第6話 で、「アイツ」って誰?
タローの【
何故そうなったのだろうか。
それは
無論、マロンがコマンドを入力する時間などなかった。だがマロンは、そんなこともあろうかと「緊急時用コマンド」をあらかじめ用意していたのだ。
具体的には右手の握り拳から人差し指・親指を伸ばして、後は握ったままにする。簡単に言うと「指鉄砲」の形である。この簡易コマンドにより、事前に用意しておいた「【ワームホール】生成」を実行したのであった。
「……うーん、霧船さんには勝てなかったか」
「いやー、危なかったー! 正直、かなり油断してたよー!」
マロンとタローの二人――「タロー」表記なので姿はホーリーサファイアである――は、勝負後のひとときを過ごしていた。場所は移動しておらず荒れ地のままだが、【ワームホール】で持ってきたテーブル、椅子で二人ともくつろいでいる。ちなみにすでに決着はついたので、紙風船は頭から外されていた。
「ご主人様、かなり才能ありそうだよねー。わたし、『緊急コマンド』無かったら負けてたもん」
「でもあんなの、あるって分かってても無理じゃ……?」
「そんなことないよー。あれ、一回使うとリセットかけなきゃいけないの。先に使わされてたら、ホントに負けてたかも」
最後の「緊急時用コマンド」は、本当に緊急時に一度しか使用できない。なので、マロンの言葉に嘘偽りはない。自力で様々なコマンドを見つけたマロンと、力をほとんど借りているだけのタロー。立場に違いはあれど、楽しめるレベルの戦いができたことに変わりはなかったのだ。
そんな二人の世界の中。
「……休暇ボーナスも出ないのに、よくあそこまで戦えるニャリね」
半ば空気と化しているクロマルは皮肉のように言う。ちなみにホーリーサファイア変身中のため、マスコット化している状態だ。
しかし二人は、
「え? お休みより戦うほうが楽しいじゃん」
「うーん。正直、かなり楽しかったな。ボクも休暇よりこっちのほうが……」
と、休暇より「戦闘」のほうが良いらしい。
それを聞いたクロマルはニヒルに首を振り、「ニヤリ」と笑う。
「まあ、今日でオマエらのことはよーく分かったニャリ。……そんなに戦いたいなら、特別に望みを叶えてやってもいいニャリよ」
「……クロマル、どういうこと?」
「オマエら、強いヤツと戦いたいニャリな? だから、とびきり悪くて強いヤツを紹介してやるニャリ」
「え、なにそれ! なんでもっと早く言ってくれなかったの?」
「もしかしたら、マロン一人じゃ勝てないかもと思ったからニャリ」
「……ってことは、そんなに強いやつがいるのね!? そいつはどこ!!? 誰!!?」
ワクワクを抑えきれないマロンは、クロマルへ詰め寄る。
「お、落ち着けニャリ! これから説明してやるニャリよ」
一方でタローは、純粋に疑問を感じたのかクロマルに質問する。
「もしかして、前にボクが戦った黒い人形かな? あれの親玉がいるとか」
「んや、アイツらはワルレレノ。親玉はマロンに潰されてるニャリ」
「……ということは、そいつは今『潜伏』してるのか。クロマルくんはどうやって『それ』を知ったの?」
「え、あー……」
何故か、急に言葉を濁すクロマルであったが、
「……ゴホン。ま、それはどーでもいいニャリ。大事なのはそいつが『誰』ということニャリよ」
咳払いの後、強引に話を進めてきた。
「ねぇそれでそれで!? そいつはだあれ!!?」
「マロン一人じゃ勝てないような悪者。ソイツは……」
クロマルはビシッと指を立てながらその名を告げる。
「――『マスター・ライト』ってヤツニャリ!!!」
「「………………」」
それを聞き、マロンとタローの二人は黙り込んでしまった。
……先に口を開いたのはタロー。
「マスター、ライト? なんだか、悪者っぽくない名前だね」
