7話 少しの休息
「・・・あっちぃ」
義足から血が噴き出し、体も限界だったボロは地面に仰向けに倒れた。
ボロの義足はリミッターを解除すると、出血量が増えるほど力の出力が上がり血液の温度と血流が上昇する。
血流が上昇することで義足の力も増幅されるため機能を停止するか、ボロの血液がなくなるまで半永久的に出力は上がっていく。
しかし排熱機構を備えていないため、機能停止後も体の熱は籠り続ける。
降り落ちてくる雨が義足に触れるたびにジュッと音を立てて蒸発していく。
冷たく降りやまない雨は今のボロにとっては心地よいものであった。
目を瞑り周囲の音に耳を傾ける。
パラディンは獲り逃がしてしまったが、増援との到着によって敵兵は制圧されたようだ。
周囲から救護兵たちが医療用車に運ぶ音が聞こえた、アメリア達は果たして無事だろうか。
静かに地面に身を預けていると体に降り注いでいた冷水が止まった。
雨が止んでしまったのか、そう思い目を開けるとそこには傘を差した白衣の女がボロを見下ろしていた。
「…なんでヒサギがいるんだよ。」
立っていたのは、ボロに義足をつけた技術者デミ=ヒサギ・ラヴァットだった。
技術部長となった彼女は中央支部で働いているため、本来ならこんな辺境の戦地にいるはずのない者である。
ヒサギはため息をつきながらしゃがみ、ボロの顔を覗き込む。
「おめぇが倒れたときに治せるのは私だけだろうが。馬鹿野郎が。」
そういってヒサギは救護隊を呼びボロを担架に乗せる、そしてほかの負傷兵たちとは違う車両に運ばれる。
「お前はここにある設備じゃどうにもならん、応急処置をして本部に運ぶ。」
ボロを車に乗せた後ヒサギは手際よく応急処置を始める。
「うわぁ…肩からめっちゃ血出てるよ、お前深く刺しすぎ。」
脚と腕部は感覚がほとんどなくなっているため、痛みは感じない。
「体も熱いし、排熱がやっぱり問題だな。おい、聞いてんのか。」
そう言って保冷剤を頭の上に置かれる、ひんやりとしていて気持ちがいい。
「聞こえてるよ、出血より先に体が焼け死にそうだ。それに第二世代兵装、あれは脆すぎる。」
「んな贅沢言うなよ、あれはお前ら程強くすることを想定してないの。」
車が発進する。応急処置は終わったようだ。
「動けそう?」
「無理、体に力が入らん。」
「パラディン、強かった?」
ボロはヒガン=リュコーディアスの斬撃を思い出す。
「あれは、人の力じゃない。あれで聖騎士を名乗るんなら馬鹿な話だ。」
「はへぇ~そこまでか、まぁ義足の損傷と落ちてた装備の破片からだいたいわかるけど。」
頭を動かして義足を見ると、ところどころ装甲が裂け、中の人工筋肉が見えていた。
「はぁ、見なきゃよかった…。」
「フッ、義足になる前の方がひどかったよ。」
敵兵を救いボロは右足を失った。その時は、足が膝まで血にまみれ壊死に近い状態になっていた。
「思い出せないでくれ、あれ結構ショックだったんだから。」
その後ヒサギと他愛も無い話をし、体温も無事に下がり緊張が解けたのかボロは眠りについた。
―-------------------------------
目を開けると横には血色の悪いヒサギが立っていた。
「おや、お目覚めかい。」
「ここは?」
「本部の医務室だよ。」
「無事に着いたんだな」
「そうだね、体は?熱くない?」
体に熱のこもっているような感じはしない、
「あぁ、むしろ涼しいくらいだよ。」
体を起こす、どうやら体の感覚も戻ってきているようだ。
「なにかしたのか?」
「君が寝ている間にあらかたの治療と修理はやっといた、あとは自己回復待ちだね。まったくどんな戦いをすればそこまでボロボロになるのさ。ストックの輸血液だけじゃ足りなかったから私の血を抜いたんだから。おかげでふらふらだよ。」
そう言ってヒサギは椅子にもたれかかるように座る。
「それは申し訳ない、」
「感謝の言葉は?」
「ありがとう。」
「よろしい。」
二人して天井を見上げる。
「知っている天井だ。」
「あいにくでっかい人造兵装はないんだ。」
「そんなのあったら勘弁だよ。」
「これから大変かもね、色々と。」
「だろうな、」
「今日はもう休もうかな。」
「あぁそれがいい。」
ヒサギは俺の寝ているベットに入り込む。
「おい、」
「いいじゃん、私もふかふかベットでたまには寝たいんだよ。」
「ほかにベットあるだろ。」
「ちがうよ。」
そう言ってヒサギは義足に足を絡めてくる。
「この義足の脈動を感じると気持ちがいいのだ。」
「・・・きもちわりぃ、」
「はっはっは、義足ちょん切るぞ。」
「勘弁だよ…。」
そしてそのまま眠りについた。
次に起きたときに様子見にきたウィルドマンに冷たい視線で見られるのはまだ知らぬ話。
IronBlood-FakeLeg 雨廻アノヒコ @UkaiAnohiko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます