第31話 失敗の有無

「かはっ…!?」

足下で大きな爆発が生じた衝撃で、ケイティの演奏が一時中断される。

全身を硬直させる音圧が無くなったその隙に私はケイティと一気に間合いを詰め、『灰被らせの悪女』の灰が降る範囲内にケイティを入れた!

「しまっ…」

私は両手で火打ち魔石をぶつけ、ケイティの目前の位置を爆発させる。

そして…、同時にケイティの足下近くの灰を任意で選択し、目視する事無く思念を送って着火。

二カ所同時爆撃を行った!

「ぐぅぅぅぅぅぅっ…!?」

ダメージを負いながらも、ケイティは何とかリングアウトにならず舞台の上で踏ん張っている。

「なぁ、あれってまさか…」

私を見たトオルの言葉に、エリナが続いて言い放った。

「はい…!間違いありません!

ついにアグネス様が灰の任意着火に成功しました…!!!」

エリナの言葉が耳に入り、改めて現実味を実感する私。

「やった…、出来た。

ついに任意着火が…出来たぁぁぁぁぁぁっ!!!」

原因は不明ながら、原作のアグネスと異なり自分のメルヘンなのにまともに任意着火も出来なかった私の『灰被らせの悪女』。

まだ思念の任意着火で爆発を起こせるのは一カ所だけなので、同時に何発も爆発を行えた原作のアグネスには遠く及ばないものの、それでも火打ち魔石無しで着火が出来るようになったのは大きな一歩だった。

それに、火打ち魔石を用いた着火と組み合わせれば擬似的な二カ所同時爆発を行えるのはさっきの爆発で実証済みだ。

「くっ…、戦いながら成長したとでも言うんですの…!?

それでもワタクシの攻撃のメロディには敵いませんわ!!!」

すぐさま私と距離を取ってバイオリンを構え直して再び不協和音を奏でようとするケイティ。

しかしそうはさせない。

上から降る灰を右手で握ってケイティのバイオリンに向けて投げつけ、思念でバイオリン爆破し破壊。

「っ…!?」

怯んだケイティにサッと接近し、灰の降る範囲にギリギリで入れた所で思念・火打ち魔石で同時着火。

二発の爆発がケイティを直撃し、かなりのダメージを与える事に成功した!

「っああぁぁああァァあああ!!!

よくもワタクシの美しい顔を爆煙で汚して下さったわね!?

体中痛いし…!

お前だけは絶対に許さないィィィ!!!」

ケイティの右手に、破壊したはずのバイオリンが再び現れる。

メルヘンの力で作られたバイオリンなので、破壊しても本人の体力が残っていれば再生可能なようだ。

「…もう降参した方が良いわ。

これ以上やったらかなりの傷を負ってしまう!」

「煩い煩い煩い!

傷なんてねぇ、ワタクシのもう一つの力を使えばいくらでも治せるんですからぁ!!!」

もう一つの力…!?

ケイティは私がこれ以上の攻撃を躊躇している隙に、ケイティは大急ぎで弓を構えバイオリンに触れた。

しまった…!?

けど、任意着火が出来るようになった今の私なら音圧でも解決出来る…!

そう思って身構えていたら…。


プペ~。


…え?

ケイティのバイオリンから放たれたのは、もはや雑音にすらなっていない間抜けな音だった。

「あ…あら?

何で?どうして!?」

その後もケイティは二度、三度と弓で弦を引くが相も変わらずバイオリンから奏でられるのは『ポヨ~ン…』『ペピ~?』等、不協和音と比べれば特に耳障りでは無いけれども、この緊張感が削がれてしまうファンシーな音は一体…?

「…何してるの?」

「こっ…、こうすればワタクシの傷を癒す音楽が奏でられるはずですのに!?

どうして全然上手く弾けないの!?」

…なるほど。

どうやら『豪遊せし蟋蟀』は今までの雑音を用いた音響攻撃の他に、癒やしの音楽を奏でる事で傷の回復が出来るらしい。

「…ケイティ、あなたその技今まで一回でも使った事あったの?」

「そ、そんなのあるわけ無いでしょう!?

ワタクシの実力に敵う敵なんて今までいなかったんですから!

癒やしのメロディを使った回復なんて本来ならワタクシには必要無いのに…!

