第6話 1月25日11時30分 ランチタイム

 ランチタイムは11時30分からなので、その少し前に、文乃さんと食堂車に並ぶ。まだそんなに列はできていない。まだお昼時にはちょっと早いのかな。


 スタッフさんによると、下りのランチ営業では普段はランチは20から30食しか出ないけれど、今日は100食仕込んであるそうだ。このあとだんだん混んでくるのだろう。


 メニューはビーフシチューセットのみなので、席について少ししたらシチュー、サラダ、パンのセットが出てきた。


 ビーフチューはさすがのおいしさだけど、これがトワイライトで食べる最後の食事だと気付いて、またちょっと寂しくなった。まだ列車は魚津駅の手前で、大阪駅まではあと5時間はかかるのだけど、24時間ってあっという間なのかなとも感じてしまう。


「千里くん、どうしたの?」

 そんな思いが表情に出ていたらしく、文乃さんに心配された。た。

「いや、もう最後の食事だなと思って」

「何言ってるの。三食ミッションコンプリート、よろこばなきゃ」

 やっぱり文乃さんの方がたくましい。


 食事を終えて、せっかくだから(?)、昨日は我慢した2号車、1号車を二人で探検する。心なしか重厚そうに見えるスイートやロイヤルデラックスのドアが続く2号車、1号車を先頭に向かって歩いていくと、Aー1というプレートが貼られたドアに突き当たる。展望スイートだ。二人してホーッとため息をついてしまう。


 どうやったらここに乗れるのだろう。父さんも昔何度かトライしたがだめだったらしい。25年も走っていたのだから、毎回予約にトライしていたら取れたんじゃないかと父さんは悔しがっていた。


 ここは高校生には似つかわしくない場所のような気がしたので、僕たちは静かに引き返し、それぞれの部屋に戻った。


 もう大阪駅までイベントはないけれど、こうしてゆっくり車窓を眺めていられるのも、トワイライトの旅の醍醐味だ。特急サンダーバードや特急しらさぎと次々とすれ違う。やっぱり計算通りの時間にすれ違うとうれしくなる。ひとりで小さくガッツポーズ。

 

 コンコンとドアを叩く音がしたのでドアを開けると、文乃さんがいた。自販機で買ったのかペットボトルのお茶を2本持っている。


「はい、差し入れ。部屋でひとりしんみりしてないかと思って」

「ありがとう。大丈夫。今立ち直ったところ」

 お邪魔しますと言って、彼女は僕の前に座る。


 今度も計算通りにサンダーバードやしらさぎとすれ違ったことを彼女に自慢げに話す。昨夜の青森駅の件の汚名返上になったかな。


「大阪発のトワイライトとはすれ違わないの?」

 文乃さん、今日は下りの運転がないのは確認済みだよ。


 ふーん、そうなんだと彼女はいたずらっぽい笑顔を見せる。それからしばらくおしゃべりをしていたら、そろそろかなと言って彼女はデジカメをポーチから取り出して、窓の外に向ける。


「ほら、千里君もカメラ」


 時間は14時17分、武生駅の手前。何がやって来るのだろう。

 緑色の列車がやってきた。トワイライトだ!どうして?


 「団体列車よ。朝ご飯で同じテーブルだった人が教えてくれたの。鉄道ダイヤ情報に載ってたって」

 高校の授業と同じで、僕の予習は全然甘いようだ。


 今日は機関車の付け替えを行わないので停車時間が短い敦賀駅を過ぎると、この旅もあと2時間となった。文乃さんは荷物の整理をするわと言って、自分の部屋に戻っていった。僕も荷物を整理し、最後の大切な時間を噛みしめるように、ソファーに身を委ねた。

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