第7話
「蘇生が可能」この言葉を聞いたローランさんは「一度
残されたのは私、ナタリアと聖職者のルナさん。そして私の友人の亡骸だ。
何を言えばいいのか何をしたらいいのか分からずもたもたしていると見かねたルナさんが話しかけてきた。
「その様子ですと蘇生に立ち会うのは初めてですか?」
「はい。蘇生自体は本や授業で習いましたけど…現場に居合わせるのは初めてで…」
そうですか。とルナさんは微笑み言葉を続ける。
「あ、そう言えば自己紹介をしていなかったですね。
私はルナ、ルナ・ミスト。ここ聖メヴィア神殿迷宮支部で聖職者を務めさせて頂いております。」
ルナさんは紺色の修道服のシワを広げ頭を軽く下げた。
「わ、私は訳あって先日冒険者になったナタリアと言います。よろしくお願いします」
私もルナさんに応えるように自己紹介をする。家で習った礼儀の正しい挨拶をしようとドレスのスソを掴んで一礼しようとする。が、今は冒険者の服なので私の手は空を切った。
ちょっと恥ずかしい。
「ナタリアさんは魔術師ですか?そちらの杖、魔力の通ったいい杖ですね。」
「はっ、はい。でも迷宮に潜るのは初めてで…今日もローランさんに出会わなかったら多分私達全滅していました。」
「まぁそれは…でも仕方ないですよ。あの迷宮は特に難易度が高いですから。一層のスライムですら対処を間違えると命を落とします。」
ルナさんは私の頭を撫で、慰めるように言った。
「ペンタクールさんでしたっけ?彼女の蘇生は早くて今日の夜、遅くて明日の朝ぐらいには執り行えると思います。いつもなら即蘇生できるのですが…最近冒険者さんの亡骸が多くて…悲しいことに繁忙しております。」
ルナさんは悲しそうな顔をする。慈しみの表情を表す彼女の顔は文字通り聖女のようだった。
「何しろ蘇生は準備することが多いですから…」
「準備?」
「蘇生術は特別な儀式が必要なことは知っていますか?」
「えーっと…」
私は少し思案する。昔家の者に教えてもらっていたことを思い出す。
「確か、蘇生術は神殿のような聖なる場所で、魔力と捧げ物を用いて肉体に魂を呼び戻す…でしたよね。」
「はい。大体あってますよ。少し付け加えるとすれば使用するのは術者の魔力と生命力です。ですので同じ術師が1日に何回も蘇生術を行うことはできません。また捧げ物は死者に縁の深いものを使うとより魂を呼び寄せやすくなります。この神殿は蘇生の儀式用に作られた祭壇が3つあるので比較的蘇生の回転率は良い神殿なのですが…それでも1人の復活に1~2時間ほどかかるので…申し訳ないですが皆さんにはお待ちいただいているのです。」
ルナさんは深く頭を下げて「どうかご理解を」と言った。
「とんでもないですよ。私からしたら蘇生してくれるだけで嬉しいです。」
友人とまた会える。それだけで私はとても嬉しいのだ。
「ところで…ナタリアさん。どうしてそんなに汚れて…」
ルナさんは少し引き攣った顔で聞いてくる。そのまま顔を私に近づけて…
「ちょっと失礼します。」
匂いを嗅ぎ出した。
「えっえっえ」
私は急に匂いを嗅がれて顔が赤くなる。そんなにスーハーしなくても良いじゃ無いか。
「あー…この匂いは…レッサーバットの…」
ルナさんは顔を離し困ったような表情を浮かべる。
「全くローランったらこんないたいけな娘に何てことを…ちょっとは怒って良いんですよ!」
「有無を言わさず塗りたくられたというか…
まぁローランさんには助けてもらったのでこれくらいなら全然大丈夫ですよ。」
「しかし…このまま放置するわけにも。」
ルナさんは自身の顎に手を当てて考え込む。
「神殿の一階の裏に水浴び場があります。私の私服を貸すので身体を綺麗にしましょう。」
「そっそんな、服を借りるなんてルナさんにご迷惑ですよ」
「コウモリの糞まみれで感動の再会をする気ですか?さぁ行った行った。」
ルナさんは私を後ろへ向かせて押して歩いて行った。
ローランさんとその知り合いは匂いを嗅ぐ習性と有無を言わさない習性があるらしい。
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「それじゃ着替えここに置いときますから」
「何から何までありがとうございます。」
結局ルナさんに言われるがまま私は水浴び場へ来た。糞で汚れた服は白い麻袋の中にしまっておいた。
「何から何まで今日は人に助けられたな…。」
私は髪を洗いながら独り言を呟く。
汚れた髪は瞬く間に綺麗になり、さっぱりとした気分になった。
私は桶にお湯を溜めて頭からかぶる。
「ふぅ…」
ふと、レッサーバットの大群にあった時のことを思い出した。
お嬢様はお逃げください。そう言って大群のほとんどを引き連れて洞窟の奥へ走って行ったペンタクール。
私の家は少し裕福で、ペンタクールは私の従者兼友達の女の子だ。
ペンタクールは自身が死んでしまう目に遭っても私を守ってくれた。次は私が守ってあげないと…
ローランさんやルナさんにも助けられた。
あの時ローランさんが来てくれなかったらと思うとゾッとする。
そしてルナさんがいなければ、ここまで安心することもできなかっただろう。
「この恩、返さなきゃな。」
私は暗い空を見上げてつぶやいた。
恩が返せるくらい強くなろう。
私はそう心に決めた。
私は水浴びを終え、身体を拭き、脱衣所へ向かった。
ルナさんの貸してくれた服は…どれどれ…
「!?」
上は肩が出て、胸元、ヘソも出ているサラシのような黒い服、下はこれでもかと言うくらい短いショートパンツ。
そして何故か入っているガーターベルト。
「ルっルナさんって普段こんな服着るの!?!?」
それは堅苦しい聖女のような服もなく清楚な貴婦人の服でも無い、やたらとパンクでロックな服だった。
ギャップの一言では言い表せない衝撃に私は少し眩暈を起こした。
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