「ふん、『悪どいヤツ』ほど『善人ぶってる』ものニャリね。ソイツの憎たらしさと言ったら……」
クロマルの態度を見て、タローは心の中で考える。
(この態度、ウソは言ってないみたいだし、本当にそいつはいるんだろうな。でも、霧船くんでも勝てない悪者なんて、僕がいたところで……)
「ねぇクロマル」
「ん? どーしたニャリか?」
「それって『本当』なの?」
「……なにがニャリ?」
「『マスター・ライト』が『悪者』って話」
「……、ウソついて、なんの得があるニャリ」
少し間はあったが、あくまでクロマルはマロンの目を見ながらそう言った。
「ふーん」
マロンはそれを受け、興味が薄そうな反応を示した。先ほどはあんなに期待に満ち溢れていたのに、である。
「……じゃあ、『本人』に聞いていい?」
「「……え?」」
タローとクロマルの二人が、同時に言った。
そして二人の返答を待たずに、マロンは指でコマンド入力を始めた。
……数秒後、マロンは空に顔を向けながら言う。
「もしもしー、らいとんー?」
……。
――ポロロン♪
まるでハープを弾いた時のような音が鳴った。
『は~い。どしたの、マロンちゃん』
すると空から、大人の女性の声が聞こえてきた。声からして「お姉さん」タイプのようだ。
「――ぎ、ぎニャァァァァァァァッッッ!!!!?」
その声を聞き、突然クロマルが叫んだ。タローは彼がここまで慌てている姿を今まで見たことがない。
そんなクロマルのことなど無視して、マロンは会話を続ける。
「ねー、らいとん。らいとんって悪者なの?」
『うふふ、そんなわけないじゃない。アタシは百パーセント、混じりっ気ナシの「善」よ』
「……って言ってるけど、クロマル?」
「そ、そそそ、それはぁぁぁッ!!」
真顔のマロンに、混乱しているクロマル。そして空からは謎の声。
なにがなんだか分からないという状態でタローは、頑張って脳内の情報を整理しようと試みる。
……が、理解できそうにないので聞くことにした。
「あのー……、これはどういうことなんでしょう?」
天の声の雰囲気が偉い人のようだったので、タローはおそるおそる丁寧に質問。
『初めまして、ホーリーサファイア。アタシが「マスター・ライト」よ』
「ええ!? ……ど、どうも」
彼女? のことを補足するため、マロンも続けて口を開く。
「らいとんはねー、『キュルルジュエル星』の『神様』なんだってー」
「神様!? きゅ、きゅるる、じゅえる……?」
『そうよ~、よろしくね~♪』
その名を聞いて思い出したのは、あの言葉。
× × ×
「――きゅるんと変身、『ホーリーサファイア』! ワルいコたちをおしおきよ!」
× × ×
きゅるるとサファイア。サファイアは宝石、つまりジュエル。どう考えても魔法少女の関係者であり、しかも神様であるという。
「ま、まさかあなたは……、『魔法少女』の『創造主』……!?」
『そうよ~。理解が早くて助かるわ』
ということは、マロンや自分が変身できているのもマスター・ライトの力によるものなのか、とタローは考察した。
(以降は長ったらしいので、天の声の主は「Mライト」と略します)
だが魔法少女に変身するための力は、クロマルも持っている。そしてクロマルはMライトのことを知っているようだったが、本人(?)が現れた(?)と同時に、かなりおびえていた。
その様相はまるで、上司から怒られるのを避けたがる部下……。
「もしや『クロマルくん』は、『神様の使い』ってこと……?」
「うん。そうらしいよ、ご主人様」
「へ、へぇ……」
……つまりクロマルは、上司で神様であるMライトを「悪者」と紹介したことになる。そのうえでマロンとタローの二人がかりにより、Mライトを倒してもらおうと思ったのだろう。
(いや、なに考えてるんだよクロマルくん!!?)
