6話 熱を操る化物

『全隊員に通達、パラディンと接触。現在モーガン隊員が交戦中!』


『ボロ出番だ、』


 通信機からはウィルドマンの声が聞こえる。

 眼下に見える砦の周辺には砦を囲むように兵士が待ち伏せていた。


『見えてますよ。やっぱり最初から行くべきだったと思いますが。』


『パラディンかどうかの確認のためにもアメリア達が頑張ってくれたんだろう。準備はいいか。』


『準備はできてますけど、面倒そうなのが一人。』


 砦を囲む兵士の中で一人だけこちらを向いている男がいた。


『無視して飛べばいいじゃん』


『いや、もう手遅れかと。』


 ロボの目の前には5機の滞空兵器が迫っていた。


『隊長、兵装の許可を』


 ボロは脚を広げ、飛び出せる体勢に入る。


『おう、暴れてこい。』


 ボロは目の前の敵機へと飛び出し一機を別の機体の方へと蹴り飛ばす。

 後ろに回ってきた二機が砲撃を仕掛けてくる。

 ボロは砲弾を蹴り上に跳躍する、そのまま上から手に装備したメカグローブで滞空兵器を一機撃墜する。墜とした機体の部品をサッカーボールのように蹴り上げもう一機にぶつけ破壊した。


