挨拶廻りの日
インすると早速4体の従魔達が集まってきた。しっかりと彼らを撫で回してやる。
「主、今日は何をするのです?」
4体を公平に撫で回すと膝の上に乗っているリンネが聞いてきた。
「うん、ちょっと挨拶に行かないといけない場所がある。最初は留守番をしておいてくれるか?」
「分かったのです。皆でしっかりと留守番をするのです」
リンネが言うとタロウはガウと吠え、ランとリーファはサムズアップをしてくれる。これで安心だ。
俺はまず第3の街に飛んだ。路地の奥にある武器・防具屋店の扉を開けると鈴の音が鳴って奥からドワーフの親父さんとその奥さんが出てきた。
「あら、久しぶりね」
挨拶を返してくれるのは奥さんだ。相変わらず親父さんはブスッとした顔をしていて無言だ。もう慣れたよ。俺が森の街で空蝉の術3を手に入れた報告に来たと言うと2人がよかったねと褒めてくれる。この時は無愛想な親父もちゃんと褒めてくれたよ。
「今上忍のレベルはいくつなんだい?」
「7ですね」
「モトナリ師匠の装備はどうだ?」
「ようやく長めの刀にも慣れてきましたよ」
そう言うと黙って頷く親父さん。
「術は攻撃の手助けとなる。ただあくまで手助けだ。刀をしっかり使えてこそ術が生きる」
親父さんにしては長く話してくれたな。言っていることは分かる。俺はわかりましたと返事をする。
「タクは忍者の先頭を走ってる。とは言ってもそれを気にせずやりたいことを色々とやりなよ」
奥さんの言葉に分かりましたと言った俺。お礼を言って店を出ると次に山裾の街に向かった。
「久しぶりね、元気だった?」
店に入るとヤヨイさんが言った。今日は後続組の忍者さんはいない。皆開拓者の街に移動したのかな。
俺が森の街で術3を手に入れた話をするとシーナさんは元気?と聞いてくる。やっぱり知り合いなんだな。忍具関係の人は皆横のつながりがありそうだ。
「彼女はエルフでしょ?エルフの職人さんって多くいないの。そして彼女は刀を打つのよりも装束、防具ね。そっちの才能があったのよ。師匠の奥様から指導を受けていたわ」
シーナさんは装束職人だったのか。でもあのお店には装束は売ってなかったぞ。
「タクのレベルだとまだ装備不可だからじゃない?彼女が作る装束は私なんかじゃ分からない位に高いレベルなのよ。師匠もシーナさんについては奥様に任せっきりだったわね」
今度彼女に聞いてみよう。忍具の職人にも刀と装束と分かれているんだ。それぞれの専門家がいるんだと知ったよ。
ヤヨイさんの店を出ると一旦自宅に戻った。ここからはタロウとリンネと一緒だ。
「出撃の時間なのです」
「ガウガウ」
2体ともやる気満々なんだが出撃じゃないんだよな。
「出撃は後だ、それより先に試練の街のモトナリ刀匠のお店に顔を出すんだ」
「分かったのです」
「ガウ」
心なしか2体のテンションが下がった気がする。タロウは間違いなくテンションが落ちてるぞ。お前らそれほど外で敵と戦いたいのかよ。
転送盤で試練の街に飛ぶとモトナリ刀匠の店を目指す。久しぶりに試練の街に来たが多くのプレイヤーで賑やかだ。流石に第2陣の後続組の連中はまだ来ていないだろうがそれでも多くのプレイヤーが市内を歩いている。
店に入ると奥からモトナリ刀匠が出てきた。
「お久しぶりです」
「久しぶりなのです」
「ガウガウ」
「久しぶりだな。森の街には行けたのか?」
「ええ、エルフのシーナさんの店で術3を手にいれることができました」
報告するとそうか。と短く答える刀匠。俺が黙っていると刀匠が話し始めた。
「あいつはエルフだ。森の民と言われているエルフは鍛治が得意な種族じゃない、だがあいつはそれでも忍者の刀を打ちたいと俺のところにやってきた。俺は教えを乞いに来た者は拒まない主義だ。種族なんて関係ない。ただな、やっぱりシーナは才能があるとは言えなかった」
刀匠によるとシーナ自身も才能がないことに気がついて弟子入りをやめて森に帰る気でいたらしい。そんなある日モトナリ刀匠の奥さんが彼女に装束の作成の手伝いをさせたところ見事に手伝いをやりとげた。
「シーナには装束を作る才能がある。よければ俺の嫁に教えてもらって忍者の装束のプロになったらどうだと言ったんだ。彼女はその場でその誘いを受けたよ」
