第9話・女子高生、魔導の神髄を知る
まさかまさかののジャージ下校。
図書室での私の失態については、どうやら
さすがは異世界の大賢者の魔法、恐ろしいほどの効果ですけれど。
ただ、周りの人の私に対しての認識が薄れていくだけであって、私の羞恥心については消滅するわけではありません。
ということで急ぎ破れてしまった制服を回収したあとは、閉館時間までカウンターで沈黙。
図書貸し出しや返却の手続き以外は、黙って小説を読み続けています。
「……この魔法って、本当に私についての興味が失せてしまうのですね」
『まあ、人の深層心理の中にある、外部認識の部分から杏子という存在を希薄にしただけじゃからなぁ。また、そこに上書きされるレベルの強烈な出来事が発生したら、また杏子のことを思い出すじゃろうなぁ。もっとも、過去の出来事の上に上書きされる形になるから、三日間ダイエットとか図書室全裸事件についてはもう大丈夫じゃよ』
「ぶり返さないでください!!」
私自身も、どうにか忘れようとしているのですから。
そのあともずっと、カウンターに座って終了時間を待っていました。
そしてようやく終了のチャイムが鳴ったので、急いで後片付けを終えると、そのままバスに飛び乗って帰宅です。
はぁ、早く制服を直さないと。
………
……
…
――中原家
「只今~」
無事に帰宅した私は、まっすぐに自分の部屋に戻ると、急いで普段着に着替えます。
これから、このびりびりに破れてしまった制服を修復しないとならないのですから。
「ギュンターさん、これからどうすればよいのでしょうか?」
『まあ、簡単に説明すると、物体修復の魔法を使う。これは
ギュンターさん曰く、この魔法については、成功率がかなり低く彼の知っている魔法の中でも、かなり難易度が高いそうです。
・破損した物質の部品が、全てそろっていること
・それを長時間使用していたものが、術式を唱える事
たった二つの制約ですけれど、とにかくこの二つの条件をクリアしていることが大切だそうです。
『物質にも精霊が宿るということは理解できるか? まずはそこから説明しなくてはならないのだが』
ギュンターさん曰く、全ての物質には精霊が宿るそうです。
この精霊とは、私たちの世界でいうところの魂、つまりいかなる物質も付喪神のようになりえるそうですが。それは付喪神のように動くことは無く、記憶を持った存在となるそうです。
物質が宿主であり、その中に宿る精霊は物質を媒介して成長し、やがて自然界へと開放される。
私の来ていた制服だって精霊が宿っているそうで、その精霊の持っていた物質の記憶をもとに、破損個所を修復することができるとか。
それを手助けするのが、
「……な、なるほど。つまり難易度が高いのですね?」
『いや、わしが使う分には大したことは無い。ただ、杏子でなくては制服をもとには戻せない。そしてこの術式には、すべての法印を回す必要がある』
「全ての法印……って、それって!!」
つまり、頭、胸、下腹部、両肩、両肘、両手、つま先の10個すべての法印を覚醒させなくてはならないということで、つまりは、衣服を着ていると大変危険なのですね。
はぁ、また全裸で魔法を使わないとならないのですか。
『つまりは、そういうことだな。しかし……この世界の衣類にも、精霊が宿っていれば魔法を使うたびに損耗することは無いのだけれどのう』
「え、そうなのですか? それって、どうすれば精霊が宿るのでしょうか。私の普段来ている服にも、精霊が宿りますか?」
『それはやって見ない事には分からない。が、まずは制服を直すところから始めようか。
意識下で、ギュンターさんが私を見ないように後ろを向いているそうです。
でも、私からはその姿は見えないのですよね。
「ふぅ。それでは……
――シュンッ
一瞬で、私の右手に巨大な魔導書が現れました。
これは手に持たなくても、私の意思で宙に浮かべることが出来ます。
術式によっては両手を使って印を紡ぐ必要があるので、そういう仕様なのでしょう。
「ふぅ。それじゃあ……と、先に服を脱ぐのですよね……と」
万が一のことも考えてカーテンをしっかりと閉じて、と。