おそらくクロマルは、厳しい上司を亡き者にして「好き放題サボる」ことが目的だったのだ。ならば彼がドラマや映画にハマッているのも、やたら戦闘を煙たがっていたのも、納得できる。
「で、でも、神様なんて、霧船くん……じゃない、霧船さんと組んだところで勝てるわけがないような……?」
「そうそう。らいとんが『その気』になったら『魔法少女』のパワーも解除されちゃうし、勝ち目なんてゼロだねー」
「あ、そうなんだ……」
二人がそう話した後、Mライトが応答する。
『でも、そんなのつまらないじゃない。やるなら「頭の紙風船を割る」とか、「勝ち負けを競える」形がいいわね~』
「え……、さ、さっきの、見てたんですか……?」
『もっちろ~ん♪ なかなかアツかったわよー。……「
「ぼ、ボクの名前まで知ってる……!?」
Mライトの口調から、どうやら先ほどの戦いを見ていたらしいということが分かる。さらに、タローの「元の姿」や彼の「本名」まで知っている。
「……あれ? なら、クロマルくんが言ってたことも聞いてたんですか?」
『うふふふ……、アタシが「とびきり悪くて強いヤツ」、だなんて。都合よく聞いてるわけないじゃない。……ねぇ???』
さっきまで宙に浮いていたクロマルは、地面に伏しながら震えている。
タローには
『クロマルちゃん。アタシのことを侮辱しておいて……、どうなるか分かる?』
しかし、天の声はそんなことお構いなしといった具合。おそらく、クロマルの呟きすらも聞こえているのだろう。
ゴロゴロ……、と突然。天から「雷」の音がする。それが耳に入ったらしく、クロマルは慌てたように空を見上げた。
タローも見上げてみると、曇天ではなく「晴天」のまま。だが、目に見えない「力」を感じる……。
「そ、それはっ!? お、お助けニャリ……っ!!」
上を見て震えながら言うクロマル。もしかすると、マロンがやったように「なにか」を空から降らせるのだろうか。
「――ニャーんて、」
「言うと思ったニャリかぁぁッ!!」
ところがクロマルは態度を一変させた。そして言いながら、タローの頭の上に飛んで移動。
「クロマルくん!?」
「当てられるものなら当てるニャリー! でもいいニャリかー? オイラにやったらタローも巻き添えニャリー! にゃははははは!!」
「さ、最悪だこの猫……っ!」
ゴロゴロ……、――ピシャーン!!
「あ”ニャァァァァァァァッッッッッ!!!?」
「え……?」
上から「雷」が落ち……、クロマルはバタリと地に倒れた。
しかも器用に、タローに及ばないように命中。本来であれば通電や放電などでタローにもダメージが出そうなものだが、そういったことはないようだ。
『それだけ言えたら充分よねぇ? これでもう二度と、そんな口は利けないわね』
「ま、まさか……、殺したんですか……!?」
「いや大丈夫だよー、ご主人様」
落ち着いた様子のマロンを見て、タローは深呼吸して足元のクロマルを見る。元々の身体の色で分かりにくいが、黒焦げになっているわけではないらしい。特に焦げ臭いニオイなどもしない。
「……な、なにをする、ニャリ……」
まもなく、クロマルはふらふらと浮き上がった。なにかのダメージを受けたようではあるが、身体的には無事らしい。
「タローもいるのにこんなことするなんて、『マスター・ライト様は素晴らしいお方』ニャリ!!」
……。
「――ニャリッ!? じゃなくて、『マスター・ライト様は素晴らしいお方』ニャリって!!」
『うふふふふふ~……』
「ま、まさかぁっ!!?」
何故か、急にMライトを称えるような言葉を発したクロマルだったが、さらに何故かそのことに驚いているようだった。
この不可解な言動について、タローはマロンに質問する。
「えーっと? 霧船くん、なにが起きたか分かる?」
「あれは確か【言論封殺雷(サイレントサンダー)】。カンタンに言うと、『口から出る言葉を変える』魔法だよ」
「え……」
「たぶん、らいとんへの『悪口』が『誉め言葉』に変換させられてるねー」
「……お、おそろしい」
つまり、【
