第7話 1月25日16時53分 大阪駅到着

 そして京都駅も過ぎ、定刻の16時53分、トワイライトは大阪駅に到着した。最初で最後の、丸一日の旅がとうとう終わった。

 後ろ髪を引かれる思いで、この一日お世話になった部屋を出た。


 文乃さんの姿が見えないので、どうしたのだろうと部屋を覗いたら、彼女はまだソファーに座って、窓の外を見ていた。


「文乃さん、大阪駅だよ。残念だけど降りないと」

 振り返った彼女の目には、涙が浮かんでいた。

「どうしよう。千里くん、私、まだ降りたくない」


 また乗ればいいじゃないかとは、もちろん言えなかった。


 回送されるトワイライトを二人で見送って、僕たちは新大阪駅に向かった。ここから僕は東京へ、文乃さんは広島へ帰るのだ。


 新大阪駅では、文乃さんは笑顔を取り戻していた。


「じゃあここで、本当に楽しかったよ。ありがとう。またどこかで会えたらいいな」

「私も楽しかったわ。狭い日本だもの、列車に乗り続けていたら、きっとまた会えるわ」


 せめて携帯電話の番号を聞いておけばよかったと気が付いたのは、新幹線が新大阪駅を出たあとだった。僕たちの出会いは、トワイライトエクスプレスの24時間41分限定だったのかな。


 4月に入り、高校2年の新学期が始まった。今日はクラスに転校生が来るらしい。高校2年での転校とは珍しい。僕の隣の席が空いているので、ここに座ることになるのかな。どんな人が来るのかな。 


 担任の先生に続いて、女の子が入ってきた。

「中島文乃です。広島から父の仕事の都合で転校してきました」


 あの日は廊下を挟んだお向かいさんだった彼女が、今は僕の隣にいる。トワイライトエクスプレスは廃止されてしまったが、あの日の僕たちの24時間41分の旅には、まだ続きがありそうだ。


                                     了

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僕たちのトワイライトエクスプレス24時間41分 結 励琉 @MayoiLove

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