第8話

「蘇生は可能です。」

ルナからこの言葉を聞いた俺は一息をつく。

これ以上は俺の専門外だな。

蘇生のことはルナに任せ俺は俺のやるべきことをすることにした。


2人に一言を告げ俺は組合ギルドへと向かう。

理由は、モンスターの分布変化の報告と情報収集のためだ。



神殿を出て10分ほど経つと王都メヴィアが見えてきた。


風格のある城塞都市。古びた黒い城壁には幾層もの傷がついている。これは数十年前の戦争の名残らしい。メヴィア王国自体はここ20年は戦争もなく平和を維持しているので城郭は次第に寂れていった。


検問を抜け王都に入る。

検問官はコウモリのフンの匂いが余程嫌だったのか検問のチェックを適当にやってくれた。

この国の警備は甘い。


早速冒険者組合ギルド兼酒場へ行こうとしたがふと立ち止まる。


「流石に食事どころでこの臭いは怒られるな。」


一応常識はあるのだ。一応。


「あー、ナタリアは…ルナが何とかしてくれるか。」


ルナが居てよかった。そう思ったもののすぐさま俺はルナの私服がすごく際どいことに気づいた。


「…あとで着替えを持っていってあげよう。」


お子さまにあの服は早すぎる。


俺は一旦家へ帰宅し、体を綺麗にすることにした。



王都の端っこ、数年前に借りた二階建てのアトリエ。

これは俺の家だ。2階が寝室、一階にシャワー室と工房がある。二階建てのアトリエと聞くと金持ちそうに聞こえるが実態はそんないいものじゃない。結構狭いのだ。


俺はシャワー室へ駆け込み、体を綺麗にしまた外へ出た。


「今度こそ組合ギルドへ行くか。」


日は完全に沈みきり、王都も端の方は活気がなくなっている。


そんな中煌々と輝きを放ち賑わっている場所があった。


冒険者組合ギルド、数ある職業の中で一番活気のある冒険者どもが行き交う場所。

フリー依頼クエストや指名依頼クエストの斡旋。素材の買取に情報共有など冒険者にとっては欠かせない要素を全て取り扱う場所である。

おまけに酒場まで付いているので朝から晩まで賑わっている。



俺は古い木造の扉を開ける。ギギギと何かが軋む音がして目の前が開けた。


酒場はいつものように賑わっている。


酔い潰れて女冒険者にちょっかいをかけている男もいれば、逆もいる。


お酒をちびちび嗜んでいる者も居れば飲み比べをしている荒くれ者も。


俺は人の群れをかき分けて店の隣のクエストカウンターへ向かった。



クエストカウンターは二種類ある。仕事の斡旋から完了の報告までを済ませる依頼エリアと情報共有が主の情報エリアだ。


今用があるのは情報共有エリアだ。


俺は情報共有版と呼ばれる壁掛けの大きな掲示板を見る。


ここには迷宮や王都の様々な情報が載っている。ここに載っている情報は組合ギルド側が精査し載せいているので信頼度は高い。


俺は掲示板を流し目で読む。


「うーん、王都に出た盗賊。隣国アルテマで大規模火災発生支援もとむ。イングラシア州で大飢饉。」


これと言って有用な情報はないな。まぁ組合ギルドが精査するということはつまり時間がかかるということである。迷宮の異変など載っているはずがない。

はなからこっちには期待していないな。

そういってカウンターの方へ行く。カウンターには組合ギルドの職員が数名居て、冒険者と話していたり事務作業を行なっていた。


俺はある1人のギルド職員を見つける。それは1人の女性。

 自然の民の森林族エルフでありながらなぜか人間ヒュームの街で働いている物好きな職員。

特徴的なツンツンした耳に、エルフ特有の凛々しい表情。

リーフグリーンの髪の毛は金のかんざしで短く纏めており目は灰色。


The エルフ という見た目をしている彼女の名前はアストラ。彼女曰く古代語で星を意味するらしい。


俺は6年ほど前に彼女とここで出会い、それからというもの迷宮に関わる情報のやり取りをずっとしていた。

あとごく稀に俺が依頼クエストを受けた際の担当も彼女だった。


彼女との関係は深くはないが浅くもない。彼女に古代百足アースロプレウラの上層進出や今迷宮で起こっていることを相談しなければならない。


俺は遠目から彼女に手を振って話しかけた。


「あら。君はローランか。久しぶりだな。」


「あぁ。一週間ぐらいぶりか?あまり組合ギルドには顔を出さないから。」


アストラはエルフという事もあって、ヒュームとは違う価値観を持っている。他の職員は冒険者を呼ぶ際にさん付けや敬語を使用するが彼女は違う。彼女曰くエルフには敬語を滅多に使わないらしい。

さらに元々の彼女のクールな性格も相まって、冒険者の間ではぶっきらぼう、冷酷などのイメージがついている。


物理的にも精神的にも打たれ強い冒険者の男どもには逆にそれが刺さるらしく意外にも彼女の人気は高い。


この前アストラに踏んで欲しいと嘆願している哀れな冒険者も見かけた。

そいつは凄く雑に追い返されていたがそれ自体もご褒美、といった表情をしていた。


大丈夫かそいつ?主に頭が。


依頼クエスト…と言うわけじゃないさそうだな。大体見当はついている。大方あの迷宮についてだろう?」


「さすがアストラ。察しが良いな。」


俺は迷宮でナタリア達を助けた事とその際に本来一層は愚か二層でも見ることのない古代百足アースロプレウラに出会ったことや、深層のモンスターが上に来ていると冒険者の間で噂になっていることを話した。


話を聞いたアストラは少し眉をひそめ、君もか…と呟いた。


「君も?」


「ん、いや、ここ数日同様の報告が相次いでな。古代百足アースロプレウラは初めてだが、二層で怒蛇ムシュフシュを見ただの。四層にて海霊馬ケルピーの群れが焼死体となって見つかったなど。組合ギルドもこの前調査隊を出したんだ。」


「へぇ。さすが早いな。して、調査の結果は?」


アストラは黙り込む。そして耳を貸すようジェスチャーをする。

俺は言われた通り耳を差し出すとこしょこしょ声でアストラが話し出した。


「いいか、今から言うのは組合ギルド内でも少しのしか知らない情報だからな。私はお前が口の固い人間だと知っているしお前に情報を渡すことは組合にとってプラスになると踏んだから話すんだ。誰にも言うなよ?」


「…わかった。でもどうしてアストラが今回の件にそこまで詳しく知ってるんだ?」


「…む。それは私が調査隊派遣の事務仕事を担当してたからだな。調査隊は全5名。どちらも実績、実力等に申し分ない人間だったし私は特に問題ないだろうと思って送り出したんだ。」


アストラが問題ないと言うならしっかりと実力の高い冒険者だったのだろう。


「しかし、この前調査から帰ってきた冒険者は斥候ただ1人だったんだ。」


アストラが悲しそうな顔をしてさらに言葉を紡ぐ。


「その斥候自体もひどい火傷を負っていてな。その怪我や彼の証言を照らし合わせるに…ある一つの仮説。仮説と言ってもほぼ事実が浮かび上がってきたんだ。」


アストラは声を一段と低くする。


「真相にドラゴンが出没した。」



ドラゴン。この国、いやこの世界のどんな生物よりも強いとされる伝説上の魔物。

事実、各国には竜に街をメチャクチャにされたという伝承が残っている。


そんな化け物があの迷宮に現れたらしい。


「あぁー、まじかぁ」


俺はそんな間抜けた返事しかできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界に一人だけの魔物学者 べるりんです @belrin404

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