「こ、こんなことするくらいなら、オイラを殺せばよかったニャリ!」
『あら? そう……、死にたかったの?』
ゴロゴロゴロと、さっきより大きい音で雷鳴が……、
「申し訳ございませんでしたニャリ」
クロマルは軽口で対抗しようとしたが、脅しが「本気」と理解して諦めた。
『よろしい。……クロマルちゃん、マロンちゃんに感謝してね』
「んー? なんでわたしに感謝を?」
『うふふ。アナタは分からなくていいの~♪』
タローはなんとなく、「マロンに感謝しろ」の意味を理解した。
本来なら殺すことなど朝飯前だが、マロンの前で実行してしまうと刺激が強い。あれだけ自由奔放に戦っていても、彼女はまだ中学生なので、それを尊重して殺さなかったのだろう、と。
ちなみにワルレレノは生物ではないので、マロンは彼らの死(?)はどうでもいいと思っている。そもそも【
しかし、【
「あの、マスター・ライト様」
『面倒だし「マスター」とか付けなくていいわよ』
「じゃあ、ライト様。ボクからお願いがあるんですが……」
『ふふふふ……。言ってごらん?』
含みのある笑いと共に、Mライトは願いを言うことを許可した。
「さっきの【
マロンは眉をひそめながら、タローに訊ねる。
「……え、急にどうしたのー? ご主人様」
『うふふふふふ……』
疑問に思ったマロンと、全てを見透かしているかのようなMライト。……クロマルはただムスッとして黙り込んでいた。
「『悪口』が『誉め言葉』に変換されるってことですが、別の使い方もあると思うんです。違う言葉である『A』を『B』って言うような」
『ふんふん』
「で……、今のボクはこの『魔法少女』の姿じゃないですか」
『そうねぇ』
「だからこの状態だけでも、口から出る言葉を『少女』っぽくしたいんです」
『ふーん……?』
「霧船……、『くん』付けより『さん』付けのほうが似合ってますし、自分を『ボク』と言うのもむずがゆくて。だから、それを自動で変換してくれるなら……、と思うんですが」
『……』
「……できますか?」
『や・だ♪』
………………。
「な、なんでですかっ!? っていうか、可能ではあるんですか?」
『できるけどね~、今のままのほうがカワイイじゃない』
「な、な、なにが『カワイイ』んですか!?」
『そーゆー恥ずかしがってるトコよ♪』
「うぅ、そんな……」
タローは……、いや「太郎」は、魔法少女に変身した状態での口調について悩んでいた。少女の姿であるなら少女らしい言葉遣いにしたい。だが、通常時と使い分けをするには、意識を切り替える必要がある。
一方で太郎財団の代表として元の姿で取引をする際、うっかり少女の口調で喋ってしまえば奇怪な目で見られることだろう。それで取引に悪影響が出てしまったら、魔法少女どころではないのだ。
だから可能な限り、意識せずに切り替えたい。そう考えているのであった。
しかしそれを断られてしまい、タローは落ち込んだ。
「……いや、待てよ。だったら、コマンドについて教えていただけませんか?」
『それもだめー♪』
「な、何故ですか? 霧船くんには教えてるんじゃ……」
『マロンちゃんには、ほとんど教えてないわよー? 魔法の名前を聞かれた時に答えるくらいかしら』
「え……」
『だからスゴいのよ、マロンちゃんは』
タローはマロンを見る。おそらく、Mライトも天から彼女を見ていることだろう。
「ん-、わたしは好きで覚えただけなんだけどー」
「じゃ、じゃあ、霧船くん。ボクにコマンドを……」
「ま、カンタンだからいいよー! 【
そう言い、マロンは両手を顔の高さまで上げて、パーの形。実践形式で教えようとしてくれるようだ。
「まずは右手を……、人差し指第一関節を30度、第二関節を90度、第三関節は曲げずに伸ばして」
「えーっと……」
「中指は第一関節22度、第二関節は75度で、第三関節は11度。薬指は……」
「ええっ!? いやちょっと」
「右手小指だけは第一関節5度で、第二と第三は曲げずに……」
………………。
「……ってやるとねー」
「ご、ごめん、霧船くん……。ちょっと待って」
