第8話・女子高校生、慌てすぎて全裸になる

 昨日は酷い目に遭いましたよ。

 

 古都華に痩せる魔法を使った後、私たちは温泉コーナーに逃走。

 汗を流して綺麗に体を整えたのち、私服に着替えてアナベル・キングダムを後にしました。

 どうやら私の瘦身術を見ていた女性がいたらしく、その秘密を知るためにアナベル・キングダム中を走り回っていたとかで。

 Twitterにそのことが面白おかしく書かれていましたよ。


 そして今日は、運命の身体検査です。

 私はあらかじめ、少し肌着やシャツを厚着して登校。

 身体検査の時はそれを全て脱いで完璧で究極なボディラインを大公開……とはなりませんよ。

 ええ、私のような陰キャに片足突っ込んだような文学系少女は、更衣室の片隅でこっそりと着替えてタオルで体を隠しましたからね。

 

 身体検査の場所が畳敷きの『格技室』ということもあり、脱衣所もシャワーも完備していますから。

 

「うわ、古都華ってそんなに痩せていたっけ?」

「嘘、金曜日まではそんなに痩せていなかったよね? 一体、どうやったら3日で痩せられるのよ?」

「私にも教えなさいよ、言い値を支払おうではないですか」


 などなど、女子の視線はわがままな体に仕上がった古都華に釘付け。

 ということで、私もこっそりと身体検査を受けましたけれど、隠しきれるものではなかったようで。


「あ、杏子まで痩せている! 貴方、金曜日までの残念な体型はどこに置いてきたのよ!!」

「え、えへへ……着ぶくれしていたのかな……あは、あはは……」

「嘘仰い!! 体育で着替えるときにも貴方の身体はしっかりと確認していたのですからね。あなたと言い古都華といい、その痩せる秘密は一体なんなのよ!!」


 ははは。

 誤魔化しきれるものではないようで。

 

「えええっと、私と杏子はね、日曜日にとある整体にいってきたのよ。閉店セールということで半額だったのですけれど、その時にここまで痩せることが出来ますよって体を仕上げて貰ったの。でも、私たちが施術してもらつたあとで閉店したし、今日はもう引っ越ししてしまってそこは無いと思うわよ?」

「マジですかぁ……」

「くっ、この幼児体型をどうにかできるチャンスだと思っていたのに」

「あのね、彼氏がね、巨乳好きらしくてね、私の胸を見て、こっそりため息をついているのよ」


 はぁ。

 そんな彼氏は別れてしまいなさい。

 まあ、そんなこんなで身体検査も無事に終了。

 私は変装を止めて、堂々と綺麗に痩せた体を隠すことなく授業を受けることになりました、めてたしめでたし。


………

……


――数日後の放課後・図書室

「ですから、私が痩せた秘訣なんて知りませんよ。たまたま整体師の方がうまく施術してくれた、それで終わりですって。次の方……」


 図書室にやって来た大勢の女子。

 でも、その大半は本を読むためではなく、私と古都華の急激なダイエット術についての秘密を探るためのようです。

 だって、用事もないのにカウンターにやって来ては、こっそりと『痩せた秘密、教えてください』って問いかけてくるのですから。

 本当に、これじゃあ図書委員としての仕事に支障が出てきますよ。


(ギュンターさん……助けてください)

『そうさなぁ。まず一つ目、この世界には魔法は存在しない。だから、たった3日でそこまで痩せたとなると、絶対に誰もが興味を持つに決まっている。二つ目、女性の美への追及というのは、決して枯れることは無い。三つ目、人の口に戸は立てられぬという諺がねこっちの世界にはあるようじゃの』

(つまり?)

『手遅れじゃな……ということで、魔導書の35頁を見てみるがよい』


 え、魔導書の35頁ですか?

