聖徳太子は未来人
雨宮 徹
聖徳太子は未来人
司は自分の発明が評価されないのが不満だった。なぜなら、タイムマシンを作ったのに、周りからは「頭が悪いお前に作れっこない」と否定されたからだ。実際に使えば発明の素晴らしさが分かるはずだが、失敗作だと思っている人が試すわけもない。
そこで、司自身が実験台になって証明すればいいという結論を出した。問題はどの時代に行くかだ。日本は未だに第二次世界大戦の敗北者という位置づけだったので、それを何とかしたいと考えた。しかし、第二次世界大戦の真っただ中に行けば、下手すれば死にかねない。そんなリスクは背負いたくかなった。そこで司は思いついた。平和な時代に行き、根本から世界を変えればいいのだと。
そこで、飛鳥時代がいいに違いないという結論に至った。平和な時代だし、うまくいけば日本が世界の覇権を握るに違いない。飛鳥時代といえば聖徳太子だ。そうだ、聖徳太子になりきって、世界を変えよう。
数日後、司はタイムトラベルを実行しようとしていた。タイムマシンはペン型だ。ペンの回転部分を回せば、好きな時代に行ける仕組みだった。司は自身のタイムトラベルの証拠を残すために手持ちビデオカメラで録画しようと考えた。これなら、誰もが司の発明の素晴らしさを認めるに違いない。司はビデオカメラを持つとさっそくペンの回転部分を回した。
◇ ◇ ◇ ◇
最初に司が感じたのは臭いの酷さだった。それもそのはず、司は馬小屋にいたからだ。どうやら某タイムトラベル映画のようにうまくはいかなかったらしい。
「お前は誰だ!」
不意に後ろから声がかかる。振り向くとそこには一人の官吏、つまり役人がいた。服装からして、タイムトラベルが成功したことを確信する。
「私の名前は聖徳太子だ」
そう、聖徳太子は馬小屋の前で生まれたという伝説がある。これは好調な出だしだ。
「聖徳太子? 聞いたことがない名前だ。不審者として役所に連行する!」
これは予想外の展開だった。どうやって誤解を解こうか。その時、妙案を思いついた。
◇ ◇ ◇ ◇
「さて、お前が馬小屋の前にいた不審者か」
いかにも偉そうな服装の人物が尋ねてくる。
「不審者ではありません。聖徳太子と申します。私には素晴らしい力があります。私は10人の言葉を一度に聞き、それらすべてに答えることができます。それを証明できたら、私を役人として採用してください」
「怪しい奴だ。では、それがうまくいかなかったら、お前を殺す」
殺す!? 物騒な発想だと司は感じた。
「おい、人を10人集めてこい!」
人が集まったところで、司はビデオカメラのスイッチを入れる。これの録画・再生機能があれば、確実に10人の会話に答えられる。
司の作戦は見事に成功した。
「ふむ、お前は他の誰にもない才能を持っているらしい。ひとまず、採用してやる」
◇ ◇ ◇ ◇
様々な才能を発揮した司は、とうとう推古天皇の摂政という立場まで登りきった。
ここまで来れば、司にとっては楽勝だった。あとは史実と少し異なる政治をすればいい。
まずは、冠位十二階と十七条憲法。これは史実にそえばいい。
いよいよ、遣隋使派遣の年になった。ここが分岐点だ。司はソフトボールくらいの地球儀を作ってこう言った。
「地球には、隋の他にも未開の地がある。ここに行けば、さらに日本は発展するだろう」と。
これを聞いた役人たちは全力で世界中に船を送り出した。この政策は大成功し、日本は世界のすべての大地を領土にした。ここまでくれば、もうこの時代に用はない。司はペン型タイムマシンを再び使い、元の時代へと戻った。
◇ ◇ ◇ ◇
司が戻った世界では、日本は大国となり、すべての国が従うようになっていた。これで、日本は第二次世界大戦に負けた、という歴史は消え去った。
しかし、日本には奇妙な文化が出来ていた。各自が偉さに応じた色の服を着ているのだ。司は冠位十二階が発展したに違いないと確信した。
「おい、司。お前、なんで身分に応じた服を着ていないんだ?」友人に尋ねられた司はこう答えた。
「自分が定めた制度なんだ、従う必要がどこにある」
「おい、お前頭でも打ったか? この制度を作ったのは聖徳太子さまだぞ?」
「だから、聖徳太子は俺のことだって」司は反論する。
「お前、狂人になったらしいな。こうなったら、お前を不敬罪で訴えるしかないようだ」
数日後、司は牢獄で思った。自分で作った制度で捕まるとは、変な話だなと。
聖徳太子は未来人 雨宮 徹 @AmemiyaTooru1993
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