必要な時にまともに使えないだなんて…!?」

あ~……。

メルヘン能力は、覚醒した瞬間にそれがどう言った能力なのかぼんやりと頭に浮かんでくる設定になっている。

誘拐事件の時にメルヘンに覚醒したエリナがすぐさま参戦出来たのはそのためだ。

けど、ケイティの能力の内の一つである『傷を癒すメロディ』はそう言った能力がある事は覚醒時に知覚していながらも、彼女はこれまでただの一度も使った事が無かったようだ。

音響攻撃はケイティの粗雑な演奏でも通用していたけれど、癒やしのメロディには正確な演奏が必要になるらしい。

つまり、今のケイティの演奏技術では使用不可能というわけだ。

「くっ…、この役立たず能力!!!」

「そりゃ練習も無しにいきなり使えるわけ無いじゃない!!!」

「もう良いわよォ!!!

こうなりゃヤケクソですわ!!!!!!」

結局、再び不協和音を奏で始めるケイティ。

同時に巨大な音符を何個もこちらに飛ばしてくるが…。

任意着火爆発が出来るようになった今の私にはもうほとんど意味は無い。

音符は全て爆発して処理。

しかも、ヤケクソすぎて音圧は明らかにさっきより低く、普通に体を動かす事も出来る。

「…ケイティ。

もう一回言うけど、降参をオススメするわ。

これ以上戦ったらあなたは…」

「だ~か~らぁ~!

このワタクシが降参なんて下劣な行為するわけ無いでしょう!?

ワタクシはまだやれる!

あんたみたいな下等な奴にっ…!

ワタクシが負けるはずがぁぁぁっ…!!!」

…意外なことにケイティはまだ最後の粘りを見せてきた。

今まではただ真っ直ぐこちらの方に飛ばしてくるだけだった音符を自分の周囲に四個程漂わせている。

私は射程範囲内に近付いてケイティの周囲を二カ所同時爆発したが、何と的確に爆発場所を見抜いて漂わせていた音符をぶつける事でこちらの攻撃をガードしたのだ!

そしてすかさず残り二つの音符をこちらに飛ばすケイティ。

一つは回避したが、もう一つはかわしきれず当たってしまう。

「うッ…、ケイティの戦闘センスも一気に成長して来てる。

遠距離からの爆発だけじゃ太刀打ち出来ないみたいね…」

「その通り!

今咄嗟に思いついたこの戦法ならあなたの二カ所同時爆発にも対応出来る!!!

これならあなたにッ…!

勝てるッッッ……!!!

アーヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!!」

…確かに、またもや楽に勝てる状況では無くなった。

恐るべしケイティの執念…。

こうなったら…任意着火が出来るようになった今、前から一度試してみたいと思っていたあの技を試してみるしか無い。

ぶっつけ本番での挑戦はさっきのケイティの様に大きな失敗をしでかしてしまう可能性もあるのでかなりリスクがある。

けれど、理論上は絶対に可能なはず。

自分を信じて、挑戦するしか無かった。

「…これで終わらせる!」

そう宣言し、私はケイティの方向へ全力で懸けだした!

「また接近?

芸が無いわねぇ!?」

だが、今回は灰の降る範囲内にケイティが入っても爆破しない。

ケイティは私の動きにどうすれば良いのかわからず、周囲に浮かせていた四個の音符をヤケクソ気味に私に飛ばした。

当然距離が近いのでかわすのは至難の業。

激突覚悟で音符に怯まず私はケイティにさらに接近する。

一つは回避したけど、一個、二個、三個と直撃でこそ無いものの右腕や左足に擦ってしまった。

「ッ…!」

かなりの痛みが腕と足に走る。

当たった後は剣で斬られたような傷だ。

それでもここで怯むわけには行かない。

とにかく、ケイティに近づき続けた。

「うっ…、嘘でしょアンタ!?

ちょっ、来ないでェ!?」

そしてついにケイティの至近距離に到達した瞬間、私は右手に握っていた火打ち魔石をその場に落とし、握り拳を作って思いっきりケイティの胴体に打ち込んだ!!!

私は握り拳を作る瞬間、降ってきた灰を一緒に握っていた。

だから拳がケイティの体に触れた瞬間に、私は任意着火能力で右手に握られている灰を着火し…!

「おりゃああああああァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」

パンチの威力と私の手の中で起こった爆発の破壊力が組み合わさり、ケイティはとんでもないスピードで後ろ側に吹っ飛ばされた。

そう、これこそ私が考えていた技である。

私の『灰被らせの悪女』による爆発は、使用者である私には爆発のダメージは来ない。

だから私の手の中で起こした爆発は私の体を無傷で貫通し、相手にのみ爆撃を行える。

今までは任意着火が出来ず火打ち魔石を両手に握っていたため、爆発を起こすために両手の火打ち魔石をぶつけ合う動作が必要な事もありこの爆発パンチは理論上不可能だった。

でも、頭で思うだけで爆発させられるようになった今の私になら使えるようになったというわけだ。

「あァあアアアぁぁぁあああァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」

ケイティは叫び声を上げながら物凄い勢いで吹き飛ばされていく。

そして、ついに…。

ドサッ!

ケイティの体が、間違いなく舞台の場外に着地したのだ。


「そこまでっ!!!勝者、アグネス・スタンフォード!!!!!!」


ロード先生の一声が闘技場内に響き渡る。

私の勝ちが確定した瞬間だった…!

「「「…うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」」」

ケイティの音響攻撃に耐えられず逃げ出した生徒が多数のため、観客席は当初の人数の約六分の一まで減っていたが、しばらくの沈黙の後大きな拍手喝采が私を出迎えてくれた。

「やりましたね、アグネス様っ!!!」

「皆っ!」

後ろを振り向くと、エリナ達が舞台に上がって私の下へ駆けつけてくれている。

「ついに任意着火が出来るようになっただなんて凄いです!

お屋敷でもずっと練習されていましたし、ついにアグネス様の努力が報われたのですね…!

本当に、おめでとうございます!」

エリナは満面の笑みで私の両手を握って祝福してくれた。

「ありがとうエリナ!

けど、まだ思念での着火は一カ所しか出来ないから、二カ所、三カ所とどんどん増やせるようにもっと練習が必要ね」

「ったく、戦いながら俺達への愛の告白みたいな事してたの何だったんだよあれ。

聞いてるこっちはすっげえ恥ずかしかったぞ?」

トオルはちょっとムッとしながら私の嫉妬の話に釘を刺す。

つい盛り上がってベラベラ言ってしまったけれど、よく考えてみれば当人からすれば恥ずかしい事この上ないのは当たり前だった。

「ご、ごめん…。

ケイティとのやり取りで熱くなりすぎちゃってつい心の声が…」

「…ま、悪い気はしねぇけどさ」

小声で、しかし確かに微笑みながらそう呟いたトオルの姿を私は見逃さなかった。

「勝手な事ばかりして、自分でふっかけた決闘なんだから当然の結果だ。

これで敗北していたらいよいよ俺はお前を本気で見捨てていたぞ」

腕を組みながら私にキツく当たるザック。

「…けど、何だかんだで決闘中に結構固唾を呑んで私の戦いを見てたのがチラッと視界に入った気がしなくも無いけどな~」

と私が言うと、少し顔を赤らめて

「き、気のせいだ」

と視線を外してきた。

う~ん、やはりツンデレだ。

「…お嬢様。

今回は命を賭した行いは無かったので良しとしますが、最後に右腕と左足に傷がつく事を承知でケイティ様に接近していたのはかなり冷や冷やしました。

命に別状は無くとも、お母様から授かった大切なお体です。

心臓に悪いのであの手の捨て身の行動は出来るだけ謹んで頂きたく思います」

アイラさんに軽くお説教されてしまう私。

あの時は私も頭の中が勝負の事でいっぱいになっていたので、傷がつく事を全く気にしていなかった。

「ぜ、善処します……」


皆との会話が一段落ついた所で、審判であるロード先生が一時的に預かっていたネックレスが隣のツェリンさんに手渡される。

「ラプラス・ツェリン、決闘の結果に伴いこのネックレスを君に返還する」

「あ、あざっす…」

信じられない物を見た、という表情でネックレスを受け取るツェリンさん。

しばらくネックレスを見つめ続けたと思うと、次の瞬間に私の方へ駆け寄ってきた。

「アグっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」

「うわぁっ!?」

あまりに勢いよく抱きついてきたので、思わず驚いてしまう。

「マジで…、マジでありがとうアグっち!!!