「はぁ。まさかこんな昼間に、自分の部屋で全裸になって魔法を使うとは思っていませんでしたよ」
『まったくだな……』
「もう、ギュンターさんはこっちに意識を傾けないでください、本当に、もう……」
さて。
魔導書を開いて、
うん、頭の中に術式のすべてが浮かび上がるので、あとは魔導書とリンクして体内魔力を循環します。
「はぁぁぁぁぁぁぁ……っ、この世のすべての精霊よ、わが前に集いて力を示しなさい……」
――コンコン
ああっ、お母さんがドアをノックしています。
「はーい、どうしたの?」
『これからお買い物に行ってくるけれど、何か買ってきて欲しいものってある?』
「んー、大丈夫だよ、気を付けていってきてね」
『はいはい。それじゃあね……あ、あとで制服を洗濯するので、洗面所にもっていってね。替えはクリーニングから戻ってきているからね』
「は、はいっ、あとで洗面所に持っていきます!!」
はあ。
詠唱が止まりましたよ。
まさか制服を洗うなんて言うとは思っていなかったので、もうドキドキものですよ。
でも、魔法の詠唱を止めてしまったので、一からやり直しですよね。
早く制服を直さないといけないのに……。
『ふむ、詠唱を中断したか。では、もう一度じゃな』
「ですよね……はぁ、それじゃあ、いきます。この世のすべての精霊よ、我が前に集いて力を示しなさい……わが名前、中原杏子の」
――コンコン
『杏子っち、ちょっと相談に乗って欲しいんだけれど、入っていい?』
「ふぇ、ど、ど、ど、どうして古都華がそこにいるのよ!!」
どどどどうして私の部屋の外に古都華がいるのですか!!
黙って入って来たの? いや、古都華に限ってそんなことはしない筈だけれど。
『ん、ちょうど私が来たときにさ、玄関でお母さんとばったりあってね。どうぞ上がってって言われてさ。はいるよ~』
「はうあ、だ、駄目です、着替えているので待ってください!!」
『あ、そういうことね。そんじゃ、ここで待ってるよ~』
はあ、こ、こんな緊急事態が発生するなんて。
これは全く想定外ですよ。
急いで着替えて、カーテンも開きます。
そして窓を開けて換気も整えてから、古都華に入っていいよと声を掛けましたよ。
「あ、ありがと~。それでさ、ちょっと相談なんだけれど」
「はいはい、どんな相談なの?」
そう問いかけると、古都華が困った顔をしつつ、自分の胸を手で持ち上げて、ゆっさゆっさと揺さぶっています。
「これがさぁ。ちょ~っと大きすぎたかなぁと思ってね。例の中国三千年の秘孔とかでさ、適当な大きさに調節でき……へ?」
「はぁ、そういう話ですか……」
仕方がないので、目の前に浮かんでいる魔導書……って浮かびっぱなしだったぁぁぁぁぁ。
そこに手を伸ばした時、古都華の目がぱちくりとしていましたよ、なんか信じられないようなものを身ったていう顔をしていますよ。
だから慌てて本を手に取ると、急いで閉じて机の上に置いておきました。
「ね、ねえ杏子、今さ、その本って浮いていたよね?」
「う、うう、浮いていたかもねぇ……ほら、最近はて、手品に興味が出てね、ちっょと色々と練習していたのよ」
「中国三千年の秘孔を使えるようになったと思えば、今度は手品なの? さっきの本が浮いていたのって、どういうタネ?」
「それは秘密ですよ……と、大きくなり過ぎた胸を少し小さく……できるのかなぁ」
そう思いつつ頭の中で、ギュンターさんにヒントを貰いましょう。
『ん……杏子が痩せた魔法で、体型は自在に調節可能。それこそ骨格の作りすら操って、男性のような外見にもなれるし、子供にも老人にもなることかできるが』
「それだ!!」
「え、なにがそれなの?」
思わず大きな声を出してしまいましたけれど、つまりは私が使ったあの魔法で古都華の体型も自在に操れるっていうことですよね。
それじゃあ、とっとと施術してしまいましょう。
ツイン・ドライヴ~異世界転生した大賢者、女子高生に同居する~ 呑兵衛和尚 @kjoeemon
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