第28話 ハッピーエンド

 2月の公園は温かい陽の光に包まれていた。

 気温も2月にしては暖かく風もないので、コートがいらないぐらいだ。


 遥香と付き合い始めて初めての週末。期末テストが終わったこともあり、デートしようとなったが、何をしていいのか分からない二人は公園でキャッチボールをしていた。


 遥香の糸を引くよう速球がグラブに収まるたび、バシッと良い音が響いた。

 遥香へとボールを返すためグラブの中にあるボールを掴もうとすると、遥香がこちらに向かって歩み寄ってきていた。


「ねぇ、そろそろ終わりにしない。お腹もすいてきたから、どこかでお昼食べよ」

「いいよ。どこにしようか?」

「どこでもいいよ」


 遥香はニッコリと微笑む。

 遥香の「何でもいいよ」は奈菜とは違い、本当に何でも良さそうだ。


 運動してお腹は空いている。

 こんなすきっ腹を満たしてくれそうなお店は、一つしか知らなかった。


「ラーメンでもいい?この近くに美味しいお店あるんだ」

「ラーメン。いいよ」

「ちょっとボリューム多めだけど、いい?」

「いいよ。ちょうどお腹空いているし」


 ボールとグラブをカバンに仕舞うと、駅前へと向かい歩き始めた。

 行先は、三井と何度となく足を運んだ駅前のラーメン屋。


 三井とはあの日以来嫌われたようで、挨拶すれば返す程度の関係になってしまった。

 まあ無理もない。三井の好きな子を二人も横取りしてしまったのだから。


 でも、数少ない男子同士、仲直りしたい。でも、どうやって?

 そんなことを考えながら歩いていると、すぐに目的のラーメン屋にたどり着いた。


 お昼時を過ぎているため、店には行列はできておらずスムーズに店内へと入れた。

 食券機の前でどれにしようか悩んでいる遥香に、声をかけた。


「まあ、最初は定番の野菜ラーメンにすると良いよ」


 最初にこのお店にきたときに、三井がしてくれたアドバイスをそのまま遥香にした。

 

 運よく空いていたテーブル席に遥香と座り、お冷を持ってきた店員さんに食券を渡す。


「野菜多めで、あとは普通」

「お連れ様の方のトッピングは?」


 戸惑う遥香に、野菜の量やニンニクの量を選べることを教えた。


「じゃ、同じで」

「ハイヨ!ヤサイマシ2つ。3番テーブル様」

「ハイヨ!」


 豚骨スープとニンニクの香りが充満する店内に、店員さんの威勢のいい声が響き渡った。

 ラーメンができるまでの間、お冷を飲みながら春休みの計画を遥香と話し合った。


「映画観に行く?あの漫画の実写版、気にならない?」

「漫画の実写化って大体失敗するからね。映画もいいけど、遊園地も行ってみたいね」


 そんなことを話していると、カウンター席の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「アブラナシヤサイカラメマシマシニンニクマシマシで」

「ハイヨ!」


 振り向くと、そこには三井の姿があり、その横の席には奈菜が座っていた。


「ミッチー!それに奈菜!」

「気づいてくれて良かった。お店に入ったとき、こっちは気づいてたけど二人いい雰囲気だったから、話しかけられなかった」

「そこのテーブル詰めれば4人座れるから、そっちに行ってもいい?」


 立ち上がった二人は、お揃いのプリーツスカートを履いている。

 僕の視線に気づいた、三井が照れた笑みを浮かべた。


「へへ、さっき買ってきたの」

「ってことは?」

「付き合ってるの」

「えっ?いつからなの?」


 奈菜と別れたのは月曜日。土曜日の今日、いったいいつの間にそんなことになったのか疑問だった。

 いろいろ聞きたいところだったが、ちょうどラーメンが届いたこともあり、伸びないうちに食べ始めることにした。


「う~ん、美味しい」

「でしょ」


 遥香が感嘆の声を上げた。自分が作ったわけではないが、自分が勧めたお店が褒められると嬉しい。


「ハイヨ。アブラナシヤサイカラメマシマシニンニクマシマシ、2つね」


 三井たちのラーメンも届いたところで、さっきの話の続きを始めた。


「で、いつからなの?二人が付き合い始めたのは?」

「月曜日だよ。亜紀に遥香ちゃんを横取りされて、しょげて歩いていると中庭で奈菜ちゃんが泣いていたから、駆け寄ったの」

「亜紀に振られたと言ったら、ミッチーが優しく慰めてくれて、それから亜紀の悪口で盛り上がっちゃった」

「それで、勢いで『私と付き合わない?』って言ったら、あっさりOKだった」


 三井は麺をすすりながら、あの日の続きの話をしてくれた。幸せそうな二人をみると、自分が悪口を言われたぐらいどうってこともなかった。


「じゃ、無視しなくてもいいじゃない」

「だって、口を開いたらどうしてもノロケちゃうし、驚かせたいから秘密にしておこうって奈菜ちゃんが言ったから。こんなところでバレるとは思わなかったよ」


 三井が笑うと、つられて僕と遥香も笑い始めた。

 一人だけ奈菜が不満そうな顔を浮かべている。


「もう、びっくりさせようと思ってサプライズを計画してたのに、台無しよ」


 怒りながらも嬉しそうにしている奈菜を、3人が暖かい視線で見つめた。


 



 


 


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入学した高校の制服がセーラー服だった件 葉っぱふみフミ @humihumi1234

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