星座の力を手にした高校生達と兎人間
Remi
読み切り編
昼休みって高校生が校内にいる時間の中で、1番自由な時間だと私は思う。
友達と喋ったり、部活で集まったり、みんなが思い思いの過ごし方をする時間。
そんな昼休みに私、
その理由は私の同じクラスで幼馴染の
いつも気づくといなくなってるし、話しかけると少し鬱陶しそうに扱われてるけど私はそんなことは気にしてない。
もちろん、高校に入って新しい友達もできた。でも、やっぱり昔からの友達である彼と一緒にいるのが1番楽しいから。
それに小学校卒業以来に再開した彼は性格が別人のように変わっていた。昔はあんなに笑ってた彼が、少しも笑わくなっていたことを私はほっておけなかった。
私は校舎屋上への階段を上る。
彼は昼休みはいつも屋上で過ごしているから、今日もいると信じて少し急ぎながら上る。
だって今日は絶対に話したいことがあるからいてくれないと困る。
「いますように!」と祈りながらドアを開けると、ベンチに座りスマホを見ている彼がそこにいた。
「やっぱりここにいた!」と声をかけると彼は少し不満そうな顔をしながら私の方を見る。
でも私はそんな彼の表情を見ないふりをして、クラスの友だちから聞いた話を彼にする。
「まー君はさ、兎人間の噂って聞いた?」
「あ?兎人間………?いや、聞いたことないな」
「なんかね?最近噂なんだって、兎人間が出るって」
「何も情報が増えてないだが。わざわざ来て話すくらいならもう少し情報集めてからにしろ」
「あ、えっとねぇ…SNSとかに踊ったりした動画を投稿するでしょ?それの撮影をしてると兎ような人間に襲われるんだって」
とりあえず、話したかったことは話せたので私は持ってきたお弁当の蓋を開けて、食べ始める。
だって、早く食べないと昼休みが終わってしまうからからね。お昼ご飯を食べずに午後の授業を受けるなんて私は絶対無理。
食べながら彼の方に視線を向けるとお昼ご飯と思われるゼリー飲料を片手にまたスマホを見ている。早速兎人間について調べてるのかな?
というか、またそういうやつでお昼ご飯済まそうとしてる。ちゃんと食べないとダメってこの前も言ったのにな……。
食べ終わって「ごちそうさまでした。」とお弁当を片付け始めたときに彼が口を開いた。
「じゃあ、行くぞ」
「それは情報を集めに行く…ってこと?」
まー君は私の言葉を肯定してから扉を開けて、階段を降りていった。私も急いでそれを追いかける。
普通ならこんなおかしな話は誰も信じないだろうけど、私達がこの話を信じたのにはもちろん理由がある。
それは、この街には本当に怪物が出るから。
☆☆☆
金曜日の夕方っていつもと少しだけ街の空気が違う気がする。
なんというか、他の平日の夕方と比べると少し楽しそうな雰囲気があると私は感じる。そんな空気の中で私は噂の兎人間探しをしている。
私はまー君から「駅前を探せ」と言われたから高校の最寄駅周辺をウロウロしている。
あちこちで集めた噂を合わせると「兎人間はSNSに投稿するための動画を撮影している人を襲っている。そして襲われる対象は女子高校生や女子中学生であるである。酷い話によると何人かは病院送りになってる」という感じらしい。
この街の駅前は大都会とまではいかないけど、そこそこいろんなお店があるか若者が多い。だから動画撮影している人も多いだろうとまー君は言っていた。
だけど今日は若者は見かけるのに動画を撮っている人は見かけない。噂が流れているからなのかな。
駅前の広場ならいるかなと思って来てみたけれど、やっぱり若者はいるけれど動画を撮っている人は見当たらない。
そういや、駅前に来るまでに通りかかった公園にもそういう人は見なかった。
「やっぱり噂は本当なのかな」と考えていたそのとき、どこからか悲鳴が聞こえた。その瞬間私は走り出していた。場所も原因もわからないけど、とにかく聞こえた方向に。
☆☆☆
悲鳴が聞こえた場所は商業施設の駐車場みたいで、地上に多くの人が集まっていた。
