第9話 食う寝るところ
ギルドの建物を出たピーターの足取りが入ってきた時よりも少しだけ重めだったわけは、一日目の疲れだけではないように見えました。
でもまだ泊まるところを得たわけでもありませんでしたので、先ほど教えてもらったリンゴン亭という宿屋に訊いてみることにしました。
「すみません。泊まるところを探しているんですけど」
でも彼の希望はすぐに砕けてしまいました。
「あらいらっしゃい。あいにくうちは今満室なのよ。明日になると団体さんがいなくなるからいくらでも大歓迎なんだけどね」
と忙しそうな女将さんに言われてしまえば元も子もありません。
「ギルドのラブレースさんって方にこちらを勧めていただいたので…」
「それならあんた田舎から出てきた新人ってとこかい、え?」
でも話は聞いてくれるいい人のようでした。
「それなら今晩だけこのあたりの他のところに泊まってもらったら明日以降なら空けられるよ。どれだけいるつもりか知らないけどね。」
「とりあえず2週間ほどいてみようかと思っているのでそうしていただけるとありがたいです」
「こっちとしても来てもらった客を失うのはもったいないしね」
といって笑った女将さんはでもすぐにまじめな顔をして、
「でも金はいただくからね」と付け足した。
「おもての料金表の通りなら何とか大丈夫です。」
「そうかじゃあいいわ。明日また来ておくれ。覚えとくから」
そんなわけでピーターは明日以降の宿を得ることに成功しましたが、今日の夜をどうしたらいいかはまだ分からなかったので、完全にほっとした気持ちにはなれないでいました。
リンゴン亭を出るとその3軒ほど隣にまた別の宿屋があって、小ざっぱりとした見た目のこちらはさっき彼が広場を眺めたときに空きあり〼と掲げられていたところでしたので、だんだんお腹もすいてきた彼は入ってみることにしました。
「なんだい少年、食事かい宿泊かい」
と無愛想に聞いてきたのはオーナーと思しき恰幅のいい男性でした。
「今日泊まれるところを探していまして」
「空いてるよ、食事付きで2000でどうだ」
ちょっと高めな気もしましたが初日から野宿という訳にもいきません。
「じゃあそれでお願いします」
「前金で、ここにサインをしてくれよ」
そう言った店主はイチゴのジャムを仕込みながらピーターの方も向かずに言いました。
「ついでにいま食事もしたいんですけれど」
「じゃあそこに座っとけ。注文は後で聞きに行く」
とだけぶっきらぼうに言われたので、こういう人も街にはいるんだ、と思ってカウンターの席に腰掛けました。
メニューをざっと眺めながら、今日一日で出会った人はなんてキャラの濃い人たちで、でも案外いい人たちだったな、Rシティの人は冷たいとかって噂は噂でしかないんだ、などと思っていると、
「おいさっきの少年」と厨房から声がかかりました。
「お前P人なのか。それならこの店に相応しくないからお断りだ」
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