の村長は少し考えた後、ぽつぽつと言った。
「だけど、ソウの言っていることも一理ある。やっぱり村の外にいる連中は、嘘を言って
するとカモ村の村長は、分かっているというように、大きくうなずいた。
「あんたが言っていることはよく分かるさ。だけどソウは俺たちの信用に対して、信用で返していないんだ。そこが問題なのさ。やっかいなのは、彼女は自分が言っていることがまともだと思っていること。そして俺たちは彼女が堂々と言うもんだから、確認もせずに信じてしまってきてしまったんだ……」
セイ村の村長としては、ソウの言っていることが信用できるかどうかということはまだ分からなかった。それは、彼女が自分のことしか語っていないからである。
「セイ村の村長よ。決めるのはあんただ。だから、俺の言うことを信用しなくてもいい。だがな、ちゃんと見ようと思えば、きっと分かるはずだ。何が良くて、何が悪いかを」
「……分かった」
☆
セイ村の村長は会合が終わると、村長は村に帰るなり、七つある地区の班長を呼んだ。会合で話し合ったことを伝えることも目的としてあったが、カモ村の村長に聞いたことを伝えるためでもあった。
「ソウがカモ村にいた……?」
話を聞いていた一番年若の青年・スウムーが呟いた。
「ということは、彼女が語っていることはカモ村の悪口だったということか?」
「どうやらそういうことらしい」
「でも、本当に
ふっくらとした出で立ちの中年の女性・マイバルが、
「いや。話によると、カモ村にも俺たちの村に来たときと同じだったらしい。俺がソウがどういう格好でここに来たか話す前に、カモ村の村長が話したから間違いないだろう」
「でも、それで決めつけるのは早いんじゃないか?」
タチイラが質問すると、マイバルが答えた。
「だけど、ソウがいることで問題が起きはじめていることは確かよ」
「それは分かっているが……」
タチイラは
「だとしたら、追い出すしかないぞ? 注意しても何をしても聞かないんじゃ、そうするしかない」
すると、マイバムが困ったように言う。
「でも、追い出すったってどうやったら……。彼女の存在がこの村にとって良くないなんて、証明できるとは思えない。それに過去のことを語らないようにするなんて、『あなたにそんな権利はない!』と言われておしまいのように思うわ」
「どうすればいいのか……」
村人は頭を悩ませるのだった。
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