みんな中の様子は気になるけど、建物の中までは誰も入ろうとしてない。私はその人の集まりをなんとか通り抜けて中に入り、悲鳴が聞こえた階を目指す。
夢中で階段を登っているともう1度悲鳴が聞こえた。
どうやら今いる階から聞こえたみたい。
私は上りかけた階段を降りて、扉から駐車フロアの覗いてみる。
そこからは2人の制服を着た女の子が柵際に追い詰められているのが見えた。
そして追い詰めているのは噂の兎人間だった。このままだと、2人は飛び降りるか痛い目に合うかのどっちか。
まー君には「絶対に1人で戦うな」って言われていたけれど、誰かが痛い目に合うのを見てるだけなんて私にはできない。
スマホで先に用意しておいた「駅前で兎人間発見!!」というメッセージをまー君に送って、私は駐車場フロアに飛び出し、2人のところに向かって走る。
「兎人間!!相手なら私がする!!」
そう叫びながら2人と兎人間の間に立ちふさがって「逃げて!」と声をかける。
そして、私は両手をお腹の上にかざす。大丈夫、心配なんてない。1つ小さく息を吐き私は集中する。
まずは左手の甲にある星座紋章をスタート地点に星力が流れる感覚を確認する。
そして、今は手元にない「Constellation Armor Generate Gear」と呼ばれる装備が腰に巻かれるのをイメージする。
すると腰回りが光り、ギアが巻かれた。
良かった、ギアはしっかりと来てくれた。
次に私はもう一度、左手に刻まれた牡羊座の印に集中する。そして今度は牡羊座のエネルギーの結晶、プレートと名付けられているものを生成する。それをギアの上側から差し込む。
最後に私は左手を真上掲げている左手をぐるっと時計回りで円を描いて、両方の手を肩の高さほどで握る。
そして「星鎧生装!」と叫びながら、ギアの上側にあるボタンを押す。
すると、ギアの真ん中から牡羊座が前に飛び出して輝く。そして私の身体は光りに包まれる。
その光の中で紺色のアンダースーツと紺色と赤色の鎧が生成されていく。
この鎧に包まれた姿こそが私達が怪物と戦うための姿。名前はConstellation Knight、またの名を星座騎士と言うらしい。
「邪魔ヲ……するナ……!!」
「邪魔ってなによ!人の楽しい時間を邪魔するあなたの方が邪魔だと思うけど!」
兎人間の攻撃を避けながら私は反論する。
反撃をしようとするけど、兎人間は凄い速さで蹴りを入れようと襲ってくる。
攻撃を避けながら私は杖を生成して、触れた人は眠ってしまうはずのエネルギーを兎人間に向けて出して反撃する。
しかし、兎人間はそれを軽々と飛び越して私の後ろに着地した。
次の瞬間、私は脇腹に痛みを感じると同時に吹っ飛んでいた。
横向きに吹き飛んだ私は壁にぶつかり、地面に落ちる。
どうやら回し蹴りを入れられて吹き飛んだみたい。
私はすぐに立ち上がり、次の攻撃に備えようとするけれども上手く立てない。
なんとか兎人間の方を見ると、もう既に次の一撃のために飛び上がっていた。私は恐怖で反射的にに目を閉じてしまった。
次の瞬間、何かが壁にぶつかる音がする。でも私はちっとも痛くない。
目を開けると、兎人間はあちこちから生えてきた蔦に縛られていた。そして右手には杖を持ち、私と色違いの鎧を纏った人もそこにいた。
その人は私の前に来ると「早く立て」と言わんばかりに手を差し出してきた。
そう、この鎧を身に纏った人は私の幼馴染の陰星 真聡。
まー君も私と同じように星座から力を借りてる星座騎士。契約したのは山羊座らしい。
ちなみに、順番的には彼のほうが先で私の方が後。
「俺が来るまで待てって言ったよな?」
「だって……襲われていた子が……」
「先に言い訳からか…。まったく、誰かの笑顔が奪われるのは嫌だ…か?」
「そう!」
そう言いながら私は彼の手を取り立ち上がる
すると兎人間も蔦を振り解いていた。
彼が来てくれたから安心して、少し気が緩んだけど私は気合を入れ直す。
彼は水を私は眠ってしまうエネルギー弾を撃ち出す。
兎人間はそれを避け、こちらに向かって蹴りを繰り出す。
私達もそれを避けて、攻撃を撃ち返す。
