ダンジョンが見つかったらしい

 森の街の北側のエリアは虎に加えて熊やゴリラなどのいわゆる野生大型動物が魔獣化したものが住んでいるエリアだった。敵のレベルは平均で上級9-12程度。以前挑戦したときはこちらのレベルが低かったので討伐に苦労したがこちらが上忍のレベルが上がっていたこともあり前回よりはずっと楽だった。何よりもタロウとリンネが大活躍だったよ。


 タロウが敵よりも早く気配を感知してくれるので常に先手が取れる。分身が4体あるのでそれで交わしている間にタロウとリンネがごっそりと敵の体力を削ってくれて俺の刀でちょいとダメージを与えるだけで倒れてくれる。こんな調子で丸1日がっつりと経験値稼ぎをした俺達。おそらく次でレベルが上がるだろう。移動中に遁甲の術と物見の術を使ってみたけど相手が通常の敵なら少々格上であっても有効みたいだ。


 夕刻に森の街に戻ってきた。通りを歩いてコテージのあるエリアに向かう。俺が借りているコテージに行くには情報クランが借りている大きなコテージの横の道を通るんだけど、その時にコテージの外に立っているトミーが見えたので手を振るとちょっと寄っていかないかと誘われる。


 タロウとリンネと一緒にコテージの裏にある庭に回るとそこは俺のコテージよりも広いウッドデッキになっていた。庭には椅子とテーブルが置いてある。


「中より外の方が良いだろう。クラリアもすぐにやってくる」


 勧められた庭の椅子に座るとトミーが言った。タロウは俺の横でウッドデッキの上に腰を下ろしていてリンネは俺の膝の上に乗っている。最近は膝や腹の上に乗ることが多い。


 確かに外の方が開放感があっていいよな。でもクランマスターまで来るってどういうこと? と思っているとコテージからクラリアがやってきた。


「ダンジョンが見つかったのよ」


 椅子に座るなりそう言ったクラリア。ダンジョン?森の中にダンジョン?


「ダンジョンは洞窟じゃなくて森の中にある大木の中にあったのよ」


試練の街からここ森の街を目指していたプレイヤーがそれを見つけた。場所はここから獣道を歩いて行って2時間ちょっと歩いたところだそうだ。森の街から試練の街に通じている道の周辺の森の中で経験値稼ぎをしていたパーティが森の中にある高い木を見つけて近づいていくと木の根元が大きく開いていて中に入るとダンジョンになっていたらしい。



 その情報を聞いた情報クランのパーティが早速今日そこのダンジョンに行ってきたそうだ。クラリアもトミーも挑戦してきたという。


「最大5名制限のダンジョン。アライアンスはダメなの。パーティ単位で攻略し、フロアをクリアすると上に登っていくのよ」


 なるほど地下に降りるんじゃなくて木の中を上に登っていくのか。ダンジョンか、興味はあるけどこっちは俺とタロウとリンネだしな。


「やっぱり運営はこのエリアで時間をかけさせようとしている。森の街の奥にあると言われている街には簡単に行けなくしているのに加えて新しいダンジョンだ」


「クラリアらは何階まで上がったんだい?」


「2階まで攻略した。3階で魔獣のレベルが上級14程度、難易度が高いダンジョンよ」


 分析によると1階が上級12、2階で13、3階で14とフロアが1つ上がると敵のレベルも1つ上がる仕様だそうだ。俺なら従魔達の力を借りてもせいぜい2階までだな。ダンジョンになっているので全部で何階なのか分からないが高い木の中という設定ならそれなりに階層はありそうな気がする。


「スタンリーらも挑戦しているんだろう?」


「もちろん、早速挑戦してきたらしい。俺たちと同じ2層までクリアしている。ただなこのダンジョン、地上に戻る転送盤が今の所見つかっていないんだよ。だからフロアとフロアを繋いでいる階段で野営をしながら攻略をしないといけない。スタンリーらは3階からまたフロアを降りて戻ってきたんだ。俺たちはクラリアの転移の腕輪を使った」


「転移の腕輪はダンジョンでも使えるんだ」


 それは良い情報だな。そしてフロアとフロアの階段はセーフゾーンになっているということか。逆に言うと攻略に時間がかかるぞということだ。


「そうなの。なので助かってるの」


 となるとスタンリーらはダンジョン攻略を進めながら200枚印章を貯めてNM戦に挑戦するだろうな。転移の腕輪があるとないとではダンジョンでは機動力が全然違う。本当にこの腕輪は重宝するよ。もちろん俺は彼らが主催するNM戦には参加するよ。フレンドだしね。200枚のNMの虎は前よりも強いだろうがこっちも強くなってるぞ。


