第13話 決闘

「テメェは…あの時の…」


ウォルターが男を睨みつけた。金髪の嫌味ったらしい男…間違いない、俺を好き放題やってくれたあの男だ。


「クソッタレのケルニオン人が。そこの小娘、お前もだ。ケルニオンのゴミに肩入れする気か」


ソフィアは無言で炎の剣を構えた。


「その魔術…いや、魔法の類か…だがその程度では俺は殺せん」


地面から迫る鎖が炎で焼き払われた。


「待って…急接近する魔動人形…!マグノリアだ…!」

「マグノリア?」

「最新世代の…ジンの代わりに隊長になったとか抜かしてたの」


もう代理が配属されていたのか。仕事が早いことで。


「重罪人、強化人間P0-000…あなたを処刑します」

「ああ?魔動人形が増えやがった。だがいい、こいつらの敵なら、一時的に味方になってやる」

「…人間風情と協力などしません。あなたもまとめて消して差し上げます」


おいおい…随分と派手になってきたな…


「…ルナ、悪いがお前のタクティカルアーマーを貸してくれないか。…あいつの相手は俺がする。ウォルターを連れて逃げろ」

「……また置いてくつもり?」

「今度は逃げねぇよ。…ほら」


俺はルナリアの頬に軽いキスをした。こうでもしないとてこでも動かない。


「……帰ったら口にしてね」

「覚えてたらな」


ルナリアは上機嫌で首のデバイスを外して、俺に渡した。そして、ウォルターを無理矢理背負って走り出した。


「おい!俺は自力で歩ける!」

「こうした方が速いの!」


そんな会話が遠のいていった。


「さて…2対2だ。これでやり易いだろ?ああ、そっちは2対1対1だったか」

「ジン、魔術師の方は任せて。君は人形の方を」

「ああ。タクティカルアーマー、起動」


アーマーの出現と同時に戦いが始まった。ソフィアの炎の魔術で分断し、俺は魔動人形との1対1になった。


「よぉ、俺の代理だってな?名前を教えてくれよ」

「……M10-001マグノリア」

「良い名前だが趣味じゃないな。最新世代か、退屈させてくれるなよ」


ルナリアの装備は熟知している。右肩のレールキャノンで動かし、左肩のタレット射出機で更に動かす。そして右手のレーザーライフルでバリアを集中させ、左手のダインスレイヴでバリアにダメージを与える。


「旧世代の強化人間のくせに…!」

「おいおい、そこらの強化人間と一緒にするなよ。言えば、俺とヘルミナはお前らのベース…親みたいなものだぞ」


ルナリアの装備なので、当然ユビキタスの援護もある。まぁ、それは向こうも同じか。


「バリアの硬さは魔力量…さて、どっちが多いかな」

「人間の魔力量では私に勝てません」

「本当にそう思うか?」


向こうの武装はダインスレイヴ擬きの武装と右手のレールガン、背部オプションから伸びるミサイルにレーザー砲か…なんなとなく見た事ある武器構成だな…


「ユビキタス頼りで勝てると思ってるのか?」

「厄介ですね…M8-045、援護射撃を」


上空から高速度の弾丸が飛来したが、それは俺ではなくマグノリアに命中した。流石と言うべきか、バリアに亀裂が入った。


「っ…!?M8-045、何を…!」

『あら、ごめんあそばせ。手が滑ってしまいましたわ。何しろなもので』

「流石だな、クラーラ」

「…残念です。あなたは話が分かると思っていたのに」

『早く撤退した方がよろしくて?また手が滑ってしまいますよ』


クラーラの逃げる時間も稼ぐとするか。


「よそ見してんなよ、ユビキタスの演算速度も限界があるだろうが」

「くっ…人間のくせに…!」

「ぶっ壊れなァ!!」


バリアの亀裂にレールキャノンを撃ち込み、割れた所にダインスレイヴを決めた。


「…おいおい、まだ生きてるのかよ。どうなんってんだ?」


…確かにダインスレイヴのブレードを当てたはずだが…なるほど、バリアの下にもう一枚…流石最新世代か…


「…ジェネレーター出力上昇。コード更新、Dシステム起動」


魔力の放出量が増えている…ここから本気と言うわけか。こちらも気合いを入れ直すとしようか。


「第二形態、ってところか。リハビリにはちょうどいい。かかってきな」

「100秒。この時間であなたを殺します」

「やってみろ、最新世代!」


————————————————————


一方その頃…


「その魔術…お前、『ハイドレスト人』か?」


鎖の魔術師セザールと、煉獄の魔法使い見習いソフィアの戦いも激化していた。


「だとしたら何なの?」


炎の剣と自在に動く鎖が何度も交錯し、互いに一歩も退くことなく打ち合う。


「もうとっくに滅んだと思ってたぜ」

「嫉妬かな。魔法使いは軒並みハイドレスト系の血を引いてるから、君にはなれないと思うよ」

「誰がなりてぇんだよ、あんなの」


その戦いは剣撃というよりも、炎と鎖の舞踏であった。踊るような剣筋に、滑らかな鎖の動き…魔術師同士の優雅な戦いだったが、口ではそうではないようだ。


「私は魔法使いになりたいと思ってるけど」

「ハッ、魔法使いなんてどいつもこいつも大量殺人野郎ばっかじゃねぇか」

「いいや、違う。多くの犠牲の元で、より多くの命を救うの。君みたいな矮小な人間には理解できないだろうけど」


その言葉が効いたのか、セザールは鎖を荒々しくソフィアに巻き付けた。


「減らず口はあの世で言いな、クソガキ」


絶対絶命…だが、ソフィアは笑った。それはまるでセザールを嘲るかのような笑いだった。


「地獄に落ちて、ヒルデムンストの魔剣士さん」

「ッ…!?」


その瞬間、鎖がドロドロと溶け出した。本来魔力から生み出された物体の耐久が無くなる時、魔力に還元され霧散するはずなのだが、魔法の領域ともなるとそのルールに従うことすら許さないようだ。


「お互い無詠唱なのはつまらないでしょ?今から魔法を見せてあげる。———我が炉に薪を焚べよ、世界に焔を灯せ、終焉を待つ世に炎を…レーヴァテイン!」


ソフィアの炎は剣の形を捨て、業火となってセザールを貫いた。


「かはっ…!?ぐッ…げほっ…!!クソが…!」

「殺しはしない。ただ、邪魔をしないで」

「覚えてろよ、このクソハイドレスト人が…!」


セザールは尻尾を巻いて逃げていった。その場はまさに煉獄といった様相であったが、当のソフィアは全く暑くなさそうだ。


「…向こうは大丈夫かな…」

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