しかし当たらない。
お互いがお互いの攻撃を避け続けて状況が動かない。そんな中でまー君が兎人間に質問する。
「なぜ人を襲う」
「みんナ…………私ヲ…………私だケ…………!!!」
その質問が嫌だったのか、兎人間はに狙いを彼に絞り距離を詰める。
彼は向かってくる兎人間に水を撃ち出すが、当たらない。
私も援護しようと兎人間にエネルギー弾を撃つけど、やはり当たらない。
そして、兎人間の蹴りの体制に入る。しかし、彼はその動作をに入った瞬間その直前に少し体をそらして、逆に兎人間に足に風をまとった回転蹴りを当てる。
蹴りを外した勢いと彼の蹴りを受けた勢いで兎人間は凄い勢いで吹っ飛んでいく。
ちょうど駐車スペースの壁がないところに吹き飛んだ兎人間は外に飛び出しそのまま落ちていく。
私達は急いで駆け寄って下を覗く。しかし、そこにはもう兎人間はいなかった。
「逃げられちゃったね……」と言いながら私はギアからプレートを抜き取り、普通の高校生の格好に戻る。
すると彼も「あぁ…ミスった…」といいながら同じく普通の格好に戻った。
彼は凄く難しい顔をしている。
逃げられたのがよっぽど悔しかったのかな。
「というか私、1回も攻撃当てれなかったんだけど!」
「知らん。悔しかったらもっと強くなれ。それより、襲われていた人がいたんだろ。探すぞ」
それだけ言うと彼は歩き出す。
私は「待ってよ!」と言いながら相変わらず厳しい彼の背中を追いかけた。
☆☆☆
翌日、土曜日の15時前。
私は今、ようやく来たまー君からの集合の連絡を受けて、まー君の家に向かってる。
あの後、2人を発見して、話を聞くことができた。
やっぱり動画を撮っていたらしい。「駐車場の階段の踊り場なら兎人間も現れない」と思って撮っていたら襲われたらしい。
つまり、どっちの噂も本当だったってことみたい。
というか駐車場の階段の踊り場で踊ってたら流石に邪魔だと私は思うんだけどな…。
そして、一応病院まで2人を送り届けた後に彼は「お前も少し休め。また連絡する」と私に言い残してどこかへ行ってしまった。
ちょうど、まー君の家として使ってる雑居ビルに着いた。
私はいつものように階段を登る。
この雑居ビルの1フロアを彼は全部借りて自宅代わりと私達の学校がないときの集まる場所として使っている。
そういえば、両親が事故で亡くなったって言ってたけどここの家賃は誰が払ってるんだろう…?
そんな疑問が浮かんだけど、今は置いといてドアをノブを回す。
鍵は開いているので私は開けながら声をかける。
「まー君いる?入るよ〜?」
「あぁ、来たか。入れ」
そう言われて私は中に入る。
まー君はホワイトボードに何か書いている。
メッセージが来たときからわかってたけど、きっと今から作戦会議をするんだと思う。
私はホワイトボードを横目に見ながら、明らかに「由衣はここに座れ」と言うように置かれた椅子に座る。
そうするとまー君も書き終えたのか、ホワイトボードの横においてあった椅子に座った。
「脇腹はどうだ。まだ痛むか?」
「問題なし!朝から元気だったから、そんな気を使ってくれなくてもていいのに」
「そうか。しかし、お前は実力不足だから万全以外のときに戦わせて足引っ張られたら困るからな。それに、昨日は俺の判断ミスだ。お前にもしものことがあったら、お前の両親に合わせる顔がない。」
「そっち!?私の心配はしてくれないの!?」
そうツッコみながらも、朝起きたときには少し痛んだからこの時間で助かったと内心思っている私がいた。
それにしても酷い。最近のまー君は口が悪いよ、本当に。優しいのか優しくないのかちっともわからない。
昔はもっと優しくて明るくてもっと笑ってたのに。と、少し頬を膨らませ拗ねてる私を無視してまー君は話を続ける。
「さて、作戦会議を兼ねて今までのおさらいをするぞ。今回の相手だが99%の確率でうさぎ座だろう」
「だって耳生えてたもんね。それにぴょんぴょん跳ね回ってたし」
「そうだな。で、兎座の詳細は覚えてるか?」
「えっと…あの姿だから『