「あと一匹」


 ボロは周囲を見渡す。残った機体は滑走路の端に逃げていた。


 残りの機体を落とせば、ボロは砦まで飛べなくなることに気づく。

 それを承知したうえでボロは滑走路を駆け、そして跳んだ。

 滞空兵器を空中で捉え砦の周囲を囲う敵兵に向けて蹴り飛ばす。


 軽い爆発とともに敵兵の陣形が乱れる。


 蹴った勢いでもう一度跳躍したが、砦の前で地面に着地する。


 着地した瞬間敵兵に囲まれる。


「貴様か、ヴァニルに巣食う下劣な化け物というやつは。」


 周囲を一掃すると、エーシルの紋章の書かれた鎧を身に着けた長身の男が剣を抜きながら歩いてきた。先ほど一人だけでこちらを見ていた男だ。


「俺はあんたのこと知らないんだけど」


「ふんっ、貴様のような化け物に冥途の土産に教えてやろう」


 そう言って騎士は剣を地面に突き刺し、自信の満ちた顔で声を上げる


「我が名は!!オーn---

 ボロは問答無用で攻撃を仕掛ける。

 力のままに騎士を蹴り飛ばす。


「ぶがぁっーっ」


 間抜けな声を上げながら男は地面に転がるも、男はすぐに立ち上がり剣を構えた。


「私の言葉を邪魔するとは、やはり下劣なものだ。滅さねばならぬ。」


「知るかよ、」


 ボロは瞬時に間合いを詰める

 しかし拳を構えたとき目の前に剣先が迫っていた。


「遅い!!!!!!」


 すんでのところで突きをかわし、そのまま振り下ろされる剣を義足で弾き後ろに跳び体勢を立て直す。


「貴様の攻撃は見えている。このオーナー=クリメントスにはな!!!」


 クリメントスが名乗りを上げると同時に砦内部から大きな衝撃とともに頑強な砦の壁が崩壊した。


「あれでは貴様の仲間は無事ではすまんだろうな。貴様もあの世に送ってやろう。」


 そう言ってクリメントスは突きの構えを取る。


「茶番に付き合ってる暇はない。」


 義足に熱が籠る。

 ボロはクリメントスめがけて正面から飛び込む。

 クリメントスは構えた剣を撃鉄のように押し出す。


「遅いと言っているだろう!!!」


 ボロは姿勢を低くし全身を使いサマーソルトのように足を振り上げる。 

 義足が触れた瞬間クリメントスの剣は溶け、そして折れた。

 体勢の崩れたクリメントスの腹を全力で蹴る。


 クリメントスは門の前にいる兵士たちを蹴散らしながら砦の奥まで飛んでいく。


 壁が崩れ瓦礫にまみれた砦の中には大量の死体が転がっていた。

 砂埃が晴れた奥からドレス姿の女が出てくる。その後ろには、アメリアとモカが倒れていた。


「君が噂の化け物とやらかな?」


 ドレスの女はにっこりと笑い首を傾げる。


「私はヒガン・リュコーディアス。君は?」


「…モーガンはどこだ、」


「ん?あぁ、そこだよ。」


 そう言ってヒガンは壁の方を指さす、その先には崩れかけの壁にもたれるように倒れているモーガンも姿があった。


「死んでないから大丈夫だよ。彼らよかったよタフで頑張ってた。」


 言葉が終わりきる前にボロは跳躍し脚を振り下ろす。


 金属のぶつかり合う音が響く。


「次は君が質問に答えてよ。君は何者なのかな」


 ヒガンは剣を一薙ぎし、距離とる。


「お前に見えるとおりだよ。」


「じゃあやっぱり君が第一世代の兵装持ちだね。」


 ボロはヒガンの持っている剣を観察する。

 見た目は普通の直剣と変わりないが鞘は石英を切り出したような素材に植物のような装飾が施されており、中央には六角形が3つ重なったような模様が浮き上がっている。


「そういうお前はパラディンだな。」


 ボロはヒガンを見据える。相手に動く気配はない。


「思ったより話が通じるようで助かるよ。人の道を外れた頭のおかしい化け物って聞いてたから、人の言葉が通じるようでよかったよ。」


 再び金属音が響く。


「急に仕掛けてくるのはどうなんだい。」


 ボロは攻撃を続ける。ヒガンは鞘から剣を抜くそぶりを見せない、ボロは攻撃を弾いた瞬間に鞘を掴み体を横に振りヒガンの背後にまわる。


「ありゃ、こりゃまずい。」


 そのまま脚を一薙ぎし、直撃したヒガンは壁の方に飛ばされた。


「綺麗なドレスが汚れて喪服みたいに真っ黒だぜ?」


「だったらそれは君の葬式のためのものだよ。」


 ヒガンはドレスを脱ぎ、中に着用していた鎧が露わになる。

 質感は第二世代兵装のものに近くしかし、体には鞘と同じような装飾が施されている。兵装とはちがい純白の鎧を身に包んだヒガンは、なるほど聖騎士といった空気を纏っていた。


「そんなに見つめるなよ照れるだろっ」


 鞘の先が頬をかすめる、


「くっ、」


 ヒガンは連続で斬撃を繰り出す。鞘に収まっている状態ではあるがその速さと威力は武器として申し分のないものであった。


 斬撃と斬撃の合間を見てボロは蹴技を仕掛ける。

 義足と鞘がぶつかった瞬間---

   

