勇者、魔王の娘と混浴する。
そういえば思った事が一つある。
魔王の一族の掟とはなんなのだろうか?
つがいとなる、とかいっていたが...
「どうした人間、何か言いたい事でもあるのか?」
「えっ!?いやっ?」
「ふむ、そうか...我の事をじっと見ているものだからてっきり何かあるのかと思ったぞ。」
しまった、完全に意識していなかった。
怪しまれる前に何か話題を...
「そ、そうだ!そのアーサーって人...どんな人なの?」
「うーん...実は我もよくわかっていないのだ、奴が勇者で父を討った英雄...それだけだ。」
「そ、そっかぁ...でもお父さん...の、仇とどうしてつがいに...」
「ん?魔王の掟に興味があるのか?人間。」
「えっ!?あ、あぁうん...ちょっとね?」
流石魔王の娘、察しが良い。
...ということは普段の会話も注意しないとな...
「ふむ...これも目的を達成する為には必要か。」
「あっ、言いづらい事なら無理しなくても...」
「別に構わない、事情を理解している方が目的も達成しやすいだろう。」
「そ、そう?」
...しかも要領も良い...
王の素質というのはこういう事を指すのだろうか。
「ではまず、我の生い立ちから話そう。」
魔王の娘、マオ・ウルティナ・ダークロードは魔王と先代の勇者との間に生まれた。
先代の勇者も勇敢で正義感にあふれる者だったが、力及ばず魔王に敗北してしまった。
そして悪に敗北したことを期に、神の祝福も消え人類史から名前を抹消された。
勇者としての力も消え、人類から忘れられたとしても勇者として生きた時間は失われない。
勇者の器に魔王の力が混ざり、究極の存在が生まれた。
かと思われたが、生まれたのは欠陥品だった。
強大な魔力を持ってはいるが混血の器が耐え切れず、魔力機関が欠損していた。
しかし魔王には策があった。
新たなる勇者の存在、噂程度だがその勇者は異例の速度で人類の領地を取り返しているらしい。
そこで魔王は娘に伝えた。
自分が此度の戦で討たれるだろう事、そしてそうなった場合お前が新たな魔王となる事。
新たな魔王となり、新たな時代を作る事その為に勇者の血筋を絶やさぬ事、それが魔王の掟なのだと。
「...ということだ。」
「そっか...」
...あれ?つがいとなれとは言ってないか...?
「うむ、人間にとって血筋を絶やさぬと言うのはつがいとなり子を成し繁殖する事であろう?」
「う、うん...まぁそうだけど...」
「つまりは我と勇者がつがいとなり子を成せば目的は達成される。」
「そ、そうだね...」
...もしかしてこの子ちょっと頭が悪い...?
「なんだ人間、不服そうな顔をして...何が気に入らんのだ?」
「い、いやぁ...不服って訳じゃないんだけど...」
と、俺の考えをマオに話した。
「な、なるほど...確かにそういわれればそうか...」
そういってマオは何かを考え込んだ。
「おい人間、そうなれば我は何をすれば良いのだ?」
「えっ!?俺に聞くの!?」
唐突な質問に不意を突かれる。
「我は生まれてから一度も外に出たことがないし、この世の事を知らん。」
「うん。」
「そうなればまだお前のほうが知恵があるだろう。」
「うーん?」
「だから人間、お前が我の魔王への道を手伝え。」
「えぇ...」
「なに、目的が変わっただけだ。」
やはり魔王の娘、横暴が過ぎる。
「ちょっと考えていい...?」
「あぁ、構わんよ...選択の余地もないと思うがな。」
そうして俺は席を外し、浴槽にお湯を張った。
俺は考え事をするときはいつも風呂に浸かるのだ。
お湯が溜まるのを待つ間、シャワーで各所を洗い湯船に浸かる。
こうやって温まっている間は頭が冴えてくる。
「はぁ...どうしようか...」
しかしマオの言う通り、選択の余地はない。
「...いや、方法はあるな...」
何かしらの手段を使い、異世界の神と接触する。
そしてマオを異世界へと返す、それが最善だろう。
「おい人間、何をうんうん唸っている。」
「えっ!?マオ、なんでここに!?」
「お前が浴場に入ったまま出てこないから気になってな、ついでに我も湯を浴びようと思って。」
「いやいや!駄目だって!俺捕まっちゃうよ!」
「なぜ捕まるのだ?」
そういってマオはグイグイ来る。
「なぜってそりゃ...」
正直に言ってもマオには伝わらないだろう。
「あぁ、不敬罪という事なら気にするな、ここには我ら以外居ないのだろう?」
「...はぁ...もうそういう事にしておいてくれ...」
どうやらこの世界の俺はほとほと運がないらしい。
異世界から帰還した勇者、魔王の娘と共に生活する。 太刀華破壊 @t_hakai
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