「プトレマイオス48星座な。ちなみに48星座ではある。」
「そう!48星座に含まれているってことは……そこそこ当たり?」
「そこそこ当たりって言うな。まぁ、力が強い星座ではあることには違いないが。」
私達はConstellation Armor Generate Gearという腰に巻く装備と星座と契約することで与えられる『
そして、昨日のうさぎ座のように私達とは違い、自分の体そのものを人間じゃない姿に変化させている人達がいる。
彼はそれに『堕ち星』という名前をつけているらしい。
そうなってしまう原因はなった本人の心がどうとか、誰かに『澱み』と呼ばれるものを入れられてしまうとなるとかどうとか言ってたけど、私には難しくてよくわからない。
『澱み』については恨みとか憎しみとかの人間の良くない感情が生み出す負のエネルギーとか言っていたけれどこれも私には難しい話だった。
だから、最初に一通り説明されたときは頭がパンクしたな…。
それと、前に彼は現在のメインの目標として「黄道12宮星座の力を揃えること」と言っていた。
理由までは教えてもらってないんだけど、私が契約した牡羊座や彼が契約している山羊座とか、星座占いで使われている星座を揃えるのが目標らしい。
兎座はそれには含まれていないけど、プトレマイオス48星座には含まれているから昔からあって力が強い星座ではあるんだと思う。
どうやら古くからあることや認知度とかが星座そのものの力の強さに関係あるとかも彼は前に教えてくれた。
というか、ホワイトボードをよく見たら私が聞かれたうさぎ座の詳細について既に書かれている。もしかして私、頭良くないと思われてる……?
他に書いてあることを見てみると、顔写真が貼られていてその下には「
「あの少ない兎から噂人間の正体わかったの!?」
「いや、お前と別れた後に丸岡刑事から連絡があって情報を貰ったんだ。あと逆になってるぞ、お前。なんでそこが入れ替わる」
「あっ…………。ま、丸岡さんはもう動いてたんだね!!」
「誤魔化したなお前…今回は本当に入院させられた人もいたらしいからな。流石に動かずにはいられなかったんだろう。それと、学年は俺達と同じらしくてな、普段つるんでる奴らからも話を聞いてきた」
「行動…………早くない?」
「これぐらい普通だ」
いや早いでしょ。まだ1日経ってないよ?警察から情報貰ったとしても早すぎると私は思う。
ちなみに、流石の警察でも堕ち星などには無力らしくて、少し前のとある出来事から堕ち星が関係していることは情報を渡す代わりに解決して欲しいって言われるようになったんだよね。
彼は「神秘には神秘じゃないと話にならん」って言ってた。
でも確かに拳銃とかあっても生身じゃ戦えないよ、あれは。
ホワイトボードにはまだ書かれていることがあって、動機とは書かれているんだけど、そこには何も書かれていないことに私は気づいた。
「でも、変化した人のことはだいたいわかったけど、動機についてはここには書いてないけど…?」
「あぁ、そこだけはまだいまいちわからないんだ。そこだけが今回本当に謎なんだ」
「うさぎでしょ………?やっぱり、寂しいと死んじゃうからとか………?」
「それ、嘘らしいぞ」
「え、嘘なの!?」
「寂しさに弱いんじゃなく、ストレスに弱いらしい」
「知らなかった…………」
「まぁ、考えてもわからないことは今は後回しにするか。他には…あぁそうだ、周りから聞いた話と昨日の様子から考えるとただの堕ち星だろうな。情報は何も持っていなさそうだ」
「となると……今回も最後に私の力で魔力回路と澱みを眠らせてうさぎ座の力を回収するって感じ?」
「そうなるな。しっかり頼むぞ」
牡羊座の能力は眠りに関係することらしい。でも戦ってるときに使っても眠らせれたことまだないんだよね。
でも堕ち星となった人の魔力回路や澱みをを私の力で休眠させることはできてるみたい。だから魔力回路を使えなくすることで、堕ち星になれないようにして現在私達は堕ち星になった人達を元に戻してる。
