小娘頼むから俺を振り回すな
コルク
第1話 出会い
俺の全てはあの日から始まった。
バケツをひっくり返したような大雨に俺はとりあえず吠えてみた。だって他にすることが無い。
紐のおもちゃは振り回しすぎて天井に突き刺さってしまって取れないし、隣の犬は盛大ないびきをかくばかりで俺の相手をしてくれない。
暇潰しに吠えてみたのだけれど周辺の犬猫は塩対応だ。特に上のゲージにいる猫に関しては耳を塞いで寝る態勢に入ろうとしている。
いや待てよ。さっき起きて朝飯食ったばかりだろ?もう寝るのかよ。早えーだろ。
かくいう俺も諦めて寝ようとした時、そのままコピーしたみたいな親子連れが俺達のショップに立ち寄った。
背の低い娘がしきりに変なおじ◯んを踊っている。対する母親は見て見ぬふりをしている。親子では無いと言いたいのかもしれない。バレバレだぞ。瓜二つじゃないか。
娘の方が俺に近づいてきて渾身の芸だと言わんばかりに披露した。
「変なおじ◯ん たら 変なおじ◯ん はい おっぱっ◯ー」
いや、違うだろ。志村◯んと小島よ◯おが混じってどうする。あたかも自分のネタですみたいに披露してパクリじゃねーかよ。
いやなんで犬の俺が一発芸を知っているんだろう。それはどうでもいい事としてこの娘はいつまでやり続けるんだろうか。
やっと終わったと思ったら娘は衝撃発言をした。
「あのね、今度、小学校のね、みんなの前で変なおじ◯んを踊るんだよ」
辞めとけよ。隣の母さん顔赤くなってるぞ。頼むから辞めるんだ。
「昨日ね、加◯ちゃんペーってしたら誰も笑ってくれなかったんだ」
もうすでに別ネタを披露してんのかよ。それはそうと辛辣な事を言うんじゃない。
「今度はね、鼻に洗濯バサミを挟んで加◯ちゃんぺーってしてみる!」
いや懲りないのかよ。懲りろよ。派生ネタ生み出してんじゃねーよ。
ようやく親子連れに気づいたペット店員のお姉さんがあの小娘に声をかけた。
「抱っこしてみます?」
絶っ対嫌だからな。なんか分かんねぇけど小娘だけは絶対嫌だからな。
妙に神妙な面持ちで小娘ははっきりと言ってのけた。
「お断りします」
断るんかい。いや断るんかい。にしても部屋中に聞こえそうなでっかい声で断らんでもええだろ。
どうやら俺は小娘の母親に抱っこされる事になったようだ。親子なのに全然性格違うんだな。めっちゃ静かな人だし撫で方も優しい。
何を思ったか知らないが小娘が顔面をぐっと近づけてきた。瞬きをする俺に奴はこう言った。
「走れ!走れ!マキ◯オー!」
おい待てよ。俺をマキ◯オーとでも言いたいのか。こんな美男犬を馬と間違えないでいただきたい。
奴はまたも甲高い声で喋った。
「マキ◯オー、いくらですか」
だからマキ◯オーじゃねぇよ。いくらって他に訊き方がありませんかね?
「マキ◯オー、十六万円です。値引きしました。お買い得です」
いや店員さんまで便乗してんじゃねぇよ。値引きしました、お買い得ですって淡々と言わないでおくれ。
やや考えた素振りをして隣の母親が口を開いた。
「うーん、もう少し値下がりしませんかね」
おい、高いって言うのか。これ以上値下げしないでくれ。優しいのかと思いきや交渉しましたね、隣の奥さん。
「ではこちらのサークルとおもちゃをお付けして十六万円!でいかがでしょうか」
テレビショッピングかよ。値段強調したけど結局それ以上は値下げしないんだな。安心した。いや安心はできない。小娘の家には行きたくない。
嫌な予感ほど的中するものだ。
「これからちいちゃんのお友達よ」
母親はにっこりと小娘と俺に微笑んだ。
事実を受け止めきれない俺の前で小娘は指2本を鼻に突っ込んだ。
「一緒に加◯ちゃんぺーしようね」
やんねぇよ。てかやるってどうやってやるんだよ。前足なんか鼻にとどかねえし。
とまあ出会いはこんな感じかな。何の面白味のない話を読んでくれてありがとう!
第2話からは俺が変な小娘宅に定住する話。暇があったら見てね。
小娘頼むから俺を振り回すな コルク @pipiyh
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