巨星墜つ

船越麻央

二年後の流れ星

「殿っ! 敵が迫っております! お覚悟を!」


「うむ、もはやこれまでか……」


 落城は目前である。

 鬨の声が聞こえる。

 鳴り響く銃声。


 城内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


 最期を悟った城主は炎の中に消えていった。


 ちょうど二年前の夜。

 城主は城の庭で星を見ていた。そしてつぶやく。


「……あと二年か……どこまでやれるかのう」


 時は戦国、弱肉強食の世である。

 各地に群雄割拠し、覇権を争っていた。

 まさしく食うか食われるである。


 城主も合戦に明け暮れ、あるいは調略し、

 いくつもの城を落としていた。

 徐々にではあるが版図を広げていた。


 そしてついに強大な敵と遭遇した。

 周囲の国々を従え、天下統一へと突き進む大大名。

 戦国の梟雄。


 その梟雄が臣従を要求して来た。

 戦うか、臣従するか。


 「戦っても勝てぬ」


 城主には分かっていた。

 しかし城主には反骨精神があった。


 「残された時は少ない。せめて一泡吹かせてくれるわ」


 城主は家臣たちを説得し、抗戦を決めた。


 しかし戦力の差は如何ともしがたく、

 ついに城は敵に包囲された。

 城は風前の灯火である。


 城主は城の庭で星を見ていた。

 二年前と同じである。

 

 星空に流れ星が流れた。


「……あれから二年か。明日までの命……悔いはない」


 その頃、城を包囲している敵陣でも星を見ている者がいた。


「流れ星か……惜しい者を亡くしたのう」


 翌日、城は炎上落城し城主は城と運命をともにした。


 天下統一はまだ遠い……。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

巨星墜つ 船越麻央 @funakoshimao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