「さて、どうやって倒すかについては………まぁなんとかできる目処はついてる。残るはどうやって見つけるかなんだが………」
「あ、それならいい考えがあるよ!!」
…聞かせてくれ」
そう言われたので私の考えを伝えると、彼はここ数日で1番レベルの嫌なそうな顔をしていた。
☆☆☆
18時過ぎ。
あれから私達はもう少し作戦会議とかあと戦う準備とかして今は街の海沿いの遊歩道にいる。
何をするかと言うと、今から私達は踊ってみた動画を撮るつもり。
「兎座が踊ってる動画を撮影している人を襲うなら、私達も撮影していたら襲われるはずだからそこを迎え撃つ。」というのが私の考え。
別に「せっかく高校生なんだし、楽しい動画の1つぐらい撮りたい」というのを正当化して撮ろうとしてるわけじゃない。違うもん。
本当は広場で撮ろうと考えてたんだけど…流石の土曜日の夕方、そこそこ人がいてまー君があまりにも嫌がるので遊歩道に移動してきた。
私が準備の最後にスマホの撮影設定をして撮影角度を考えていると後ろで柵に寄りかかっている彼が凄く嫌そうな声で話しかけてきた。
「なぁ、本当に俺もやらないとダメか?」
「別に絶対じゃないけど………まー君が一緒に撮ってくれないと私1人が襲われることになるけど?」
「嫌な角度から返してくるなお前」
「別に撮ってどこかに投稿するのが目的じゃないからいいじゃん!撮ってる行為が目的なんだから。それにせっかくだから高校生らしい思い出になるしいいじゃん!」
「あのな、俺がこの街に戻ってきたのは高校生活を送るためでも遊ぶためでもないんだよ。」
「それはわかってるって。でもさ、毎日戦うことばかり考えてると心が干からびちゃうよ?間に楽しいこと挟まないと!」
そう私が言うと「こいつは……」と言いながら彼の視線は彼のスマホに戻った。
どうやら私が「これ!」って言った少し前に流行ってた踊りの振りを覚えようとしてるみたい。
文句を言う割にはちゃんと踊ろうとするんだ…。
何度したかわからない会話をしているとスマホのいい感じの角度が見つかった。
「こっちは準備できたけど、まー君はどう?覚えれた?」
「まぁ、それなりには覚えれたが………はぁ」
「もう!いつまで言ってるの!ほらやるよ!!」
私がそう言うとまー君は柵から離れ、しぶしぶ私の隣に並ぶ。
私がカウントを取り、それに合わせて2人で踊る。
撮影箇所はそう長くない。私は終わるとその部分が終わると、撮影に使った自分のスマホを取りに行って確認する。
「おぉ!結構いい感じ!あ、でも振り間違ってるね」
「仕方ねぇだろ。やっぱカウントじゃ、わからなくなる。ちゃんと音楽流して撮らせろ」
「じゃあ、もう1回撮ろうよ!音楽はまー君のスマホからお願いしていい?」
「…いや、違うだろ。俺達はうさぎ座を誘い出すために、こういうことをしてるのであって動画撮影が目的ではないだろ」
「でもまだ現れてないんだから仕方ないじゃん。」
「そうだが…………」
「というわけで、現れるまでしばらく踊り続けるよ〜!」
そう言うと彼はうめき声みたいなのをしばらく出したあとに「わかった。背に腹は代えられない」と言ったので、私はスマホを置き直して彼の隣に戻る。
私が戻ると、彼はスマホから音楽を流し始める。丁寧に踊るところの少し前の歌詞の所からかけてくれてる。
そして私達はもう1度同じように踊る。
さっきも思ったけど、こうやってみんながしてるようなことをするのは楽しい。
やっぱり、人間って笑顔でいるときが1番だと私は改めて思う。
でもまー君は「これの何が楽しいかわからん」って言うだろうけど。
撮影が終わったので、私はもう一度スマホを拾い上げ確認する。
「うん、バッチリ!今度は振り付けも間違ってないしね!これなら音声を消して、あとから曲をつけたら投稿できるぐらいだよ!」
「おいお前。どこに上げるつm」
彼は途中で言葉を止め、私の方に駆け寄ってくる。
え、何?そんなに嫌なの?と考えると彼は私に飛び込んできて抱きしめ、横向きに転がる。それはまるで、私の混乱する脳内のように。
いや、本当に何!?