    空気が凪いだ。


「んなっ、」


「今度はこっちの番だね。」


 ヒガンは鞘を腰の位置で固定し抜刀の体勢に入る、それは極東から伝わりし神速の抜刀術、居合の構えであった。


 一閃 

 鞘から抜かれた刃は1つの弧を描き、その軌跡をなぞるように半月の斬撃が発生する。


 ボロの体に衝撃が走り、目の前が煙を瓦礫で溢れる。

「がはっ、」


 ----------------------


『-----ッ

『---ロッ

『ボロッ!!聞こえるか!』


 雨が額にぶつかる。


 目を開ける、どうやら気を失っていたようだ。耳鳴りがひどく、ゆっくりと体を起き上がらせる。


 体を見ると身に着けていた第二世代兵装が壊れており、前を見ると数メートル先にヒガンが立っていた。


「おっ、起きた。気絶していたのは数秒だけだよ。」


「なぜとどめを刺さない。」


「観察だよ。耐久力も知っておくべきだし、殺すことで何か起こる可能性もあるからね。」


「なるほどな・・、」


 ボロは体に着けていた装備をすべて外す、そのどれもが破壊されており相手の攻撃力の高さを実感する。

 ロボは最後に腰のローブを外した、中からは今まで隠していた黒鉄色の義足が現れる。一部が朱色に発光し溶岩が流れているようである。


「それが第一世代の兵装ってやつか、でもそんな光るだけのガラクタじゃ私には勝てないよ。」


『ウィルドマン、ボロだ…リミッターを解除する。』


『生きてたか、・・・了解だ。今医療班をそっちに向かわせている。そしてあと少しすれば本部からの増援が到着する。それまで持ちこたえてくれ。』


『了解、』


 ロボは短剣を取り出し自分の肩に突き刺す。

「っぐッ、」

 肩から血が流れると同時に義足がドクンと脈打ち始める。


 義足がだんだんと熱を持ち始め、体の血流が速くなる。血は熱くなり、体の中を溶岩が流れているかのような錯覚に陥る。


 落ちる雨水が義足に触れた瞬間、蒸発した。


「ただの自傷ではないようだね。君の能力はただの身体能力の強化じゃないのかな。」


「お前のそれ、遺物ってやつだろ。そしてそれは鞘で受けた攻撃を抜刀時に打ち返す。まさか直剣で居合ができるとは思わなかったけどな。」


 ヒガンは感心したように眉を上げる。


「よくわかったね、これは全てで10ある遺物のうちの1つ。でもそれが分かったところでなにができるかな。」


 ヒガンは剣を鞘に戻し防御の姿勢を取る。


 ボロは義足が体の一部となったのを感じ、そのまま脚を踏み出す。


 一瞬でヒガンの前に移動する、力まかせに足を振りぬく、

 ヒガンはその攻撃を難なく受け止めボロを弾き飛ばす。


 ボロは瓦礫を拾いそれをヒガンに向けて蹴り飛ばす。

 瓦礫は義足に触れた瞬間に溶け、溶岩の玉となって標的に襲い掛かる。


 ヒガンは最初は弾ききっていたが、溶けることで分裂する溶岩の雨を捌き切るのは容易ではない。


 ヒガンは抜刀の体勢に入った、それを見たボロは一気に間合いを詰める。


 刃を抜ききる瞬間に渾身の蹴り技を合わせる。

 抜刀による斬撃のエネルギーは放たれることなく義足とぶつかる。


「おぉぉぉぉぉ!!!!!」


「ぐっ、がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 斬撃と蹴擊、どちらの力も互角であった。二つの力はせめぎあい圧縮される、そして限界に達したエネルギーは爆発した。


 衝撃で後ろに吹き飛ばされる。なにもつけていない体ではぶつかる瓦礫の痛みすら激痛を伴う。


 ボロは地面を転がる。脚の感覚は無いに等しくなっていたが、気合で立ち上がった。


 周囲を見ると、少し上がった砦の上に剣を支えにしてヒガンがこちらを見下ろしていた。ヒガンの後ろには生き残っているエーシルの兵士が数人立っている。


「君、溶岩のラヴァブラットでしょ。ヴァニル国第一世代兵装、8人いるうちの一人…熱を操る化物、熔解のラヴァット。」


 第一世代の兵装を持つ者にはそれぞれ二つ名が与えれる。

 ボロの持つ義足には振動数が上がることで触れたものを溶かす力が備わっている。

 そうしてつけられた二つ名は

  〔熔解のラヴァット〕


 ボロはヒガンを睨みつける、言葉を返す気力もないほどに身体は限界を迎えていた。


「ほんとは君を倒したかったんだけど…ごほっ、そう上手くは行かないね、」


 後ろからヴァニルの兵士が駆けつけてくる、増援が到着したようだ。目をやると負傷兵の救助を始めていた。


 視線を戻すとヒガンたちは撤退を始める。


 ーーーーピシッ


 感覚の無くなっていた義足に違和感が走る、

 それに気づいたとき義足の一部が裂け、中から血が噴き出した。














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