ウチ、余計な争いに巻き込まれる位ならって思ってさっきはああ言ったけど、ほんとはアグっちの言う通りこのネックレスを諦める事がどうしても出来なくて…!!!

ほんとはウチが自分で取り返すべきなのに…何の関係も無いアグっちがここまで体張る必要も無いのに…!

それなのに、アグっちはウチとお姉ちゃんの思い出を取り返して、守ってくれた!

ありがとアグっち、この恩は一生忘れない!!!!!!」

半泣き状態になりながらも、ツェリンさんは心の底から嬉しそうに笑っている。

本当にそのネックレスが大切なんだとしみじみと伝わってきた。

「大袈裟だよツェリンさん…!

でも、ツェリンさんにほんとの笑顔が戻ったみたいで良かった!」

すると、ふと何か思い立ったツェリンさんは私から手を離すと、改まって言った。

「あっ、そうだ。

こんなに良くしてもらった直後で悪いけど、アグっちにもう一つだけワガママ言って良い?

…そろそろ”ツェリンさん”じゃなくて、もっと気軽な呼び方でウチの事呼んで欲しいかも。

良い…?」

珍しく上目遣いで少し照れた様子で私にお願いしてくるツェリンさん。

「…わかった。

じゃあ、これからは”ラプラス”って呼んでも構わないかしら?」

私がそう言うと、ツェリンさん…いや、ラプラスは飛び上がって喜んだ。

「わ~い!やったやった~!!!

アグっちとさらに距離縮まっちゃったし~!!!」

そんなラプラスの様子を見ていると、私にはとても彼女の純粋な笑顔が偽りだとは思えなくなってきた。

願わくば、ラプラスが人狼の正体ではないと早く証明されて欲しい。

…もし最悪の場合人狼だったとしても、その笑顔は嘘じゃないと信じたかった。


その後ラプラスと一緒に場外に飛ばされたケイティの所へ向かうと、ちょうど取り巻き二人に介抱されている所だった。

「大丈夫ですか、ケイティ様!?」

取り巻きの一人がケイティの肩を持とうとするが…。

「触らないでッッッ!!!」

バシッ!

ケイティはその手を振り払ってしまう。

「何故ですの…!?

どうしてこのワタクシがっ…!!!

あんな小娘に負けてしまったと言うの!?!?!?

…教えて下さいまし、アグネス・スタンフォード。

ワタクシとあなたで、一体何が違うと言うんですの!!!!!!」

あまりの悔しさに、普段の美貌が見る影もない程歯を食いしばっているケイティ。

そんな彼女の様子を見て、私は思わず言ってしまった。

「…あなたが、失敗した事が無かったからかしら」

「……失敗?」

「私が偉そうに説教する刺客は無いかもだけど…、あなたはこれまでの人生で一度も失敗をした事が無くて、もしくは失敗はしたけど叱られる事が無くて、常に都合の悪い事は周囲のせい、手柄は自分のおかげだと思って生きてきたんじゃないかな。