次の瞬間、私がいた場所に凄い音と共に何かが落ちてくる。
砂埃で私達は咳き込む。全く何も感じてなかったけど、とりあえず私はまた庇われてしまったらしい。
砂埃の中で彼が文句を言ってくる。
「なんで自分で避けようとしないんだよ!」
「無理言わないでよ!」
「ったく…怪我はないな?」
「うん、大丈夫。ありがと」
ちゃんとスマホも傷ついてないし。もしかして、私を庇うの上手くなってる?
……「そろそろ自分で避けれるようになれ」って言われるのも時間の問題かもしれない。
ちゃんと自分で気づいて避けれるようにならないと…。
瞬間脳内小反省会しながら、立ち上がる。
ほぼ同時に砂埃も晴れる。
私達がさっきいた場所を見るとそこには、堕ち星のうさぎ座が立っていた。
本当に来たんだけど!?
「これ私の作戦が上手くいったってことだよね!?」と言おうと横にいるまー君に視線を向けると既に戦うときの目つきになっていた。
こういう時に言うと、ほとんどの場合で怒られるので私はこの考えをそっと心の中にしまう。
「またあったな兎人間。いや、宇田 美々さん」
「なゼ………私の名前ヲ…………」
「やっぱ当たりか。あんたのことは調べは付いてる。でも、1つだけわからないことがある。質問していいか?」
「なニ………?」
「なぜこんなことをする?」
「みんナ…………私だけヲ………見テ………!!」
「………えっ。もしかして自分以外のSNSに踊った動画を投稿してる人が許せなくてこんなことを!?」
「おいおい………。別にあんた、友達がいない訳でもないだろ。話聞きに行ったら、学校に来ていないことを心配されてたぞ」
「みんナ…………上辺だケ………」
「上辺だけ…か。しかし、その理論で行くとあんたがSNS上の競争相手を排除したあとの視聴数も同じような上辺だけのものじゃないのか?というか、SNSはほとんどが上辺だけの世界だろ」
「うるさイ……うるサイうルサイウルサイ!!!!」
こっちの問いかけに凄く律儀に答えてくれたんだけど……。
でも彼の最後の言葉にうさぎ座は突然ものすごく怒って、彼を狙って蹴りを入れに来る。
私達はそれを左右に別れて避ける。
いや、でも今の言葉は流石に普通の人でも怒る人は怒ると思うよ?だから他では言わないほうがいいと思うんだけど………。
「やはり、澱みによる精神汚染や思考錯乱が進んでるな。力付くで行くぞ」
「…わかった」
自分の発言に問題があるってまー君は多分全く気づいていないよね、これ。
このことは後で言うとして、とりあえず今は眼の前のことに集中しなきゃ。
私達は左手をお腹の上にかざして、ギアを呼び寄せる。そして昨日の夕方と同じ手順でプレートを差し込む。
まー君は山羊座のプレートをギアに差し込むと、自分を中心にした時計の9時に当たるところに左手を上げる。
そして時計回りに一周手を回すと左手をそのまま左に伸ばし、自分の目を隠すように左手を戻す。
最後に「星鎧換装」と言いながらギアの上側のボタンを押す。
私も声を合わせて。
そして、私達の身体は光に包まれる。
ちなみにそれぞれ決めた手順を取らないと鎧は出現しない。
取ることで始めて星力を鎧の形にできるらしい。それだけ難しいとかなんとか。
そして私たちを包む光は晴れる。
まー君を紺色のアンダースーツに紺色と黒色の鎧。
鎧を纏った私達とその間にいる兎座はお互いがどちらが先に動くかを待っている。
兎座はこっちが動かないと考えたのか、まー君との距離を詰め、蹴りの体制に入る。
まー君はそれを右に避けながら右手に杖を呼び出し、その先から火を兎座に向けて撃ち出す。
着地前の反撃に兎座は避けきれず、杖先から出た火が直撃する。
浴びながらも一瞬着地をして、すぐにまた跳躍をされ、またお互いに距離が生まれる。
「これならイケるな。由衣!まずは作戦その1で行くぞ!」
「りょーかい!!」