 そう思ってケテルの法印に意識を集めて、そこに封じられている魔導書を開きます。

 そして指定されたたページを見てみますと、一つの術式が書き記されていました。


(え、資質忘却カリスマレス? これって……ああ、そういうことですか)


 そこに記されていたのは、人々の意識を逸らす魔法。

 性格には、興味を持った対象から興味を失うというものらしいのですけれど、これを私に使うことで、私が痩せたことについて周囲の人たちは興味を持たなくなるそうです。

  

『今、クライメイトや学生の皆は、杏子が痩せたことについて興味を持っている。その魔法は君についての興味を失うことなので、恐らくは痩せたという事実すら、人々にとっての興味ではなくなるはずじゃ』

(そ。それは凄い……この術式を唱えればいいのですね、ティファレト、イエソド、マルクト、コクマー。四つの法印にて、わが身に刻まれた業を打ち消したまえ……カリスマレス……発動!!)

『よせ、今はまずいぞ!!』


 え、ギュンターさん、今、何かいいましたか?

 私は今のこの状態を、一刻も早く解消したいのです。

 そう思った瞬間。


――ビリビリビリビリィィィィィィィィィィィィィィィッ

「え……」


 わ、私の制服がずたずたに破れ、裸になってしまいましたけれど……って、嘘でしょぉぉぉぉぉ!


「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


 慌ててカウンターの下に引きこもります。

 そして私のその姿を見て察した女子図書委員が、大慌てでタオルやジャージを以て走って来てくれました。


「一体どうしたの、いきなり全裸になるなんて」

「さ、さあ……なんでしょうね……」

「まったく。早くタオルで体を隠して、司書室で着替えてきてください!!」

「はっ、はいっ!!」


 大急ぎでタオルを体に巻き付けて、司書室に移動。

 よし、司書の先生はまだ職員室らしいので、私はそこに誰もいないのを確認すると大急ぎで着替えます。幸いなことに今日は体育があったので、自分のジャージもありましたから。


「ぎ、ギュンターさん、これは一体どういうことですか!!」

『どうにもこうにも、わしは止めたぞ。そもそもあの術式を見て、どうして衣服が吹き飛ばないと思ったのじゃ、胸元、下腹部。両肩の法印を全力でぶん回したのじゃぞ……』

「そ、そうでした……って、

って、私、図書室で全裸になって裸まで見られたじゃないですか!! うわぁ、もうお嫁にいけない、人前に出られない……」


 このまま、泡になって消えてしまいたい。


『心配するな、杏子の衣服がはじけ飛んだ瞬間に術式は発動している。つまり、今頃は杏子が全裸になったことなど、誰も興味を持っていない筈じゃよ』

「ほ、本当ですか……嘘だったら、次の日曜日の私のレンタルは無しですからね」

『よかろう!!』


 そう言い切ったので、私は着替えたのち、こつそりと司書室から出ます。

 そしてカウンターまで移動して、床に散乱している私の制服を回収していますけれど、誰も私の方を見ていません。

 さっきタオルを貸してくれた子だって、私が司書室から出てきたときにちらっとこちらを見ていましたけれど、すぐに仕事に戻ってしまいました。

 

 これが魔法の凄さなのですか。

 

「本当だ……ギュンターさんのいう通りです」

『そうじゃろう?』

「でも、制服が破けたことについては、どう説明したらいいかなぁ……絶対に問い詰められるし怒られるに決まっていますよ」


 ここ、重要。

 もともと私の制服は少し大きめ、3年生までは買い替える必要がない感じだったのですよ。

 しかも、ブレザーとスカートは予備を込みで二着ずつしかありません。

 つまり、ワンセット丸々消滅したのですから、どうやつてお父さんたちに説明したものか。

 そんなことを考えつつ、破れた制服はジャージ袋に詰め込みます。


「はぁ……絶対に怒られる」

『まあ、それなら魔法で修復するか? 今は無理じゃが、家に帰ったらその術式も教えてやろう』

「本当ですか!! そんな魔法があるのでっておっとっと」


――シーーーッ

 つい大きな声を出してしまったらしく、別の図書委員に怒られました。

 でも、魔法で制服が修復出来るというのは、本当なのでしょうか。

 もしもできるとしたら……これは革命的ですよ。

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