第14話 対峙

————一方…



俺は今、正直言って興奮している。同じレベルの装備で対等に渡り合える相手は今までヘルミナしかいなかった。だが彼女は人間だ。魔動人形で俺とやり合えるやつがいたことに、今とても歓喜しているのだ。


「見せてくれよ!100秒なんて言わずにさぁ!お前の全部を!」


ルナリアの装備だって、あの時のオンボロとは格が違う。互いに限りなく全力に近い出力で戦えることのなんと素晴らしいことか…


「戦闘狂には付き合っていられません。こちらにはまだ任務が残っているというのに」

「戦闘のために作られた道具が何言ってるんだ。俺達の魂の場所はここだろ?」

「排除対象は極めて興奮している状態にあると判断…脅威レベルを引き上げます」

「誰と話してんだ。なぁ、聞かせてくれよ」

「チッ…!」


最新世代と言うから期待したが…やはり人形は人形か…


「リミッター解除。Dシステム稼働時間延長…再設定完了」


マグノリアの魔力放出量が格段に上がった。隙だらけだった動きが修正され、鳥のような柔らかな動きから、虫のように瞬発力の高い動きに変化した。


「排除します」


その動きのギャップに隙を突かれ、手痛い一撃が俺を襲った。バリアに亀裂が入っている…


「対象のバリア出力低下———なっ…!?」


土煙を吹き飛ばす爆風、尋常ではない魔力の余波。ヘルミナの編み出した奥義…アサルトバリアでカウンターと同時に態勢を立て直す。


「破られるくらいなら自分で破る。常識だよな。それとも……最新世代様はそんなことも知らないのかな?」

「喋らせておけば減らず口を……」

「付き合いが悪いなぁ。リーリャだって乗ってくれるぜ?」


マグノリアはバリアをすぐに貼り直してくる。相当良い魔石エンジンを使っているのだろう。戦争に投入されていれば、俺がバグゴロドを落とすよりも先にケルニオンの勝利を引き寄せていたかもしれない。


「けど…お前みたいなのと戦えるなら、裏切ってよかったと思うよ」

「…あなたがバグゴロドを撃墜したことについて、ユビキタスは回答を出すことができまさんでした」

「単純さ。100万と100万プラス1はどっちが多い?」

「誤差の範囲ですが、後者でしょう」

「なら簡単だろ?」


まぁ、実際魔術師側の人間がどれだけいるのかは知らないが、犠牲になった100万人よりは多いだろう。


「理解できません」

「オルヘイトがいつも言ってたことだ。…いくら最新世代でもオルヘイトくらいは知ってるよな?」

「残されたデータでは、あなたの抱く彼女への印象とは異なるようです」

「人の持つ異なる一面ってやつだ。アイツは人の命の価値は平等だと言った。なら救うべきは数が多い方。そうは思わないか?」


正直、この会話に意味はない。相手はたかが人形。何を問うても一般論と模範解答しか答えないのだから。


「あなたは軍人には向かないようです」

「ならどんな奴が向いてるってんだ。お前みたいな——無駄なことばかりするやつか?」


その言葉に反応したのか、攻撃が苛烈になった。明確に苛立っているのが分かった。


「俺を殺してどうなるって言うんだ?失った100万人の命が帰ってくるのか?違うだろ」

「これ以上犠牲が出なくなるでしょう」

「俺は確かに人殺しだが…殺した以上の数の人間を救ったんだ。なぁ、分かるか?全ての人間を助けることなんてできないんだよ。俺は選んだに過ぎん」


そろそろ頃合いか。ウォルターの避難も済んだだろう。


「決着と行こうか。この馬鹿騒ぎも飽きてきた」

「レールガン最大出力——」


撃たせる前に地面を蹴って駆け出し、ダインスレイヴのブレードを起動、弧を描くように斬撃を放ち、銃身を切り落とした。


破壊されたレールガンが暴発し、マグノリアの右手が吹き飛んだ。


「チッ…撤退しなければ…!」

「逃がすかよ!」


弾丸を撃ち込むため、右手のライフルのトリガーに指をかけたが、蜂のような不規則な起動で避けられてしまった。


「保険は残してやがったか…」


取り逃がしたのは痛いが、まぁいい。今はウォルターと合流しなければ。

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帝国特殊部隊の元隊長ですが、魔動人形達が辞めさせてくれません Jack4l&芋ケンプ @imo_kenp

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