それからは奥さんの下でメキメキと腕を上げていき、奥さん自ら後継者はシーナだと認める様になったらしい。
「でも森の街では装束は売ってくれませんでした」
「あいつはこだわりのある装束を作る。その結果その装束を身につける為に必要なレベルが高くなるんだ。おそらくだが上忍レベル10以下だったら装備できないだろう。逆に言えばあいつの装備を身につけることができるレベルになったら今よりも一段と強くなるということだ」
なるほど。こっちのレベルが低いから装束を紹介しなかったのか。
「主が強くなれば新しい装束を着ることができるのです。外で敵をやっつけて強くなるのです」
俺の頭の上に乗っているリンネが言った。
「そうだな。リンネの言う通りだな」
そう答えると頭の上で7本の尻尾をブンブンと振り回す。くすぐったいけど我慢するよ。俺と従魔とのやりとりを聞いていた刀匠。
「タクよ、慌てて強くなる必要はないぞ。大地に足をしっかりとつけて鍛錬するんだ。敵を倒すのももちろん大事だがそれ以外にもやることが沢山あるはずだ」
その通りだ。それにしても蘊蓄のある言葉を言ってくるな。NPCとは思えないよ。お礼を言って店を出るとタロウがガウガウと吠えた。
「敵を倒してお船に乗って畑の世話をすると良いとタロウが言っているのです。リンネもその通りだと思うのです」
俺はその場でタロウを撫で回す。モトナリ刀匠の言葉をきちんと理解していたんだな。
「お前たちの言う通りだよ。色々やろう。もちろん外で敵も倒すぞ」
「ガウ」
「その時は任せるのです。とっちめてやるのです」
「うん、期待してるよ」
せっかく試練の街にいるので久しぶりにジョンストンさんのレストランに顔をだすと、俺たちを見つけたのかジョンストンさんが厨房からわざわざウッドデッキまで来てくれる。
「久しぶりだな。タク。梨はどうだい?」
「ええ、好評です。農業ギルドで高く買い取って貰えているので良い金策になっていますよ」
「そりゃよかった。この前モンゴメリーがこの店にやってきたときに言ってたぞ、タクの作る梨が美味いってな。俺も負けられないって言って帰っていったぞ」
妖精たちが手伝ってくれているとはいえ、自分の畑というか果樹園で作った梨を専門家に褒められると気分がいい。今日入った鹿肉があるからそれを食っていけというのでシェフに料理をお任せする。
出てきた料理は相変わらず美味しい。肉を盛り付けてある皿に梨が添えられていたがそれも美味しかった。やっぱりプロだよね。食事を食べ終えたタイミングでまたやってきたジョンストンさん。
「釣りはやってるのかい?」
「いえ、森の街を見つけたので最近は森の街の周辺で魔獣を倒しているんですよ」
「エルフが作った森の街だな。プレイヤーだから新しい街を見つけてそこにいる魔獣を倒すのが仕事みたいなもんだ。無理するなよ」
食事を終えて別宅に戻るとすぐに隣の庭からマリアがやってきた。かと思うと早速タロウをモフっている。
「あれ?森の街の郊外のダンジョン攻略中じゃなかったっけ?」
庭にしゃがみ込んで横になっているタロウを撫でているマリアに聞いた。
「そう、でもダンジョン攻略ばかりだと飽きちゃうでしょ?それと転移の腕輪を狙って印章NM戦をするために試練の街の周辺の森で印章を集めていたのよ。ダンジョンに転送盤がないから移動が大変なのよ」
なるほど、彼らにしてみれば試練の街の周辺の魔獣なら経験値が入る格下になるので数を倒せるのか。マリアによるとパーティで印章が100枚を超えたらしい。
「タクは20枚くらい持ってる?」
見ると25枚あった。
「ドロップ品で従魔のスカーフが出たら、それはタクの物という条件で印章を提供して参加してくれる?」
「もちろん。ドロップ品の扱いについてもこっちは問題ないよ。あのNM戦のドロップで俺が欲しいのはそれだけだし」
ありがとう。決まりねというマリア。印章が170枚を超えたら連絡するという。その間にこっちもあと5枚は貯まるだろう。
テイマー忍者 〜ソロ忍者は従魔と共に駆け回る〜 花屋敷 @Semboku
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