けど、それじゃ成長するはずのものも成長出来ないと思う。

あなたはさっき、自分の傷を癒やす技に失敗していたけど、それは今まで一度も癒やしのメロディを使った事も訓練した事も無かったから。

一度でも練習をしたりその技の特性を研究していたら、きっと使えてたと思う。

実際、あなたの『豪遊せし蟋蟀』はすごく強力な能力で、私は何度もピンチに立たされた。

私が任意着火出来るようになった後も咄嗟に四つの音符を使った戦い方に変えて対応してきたし、能力の応用の幅はただ爆破するしか出来ない私の能力より何倍も広いと思うわ。

でも、あなたは今までずっと失敗から学んで成長する経験が無かった。

演奏の腕を指摘されず、失敗する経験も無く、地位の高さ故に全てを肯定されて、あまつさえ他の人から物を奪う事さえ悪いと思わなくなってしまった…。

そう考えたら、周囲の環境にも問題はあったのかもしれないわね。

けど、どんな地位だろうが窃盗はいけない事だし、あなたのバイオリンはお世辞にも上手いとは言えない。

……さっきの癒やしのメロディは失敗してしまったけれど、この失敗を糧にあなたはきっとさらに強くなれる。

私は”以前”も”今”も色んな失敗をした。

その度に他の人を憎んで嫉妬して、でもその失敗と妬みを糧に少しずつだけど成長出来てる気がするの。

ケイティ、あなたもきっと今日の失敗を糧にこれから変われる、成長出来るはず。

私はそう信じてるわ」

「……格下の地位の分際で偉そうに」

口ではそう吐き捨てるケイティだが、その瞳には微かに涙が潤んで見えた。

すると、ロード先生がケイティの前に立って言い放つ。

「ケイティ・アントワネット、決闘の結果に伴い勝者の要求通りラプラス・ツェリンへの謝罪を要求しよう」

しばらく沈黙していたケイティだったが、やがてラプラスの方へ顔を向けて、頭を地面に擦り付けて謝罪した。

「…ラプラス・ツェリン様。

この度はワタクシの勝手な行いであなたの大切なネックレスを無理矢理奪い、持ち去ってしまい、誠に申し訳ございませんでした…!

二度と、この様な行いはしないと神に誓います!!!」

…どうやら、上っ面ではなく本当に心からラプラスに謝っているらしい。

ラプラスはそんなケイティを見て、

「良いよぉ?

二度とネックレスに手を付けないって約束してくるなら、ウチはそれでオッケー!」

と快く彼女を許す。

「これにて、勝者であるアグネス・スタンフォードの要求の完遂を確認!

アグネス・スタンフォードとケイティ・アントワネットの決闘を終了する!

お前達、二時間目からは通常通りの授業が始まるのだから遅れるでないぞ!!!」

ロード先生の宣言によって、正式に私とケイティの決闘は終幕を迎えた。


「…ケイティ!」

謝罪を終えたケイティは、フラフラとした足取りで闘技場から出て行く。

呼びかけても私の方には振り返らない。

「あっ、お待ち下さいケイティ様!」

「あたしらを置いて行かないでくださいよ!!!」

取り巻き二人に後を追われながら、ケイティは姿を消した。

…今のケイティがどんな心境なのか、私には読み取れない。

出来れば、今回の一件からこれまでの自分の過ちに気が付いて良い方向に変わってくれる事を願いたかった。


ケイティとの決闘から一日が経った。

しかし、ケイティはあの決闘の後教室に姿を見せず寮の自室に閉じ籠もっているらしい。

取り巻き二人も彼女に付き合って授業を休んでいる。

そんなわけで毎日ケイティに付き纏われる生活から解放された私だけど、変わったのはそれだけでは無かった。

「アグネスさん、その…今まであなたを避けていてすみませんでした!」

「昨日の決闘凄かったな!

何であんなに戦いに慣れてるんだ!?」

「なんだか怖い噂が流れてたけど、すごい人だったのね!」

そう、エリナ達以外の周囲の生徒から私への印象が大きく変化したのだ。

これまでは記憶が戻る前の性格の悪さや初日のトオルとの決闘を覗かれて広まった恐ろしいという印象が蔓延して私はかなり多くの生徒に避けられていたのだけど、決闘が終わってからはこれまでの対応を謝罪されたり、純粋に昨日の戦いを褒めてもらえたり、怖がられずに接して貰えるようになった。

勿論ケイティの音響攻撃のせいで途中退場した人も多かったのですぐさま全員に良い印象を持って貰えたわけでは無かったけれども、それでもやっと一部の同級生からごく普通のクラスメイトとして接して貰えた事に、私はとても安堵し、嬉しく思うのだった。

「アグネス!」

「アグネスさん!」

「スタンフォードさん!」

「アグネスちゃん!」

…と、さらに追加で四人、これまであまり話さなかった同級生が私の下へ集まる。

「い、いきなり同時に話しかけられても対応しきれないよ~っ!!!」






――――――――――――――――――

本日をもって、本作の更新は無期限更新停止に入ります。

最後まで物語を書き切る事が出来ず、本当に申し訳ございません。

短い間でしたが、応援ありがとうございました。

今後の活動内容は未だ決まっていませんが、全く新しい作品を書くかもしれませんし、再び本作の続きを書き始めるかもしれません。

もし続きを書く機会がありましたら、また読んで下さると嬉しいです。

では、しばらくのお別れです。

ごきげんよう。

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打ち切り漫画家、デビュー作を人気低迷に追い込んだ最悪悪女に転生する 深水シズム @Hukami_Shizumu

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