第11話 やり返し
「そうだったんですね」
「いっぺんやり込めてはみたいものだけどな、あんな鼻持ちならないやつらは」
その言葉を聞いて彼の頭の中に思い出されたことが一つありました。
「ひとつ言ってもいいですか」
「なんだい、俺は明日休みだから面白い話なら聞いてやるぞ」
「さっきあそこのお店の店主さんがイチゴジャムを仕込んでいるのを目にしたんですけど」
ピーターは話し始めました。
「よくそんなとこ見てる余裕あったな」
ラブレースさんは軽口をたたきながらも彼の話を聞いてはくれるようでした。
「途中までは座って待ってろと言われていたので。それにイチゴジャムをつくっているところは見たことがなかったので」
「そうかそうか、それで?」
「イチゴのヘタを機械で取ってたんですけど、その機械ってパーシモンさんって人が発明したものなんですよね」
ピーターは言い切りましたが、ラブレースさんにはピンと来ていないようでした。
「悪いけど知らねえ人だな。その人がどうしたってんだ」
「僕の家のとなりに別荘を持ってるP人なんですよね」
―――――――――――――――――――
そこまで言うとラブレースさんは合点がいったようで、大きな声を出して笑いだしたので、ピーターも思わず続いてくすっと笑みをこぼしました。
「そりゃあ傑作だ。P人を追い出して威張っておきながら自分はP人の助けを借りないと料理もできないってことか。少年、よくそんな面白いこと気づいたな」
「パーシモンさんに一度ヘタ取り機を見せてもらったことがあるので」
そういうと彼は少し腕を組んだのち、腹積もりを決めたのか、宣誓でもするかのようにこういいました。
「よし、俺も今日めんどくさい客が来てちょうど憂さ晴らしがしたかったとこなんだ。やけ酒でもしようかと思ったがお前の敵を討ちに行く正義の味方になってスカッとしたくなってきたぞ」
そして言い終わると同時に彼の反応も見ないでルドベキア亭に向かって歩き始めました。
「待ってください。本当に言いに行くんですか」
後れをとったピーターはこう訊きながらなんとか追いつきました。
「ああそうさ。他の客全員に聞こえるようにな」
そういっているうちに目的地にたどり着いたので、彼らは意を決して暖簾をくぐりました。
「いらっしゃい、ってこれはこれは誰かと思えば気難しいことで評判のギルドの受付さんではありませんか」
先ほども会った店主さんでしたが、ピーターは気まずいのと気に食わないのとでラブレースさんの背後からちょっと顔を出しただけでした。
「聞いてないかもしれないんですがね、ここは上流階層向けのお店でしてね、あなたが引き連れている田舎者などはお断りなんですよ」
「そんな嫌ったらしい話はさんざん聞き飽きてるんだこっちとしては。だがこの話は聞いたことがないだろう」
そう言うとラブレースさんは店内をさっと見回しました。
「お食事中の皆さんもね。」
「なんだっていうんだ、あんたまで出禁にするぞ」
店主さんはめんどくさそうに告げました。
「いいさもう二度と来ないからな。ほれ少年、言ってやれ」
と言ってピーターの方を向いて促したので、彼は勇気を出して厨房の中のイチゴのヘタ取り機を指さして叫びました。
「イチゴジャムをたしなんでいらっしゃる皆さんにお知らせです。それをつくっているあの機械はとあるP人の発明品です。ここの店主さんはP人の助けがないとイチゴジャムもつくれないような人なんです」
ラズベリー共和国ものがたり 戸北那珂 @TeaParty_Chasuke
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