作戦その1とは兎座の行動の隙を意図的にしっかり狙って攻撃するというもの。…作戦と言うには単純かもしれないけどね。
でも実際、こっちから攻撃を当てようとした昨日は全く当てることができなかった。だから戦い方を工夫しないといけないことは間違いないと思う。
だから今回はこちらからは動かない。向こうが動くのをを待つ。
兎座は今度は私に2回ステップを踏んでからの飛び蹴りで攻撃して来る。
私はそれを後ろに飛んで避けながら、エネルギー弾を撃ち返す。
まー君も同時に火でうさぎ座に攻撃する。
またもやうさぎ座はそれを受けながら体制を立て直し、距離を取る。
「これなら勝てる」そう思った瞬間、視界からうさぎ座が消えた。
そして後ろから感じる殺気。
どうやら低い姿勢で移動し、私の後ろに回り込んだらしい。
後ろに向いたときには兎座はもう回し蹴りの動作に入っていた。
昨日と同じ状況。だけど私はまー君との作戦会議を思い出す。
そう。こうなったときの話を今回はちゃんと先にとしていた。
私は回し蹴りを両手受け止める。
めちゃくちゃ衝撃が来るけど堪える。
堪えながら私は全身の星力を込めて、受け止めた手から眠りのエネルギーを兎座に直接流し込む。
私が受け止めたのを見た彼は杖を両手で持ち体の前に持ってきて言葉を紡ぎ始めた。
「火よ。人類の文明の象徴の火よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、この世に蔓延る澱みを焼き尽くす火となり給え」
そして杖先をこっちに向ける。
すると、杖先からはさっきよりも明らかに桁違いの量の炎がこっちに向けて撃ち出される。
彼は前に私に山羊座の能力について「しっかりと言葉を言ってからの方が強い力が使える」と言っていた。
そっか。だから作戦その2はこの内容だったんだ。
私は炎が近づいてくると、兎座の足を掴んでいた手を離して距離を取る。
兎座は眠りのエネルギーを直前まで入れられていたからか、足を離されてもすぐに動けず炎の直撃を受ける。
そして兎座は炎に包まれる。
炎の勢いは凄く、鎧をつけて距離を取っているのに暑いぐらい。
まー君が杖を下ろし炎が止むとうさぎ座の堕ち星は元の高校生である宇田 美々さんの姿に戻り倒れた。
それを見た私はすぐに駆け寄って彼女の横でしゃがんで、もう一度集中して眠りのエネルギーを流し込む。
すると体の所々に見えた黒い模様はなくなり、首から兎座のプレートが飛び出して地面に落ちる。
上手く行った。
私はようやく緊張が溶け、落ち着いて深呼吸をする。
そこに元の姿に戻った彼がやってきて、兎座のプレートを拾い上げる。
私も立ち上がって牡羊座のプレートをギアから抜き、元の姿に戻る。
「今回は私も頑張ったよね!」
「そうだな。今回は褒めてやる。よくやった」
「やった!!」と私は両手でガッツポーズをする。彼が褒めてくれることはなかなかないので今回素直に褒めてくれたのは本当に貴重だと思う。
……普段からもっと褒めてくれたっていいのに。
でも、彼が先に作戦2として「避けられない攻撃が来たなら掴んで離すな」と言っておいてくれたから、まー君があの炎を準備する時間を稼げた。
だから、活躍できたのは彼がするべきことを先に言ってくれたからなのは間違いない。
つまり、私はまだ完全に1人では戦えない。
でも今回ので「私だってただ足を引っ張ってるだけじゃもうないんだ」って少し自信がついた。
私が喜んでいる横で彼は私に気にもかけず電話を誰かにかけていて、もう終わっていた。
「とりあえず、宇田さんは病院に搬送してもらう。後はやっておくから、お前はもう帰っていいぞ」
「え〜…。今日はまだ元気だからついていくよ?」
「何時になるかわからんぞ。」
「いいよ!私だって戦うこと以外も覚えたほうがも助かるでしょ?」
彼は少しの間の後「好きにしろ」といいまたどこかに電話をかけ始めた。
