Memory light-years

徳川家の生き残り

第1話

「ケイラ・オーガスト。君を第一戦隊、指揮官に任命する」


 黒く染められた軍服を器用に着こなす金髪の少女は、父であり、最高指揮官であるジェリオ・オーガストからその地位をもらった。

 指揮官であることを証明する、黄金バッチを渡されそれを胸につけると、深く頭を下げる。


「国に貢献できるよう、全力で努めます」


 ケイラがそう言うと、周りからはケイラを称える拍手が送られた。

 照れくさそうにしながらも、自分の責務を全うしようという自信に満ち溢れている。

 昇進の儀が終わると、父のジェリオに連れられ、会議室を後にした。


「お父様、どこへ向かうんですか?」


 父に尋ねると、「お前と今日から共に戦場で戦う機械人形オートマタに会わせてやる」と言われた。

 機械人形オートマタはこの国で戦争に使われている人型の機械だ。

 人間が使うことのできない軍事武器『コンバルト』を彼女たちは使うことができる。

 ケイラは小さい頃から、そう教わってきた。


 共に戦うといえど、人間であるケイラたち指揮官は安全圏内で機械人形オートマタに指示を出すだけである。


 ジェリオと歩くこと数分。

 ケイラは、『機械人形演習場』へと到着した。


 『機械人形演習場』では、機械人形オートマタ同士での訓練や、敵国であるリンカルト連邦国の高性能AI機械『デスファルト』に限りなく似せたものでの戦闘訓練などが行われる。


 演習場の中へ入ると、機械を破壊する音が大きく響いていた。

 ケイラとジェリオは訓練の邪魔にならないよう、ガラス張りで中が見える、安全ルートから入っていく。


 ケイラが演習場へ入るのは初めてだった。

 見たことのないものや、音であふれるこの空間に新鮮さを感じる。


「ケイラ、ここは戦場を再現した空間だ。機械人形オートマタはこのような場所で戦っている。覚えておきなさい」

「はい。お父様」


 指揮官が普段居合わせることのないこの空間で機械人形オートマタは戦っている。


 ケイラがジェリオのことをまっすぐ見つめる中、急に大きな衝撃音が演習場内に響く。


「!?」


 はっとガラスを覗き込むと、大量の砂埃が舞っている。

 時間をかけながらその砂埃が無くなっていくと、一人の少女が現れた。

 可憐に黒髪を揺らし、綺麗な朱色の目でケイラをじっと見つめている。

 よく見ると、右腕に大きな銃型の『コンバルト』を抱えているのがわかる。

 

「お父様、あの子は……」

「ああ、機械人形オートマタだ」


 ケイラは機械人形オートマタはもっと、機械らしいものだと思っていた。しかし、今、目の前にいる少女は普通の人間と見た目はほとんど一緒だ。


「……お父様、あの子は……人では……?」

機械人形オートマタはより人間に似せた機械だ。知能も人間と変わらない」

「そう……なんですね」


 少し驚きはしたが、ジェリオの発言にケイラは納得した。

 

 少女の方は、変わらずケイラの方をじっと見つめている。

 その視線に緊張し、思わず目を逸らしてしまう。


「ケイラ、行くぞ」


 ジェリオに声をかけられると、「はいっ! お父様」と後を歩く。


 安全ルートをまっすぐ進んでいくと、大きな広場が見えてくる。

 そこには、カルテを持ちガラスから中の様子を窺っている赤髪の女性がいる。


「どうも、ルシーナさん」


 初めにジェリオが声をかけた。

 ルシーナと呼ばれる女性が振り返る。


「ああ、ジェリオさん。どうも」

「今日は第一戦隊の指揮官が決まったので、あいさつに来ました」

「そうだったんですね。その子が……?」


 ルシーナがケイラを見る。

 ケイラは慌てて挨拶をする。


「は、初めまして! 第一戦隊、指揮官に任命されました! ケイラ・オーガストです!」

「あら、元気なお嬢さんね」


 緊張のあまり、少し挨拶が変になってしまう。

 ルシーナはそんなケイラにそっと微笑む。


 微笑むルシーナの顔が美しく、ケイラは頬を赤らめた。


 プシューという音と共に奥の扉から、少女が一人、肩をさすりながら現れる。


「ルシーナ、もう武器の調整はいいでしょ……?」

「あら、シイナもういいの? まだ、始めたばっかりじゃない」


 ルシーナはその少女のことをシイナと呼んだ。

 シイナは「はあ……」と1つ溜息を吐くと、


「この武器、重くて肩が痛くなるのよ」

「でも、あなたなら使いこなせるでしょう?」

「はあ……そうね」


 ケイラがその少女――シイナをじっと見つめていると、シイナもケイラの視線に気づく。


「だれ? この子」


 シイナは先程、ルシーナと話していた時の目つきとは一変し、鋭くケイラを睨む。

 ケイラもドキリと息を飲む。


「私は、今日から第一戦隊指揮官に就任したケイラ・オーガストです」


 ルシーナの時とは違う緊張がありながらも、ケイラは自分の自己紹介をした。

 シイナはそれを聞くと、ケイラの目の前まで顔を寄せ、変わらぬ目つきで見つめる。


「ふーん。あなたが次の私たちの指揮官なのね」


 ケイラはシイナの発言から彼女が機械人形オートマタだと認識した。

 シイナはケイラの前からパッと顔を離すと、不敵な笑みを浮かべる。


「君に私たちの指揮官が務まるのかなー? 精々頑張りなよ」

「こら、シイナ! ケイラちゃんに意地悪なこと言わないの!」


 黙って見ていたルシーナが、痺れを切らし、シイナに怒る。


「はいはい、ごめんなさーい」


 シイナはケイラに挑発的な言葉を並べると、そのまま来た扉から出ていった。


「ごめんなさいね。あの子、普段はいい子なんだけど……指揮官と会う時だけあんな感じになっちゃうの……」

「いえいえ、私はあまり気にしていませんので」


 ケイラは慌てて手と首を振り、自分が気にしていないということをアピールする。

 

「ケイラ、私は先に戻る。あとはルシーナさんの案内で機械人形オートマタに会ってきなさい」

「はい。わかりました」


 ケイラは父であるジェリオに対して敬礼をする。


「それじゃあ、ルシーナさんあとはよろしくお願いします」

「はい」


 ジェリオはルシーナにケイラのことを頼むと、来た道をたどり戻って行った。

「じゃあ、さっそく機械人形あの子たちに会いに行こっか」

「はいっ」


 ケイラが短くはっきりとした返事をすると、ルシーナが「こっちよ」と案内を始めた。

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