綿飴

鐸木

第1話

快晴の日に葬式だなんて、なんだか妙な気分になる。今日は祖母の葬式の日。葬式って言ったら、もっとしんみりしていてジメジメした天気のイメージなのに、今日は雲一つなく遠くの地平線が澄んで見える程素晴らしい天気だった。





祖母は、いつも天気に恵まれない人だった。所謂雨女というやつだ。祖母はいつも働き漬けの両親の代わりに私を色んな場所へ連れて行ってくれたのだが、行くとこ行くとこ全て雨。遊園地も雨、動物園も雨、公園だって雨。天気予報で降水率10%以上ならば必ず雨が降った。或る夏の日の事、私が夏祭りに行きたいと駄々を捏ねた。私の住んでいる地域は見渡すところ全て田畑のかなりの田舎な地域で、当然イベントなんてものは殆どなく、夏祭りともなれば住人全員で盛り上げていた。当時小学生だった私は、遊びたい盛りだったので、絶対に行きたい!と息巻いていた。然し、その日は天気予報では雨の予定。夏祭り中止を知らせるポスターが回覧板で回ってきたのを見せ、心底申し訳無さそうに眉を顰めて

「ごめんねぇ、連れてってあげたいのは山々なんだけどねぇ…」と呟いていた姿は今でも脳裏に焼きついている。その返答にどうしても納得いかなかった私は、

「絶対行くの!絶対行くの!!」

と癇癪を起こし、祖母に喚き散らかしていた。困った顔で謝り続ける祖母の気持ちなど露知らずに泣き続け、泣き止んだのは結局泣き疲れて眠ってからだった。

次の日、冷静になって少し罪悪感を感じたまま客間に降りていくと、綺麗に包装された綿飴がちゃぶ台に置いてあった。台所から食器を洗う音と共に

「お祭り行きたいって言うから、せめて好きな綿飴くらいは買っておこうと思ってねぇ〜」

という祖母の間延びした声が聞こえた。綿飴が売っているのは二駅もある隣街の駄菓子屋さん。足腰が弱い祖母にそれを買いに行くのがどれだけ大変な事か、当時の私でも分かっていた。

濃い味付けの人工的な甘さ、口元がベタつくあの不快な感じ、砂糖のざらついた食感。全てが愛おしくて、噛み締める様に食べていた。






葬式が終わり、外を見上げたら空は雨模様に変わっていた。そうだ、今日は綿飴を買いに行こう。大切な祖母との思い出を噛み締める為に。


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綿飴 鐸木 @mimizukukawaii

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