その後、病院や警察など全部が終わったときに時計を見たら、21時を過ぎていた。
ちなみに、途中で食べたコンビニのホットスナックはとても美味しかった。
☆☆☆
週末が終わって、月曜日の昼休み。
私は今日も今日とて屋上への階段を登ってる。
昨日は特に何も彼から連絡が来なかったので、その後の話は何も聞いてない。
だから私はゆっくりと話すために今日のお昼ご飯は屋上で食べることにした。
扉を開けると、今日も昼食にゼリー飲料を選んだらしい彼がベンチに座っているのが目に入ってきた。
「おっつかれー!」
「何だお前か」
「なんだって何よ。で、あれから宇田さんはどう?目を覚ました?」
「あぁ、昨日には目を覚ましたから話を聞いてきたぞ。動機はSNSでの投稿の伸び悩みって言ってたな。
「やっぱりそうなの!?でも、それだけで人を襲うなんて………」
「まぁ、澱みは負の感情を増幅させるからな。それが堕ち星の恐ろしいところだ。でも、きっとそれだけではないだろう。彼女が堕ち星となっていたときに言っていたことから考えるに、彼女は人との関わり方とかにも問題を抱えているのかもな。でもまぁ…それは彼女がこれから解決する問題だ。俺達の役割は人の手に余る力を、人の手から切り離すことだ」
彼は前に私達の力の使い方について「この力は人が及ばないものと戦うために使いうものであって、人に向けていいものではない。それ以外のことは個人がなんとかするべきことだ。」と言っていた。
確かにこの星座の力は強すぎる力であって、人に向けていいものじゃないことは間違ってないと思う。
でも、だからといってそれ以外のことを放置してもいいのかな。
難しすぎる問題で、今すぐに結論が出ない。だから私は彼の言葉を「そっか………そうだよね」とひとまず肯定し、話を続ける。
「ところで…宇田さんをそうした犯人については?」
「残念ながら今回も収穫はなしだ」
「そっか………」
今回も何も収穫がなかった。
今の私達は敵の目的もわからないし、誰を倒せば戦いが終わるのかも確信がない状態で戦っている。
だから少しでも情報を集めたいんだけど……今回も駄目だったらしい。
とりあえず、お昼は食べないといけないから私は「いただきます」と言って、お昼ご飯のお弁当を食べ始める。
食べていたら、もう1つ話したいことがあったことを思い出したので飲み込んで彼に話しかける。
「ところでさ………また動画撮らない?」
「は?なんでだよ。もうその必要もないだろ」
「必要はないけどさぁ………楽しかったしもう1回撮らない?それにまー君上手だったからきっと、バズるよ!」
「嫌だね。撮りたいなら1人でやれ。」
「なんでよ〜!!」
「肩掴んで揺らすな。というかお前、そんなこと言ってる暇があるなら小テストは余裕なんだな?」
「えっ………何の………話………?」
「次の授業、前回小テストやるって言ってたぞ。この時間にそうやって過ごしてるってことは今回は珍しく余裕なんだな」
私は彼の肩から手を離す。
彼の右手を見ると確かに次の授業のノートが握られている。
私は焦りながら前回の授業について思い出す。
うん、確かに言ってた。次の授業は小テストするって。
…私何も対策してないんだけど。たしかにこんなこと言ってる場合じゃない!?
「ちょ、ちょっとお弁当見といて!私ノート取りに戻ってくる!!」
私は彼にそう言い残して慌てて校舎内に戻る。「やっぱり忘れてただけかよ」という彼の呆れた声を背中に受けながら慌てて階段を降りる。
こうして、兎人間の事件は幕を閉じて、私達のいつもの日常がまた始まった。
ちなみにこれからいろんな人や星座との出会いがあったりするんだけど…………それはまた別のお話。
星座の力を手にした高校生達と兎人間 Remi @remi12
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