第10話 屈辱
「どうしてですか。それはあんまりじゃないですか」
ピーターは思わず言い返してしまいました。
彼は生まれてからここまでそんな対応をされたことがなかったので、とても驚いたのと同時になんだか少し嫌な気持ちになりました。
「どうもこうもここルドベキア亭はハイソサエティな場所と決まってるからだ。発音もされない田舎者なんぞが来ていい場所ではない。」
「なんで僕がP人だってわかったんですか。それにそんな差別していいんですか」
「そんなの簡単さ。名前をPから始めるのはP人ぐらいなものだしさっきもらった金には刻印があって、それはエリアごとに違うからな。この店に入れる前に気づけなかったのは俺が馬鹿だがここには分別ってもんがあるんだ。さあ行った行った」
「そんなことあっていいわけ…」
と言おうとしたピーターの声はどんどんかすれていきました。
話が聞こえていたであろう周りのお客さんたちを見渡すと、みなワインを飲みながら店主の方に向かってそうだそうだと言わんばかりに頷いていて、しまいには煽り声までかけてくる始末でしたので、彼は完全に四面楚歌になってしまいました。
左を向くと2つ隣に座っていた顔の赤い騎士のような格好をした男性から、
「坊主はほうらさっさと田舎に帰っちまえよ。」とまで言われてしまうほどで、彼はP人であることをけなされてとても悲しい気分になっていました。
その人と店主さんが、
「まったく天下のルドベキア亭の店主さんもこんなやつまで入れちまうとは民度が知れるねえ?」
「おいおい待ってくれよ、お前さんだって最初は田舎から出てきた青二才だったろ?」
などと言い合いながらガハハと笑っているのなどは、とてもではないけれど耳に入ってくる状況ではありませんでした。
「だから邪魔だって言ってんだろ」という声に背中を押され、半分つまみ出されるようにして店から出た彼の足は今日一で重いものになっていました。
どうして僕はこんなことを言われなきゃいけないんだろう、と彼は考えましたが、合理的な理由などあるはずもなく、辺りが夜になるにつれて心も暗くなっていきました。
「おっ。さっきの少年じゃないか」と仕事終わりと思しきラブレースさんがばったり通りかかって声をかけてくれるまで、どれくらい時間が経ったかはわからないほどでしたが、彼は店の前の広場の噴水のたもとでたたずんでいました。
「こんばんは。先ほどはありがとうございました。」
彼は消え入りそうな声で言いました。
「どうしたんだ、腹でも減ってるのか?お金はあるって言ってたよな?」
「それでお腹が空いてそこのお店に行ったら…」
と彼がルドベキア亭を指さすと、ラブレースさんは何かを察したような顔をして、
「あそこはだめだよな」とため息をつきました。
「あそこはなまじ自分たちが金があって仕事ができるからって偉そうにしてる、嫌なブルジョワのたまり場みたいなとこなんだよ。俺もあそこは好きじゃねえが力のあるやつにはあまり強く言えんのさ」
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