「タクもダンジョンに挑戦してみる?」


「いずれね。今はいいかな」


 今の俺にはそのダンジョンはまだ厳しそうだ。しかもこっちは俺と2体の従魔達だけだし。助っ人を頼んだり野良参加してまでダンジョンに行きたいとは思わない。それにリンネは暗い場所がお好きじゃないしな。


 俺がそう答えてからお腹の上にいるリンネを撫でると目を細めて気持ち良さそうになって7本の尻尾を振っている。


「釣りもしたいし何よりまだ上級レベルが7しかないからね。これをもう少し上げるのが先だよ」


「タクはマイペースだものね」


「そう言うこと。攻略はプロにお任せしますよ」



 彼らと別れた後は自分のコテージから開拓者の街の自宅に飛んだ。留守番をしていたランとリーファは俺が作った船に乗っていたが俺たちが戻ると船から俺の肩に飛んできた。


「船が気に入っているのかな?」


 そういうと2体の妖精がサムズアップをする。


「妖精さんのランとリーファは主が作ってくれた船に乗るのが好きなのです。気持ちが良いものだと言っているのです」


「そりゃよかった」


 ログアウトまでの時間を自宅の縁側に座ってのんびりと過ごす。攻略も良いけどのんびりとするのも良いものだってのをこのゲームで知ったよ。


 縁側に座っていると門が開いてエミリーが入ってきた。


「こんにちは」


「こんにちはなのです」


「よぉ、久しぶり」


「ビニールハウスでイチゴを栽培し始めたでしょう?結構良い値段で農業ギルドが買い取ってくれるの。投資した分が予想より早く回収できそうなの。それでイチゴ栽培を紹介してくれたお礼を言おうと思ってたんだけどタクさん結構忙しそうだったからお礼が遅れちゃったの」


「そんなの気にしなくてもいいよ。栽培が上手くいったのなら何よりだね」


 エミリーは自分のビニールハウスで採れたイチゴを持ってきていた。一口食べると甘くて美味しい。うちには妖精がいるから特別だがそれを差し引いても普通に美味しいイチゴだ。逆に妖精がいなくてここまでのイチゴを栽培するって凄いよ。


「こりゃ美味いな」


 彼女はしっかり肥料を与えているらしい。リアルでサイトを見て研究しそれをゲームの中で実行しているそうだ。ちゃんと世話をしているのは立派だよ。俺も見習わないとな。ランとリーファに任せっきりだ。


「私の場合はここ開拓者の街がメインだからね。試練は時間がある時に少しずつ進めるつもりなの。向こうの別宅もまだ買っていないけどそれは畑のりんごとイチゴが売れてるからそのうちにお金が貯まったら買うつもり」


 もらったイチゴを食べながら聞いたところ試練の街で試練を受け、85以上のローブを買って知り合いとのんびりとノルマをこなしているところだと言った。僧侶だからソロじゃ無理だしと言って笑っている。確かに僧侶ソロはきついよな。


 自分のペースでゲームをするのが一番ストレスがたまらない。攻略や敵を倒すことが楽しいのならそれをやればいいし、合成や農業が楽しければそれをやればいい。


 俺はとりあえず少し攻略をやり少し農業をやりと全てを少しずつやることがストレスがたまらないみたいだ。


 またお邪魔しますと言ってエミリーが家から出ていくとまた縁側でのんびりする俺。いつの間にかタロウやリンネ、それにランとリーファも縁側にやってきて俺の上に乗ったり隣で横になったりとリラックスしている。


「主のお家はリラックスできるのです。皆喜んでいるのです」


 太ももに顔を乗せているリンネが言った。俺もここで4体いる従魔と一緒に過ごすのはリラックスできるんだよ。


 タロウも縁側でゴロンと横になって一定のリズムで尻尾を振っている。この振り方はリラックスしている時の振り方だ。ランとリーファは今は横になっているタロウの上に座ってこれも同じリズムでゆっくりと背中の羽根を動かしていた。


 この日はそうやってのんびりして夕方を過ごし、外が暗くなった頃にログアウトした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る