「『準備用のマスターコマンド』が入力できるから、それで」
「って、まだ終わりじゃないの!?」
「いや、あとちょっとで終わりだから、だいじょーぶ!」
「……あとどれくらい?」
「マスターコマンドの二倍くらい」
「………………」
「で、そこからキーワードを指定するとさらに……」
「分かった、分かった! もう、諦めます!!」
タローも、マロンのことは凄いどころか、素晴らしい逸材と思っていた。しかし、
これを今まで実際にやってきたと考えると、その凄さが異常だと理解できた。もはや「素晴らしい『程度』」では言語化できない領域だろう。
口から出る言葉を自動変換するためにここまで必要なら、タローとしては意識を切り替えるほうが遥かに楽であった。
そして、それと同時にふと思ったことがある。
「じゃあ今までの変身とか、【
『そうねぇ。そのあたりの自動化は必須だし、クロマルちゃんの能力に実装済よ♪』
「さ、流石です……、ライト様」
これまで変身や技、魔法は使おうと思った時に身体が勝手に動いていた。どうやらクロマルの力で変身した場合、特定の行動では全身のポーズによりコマンドを自動入力してくれていたらしい。
さらに疑問は連鎖する。
「ということは、名付けもライト様が?」
『流石は太郎クンね~。そう、アタシが付けた名前よ。どう?』
「ボクはメチャクチャ好きです」
『あら、ありがと~。マロンちゃんはあんまり褒めてくれなくてね~……』
「そうなんですね。……そういえば、【サファイアビーム】もそうなんですか?」
タローは続けてMライトに質問。
【
『あー、それね。そこだけは「現場判断」でクロマルちゃんに一任したの』
「そうだったんですね」
きっと、めんどくさがり屋のクロマルがテキトーに付けた名前なのだろう。ホーリー「サファイア」の放つ「ビーム」だから、【サファイアビーム】、と。
『それが、どうかした?』
「いえ、必殺技だけ命名規則が違うのも……、イイなって」
『わ・か・る♪』
タローとMライト。両者はどうやらセンスが似通っているようで、話に花が咲こうとしている。
少し離れたところで、マロンとクロマルも話をしていた。
「……アイツら、妙にウマが合ってるニャリね」
「そだねー。……『アイツ』とか言ってると、らいとんにまたオシオキされない?」
「呼び先にタローを含んでるから大丈夫ニャリ。たぶん。」
……そういうことで、Mライトと意気投合したタロー。せっかくだからと、さらに要望を投げてみることにした。
「ああそうだ、ライト様。【
『あら、なあに?』
「変身のセリフって、コマンドに組み込まれてるんですかね。『きゅるんと変身』ってやつですけど」
『そうね』
「あれ、恥ずかしいので変えていただけないでしょうか?」
『……』
「コマンドって指の動きですよね? ならセリフは無関係じゃないかなー……って」
『……』
「ライト様?」
……ポロロン♪
まるでハープを弾いた時のような音が鳴った。
「ライト様ぁっ!!?」
……それから、Mライトが応答することはなかった。
口調の変換を断りながら、恥ずかしがる様を「カワイイ」と称したMライト。なので、セリフも恥ずかしがるのであればオイシイ話なのだろう。
改善に対して「拒否」ということを、Mライトは行動で伝えたのであった。
「ど、どうして……」
「ご主人様、ドンマイ……!」
落ち込むタローの肩に、ポンとマロンの手が置かれた。
■ ■ ■
「いやー、面白いコだったわねー♪ ……
真っ白な空間が無限に広がる、この世ならざる場所。
黄色い長髪に、それと同じくらい長くて真っ白なフリルのドレスを着た女性が一人たたずんでいる。
彼女こそがMライトその人……、否、その「神」である。
「マロンちゃんは強い相手を探してるみたいだし、近いうちに『デルルビスス』の討伐でも斡旋してあげようかしらねぇ。……はぁ、どいつもこいつも言いにくい名前」
「デルルビスス」とは、ワルレレノに続く「悪者」の集団である。キュルルジュエル星や地球だけでなく、各星人の「悪意」を糧として成長する「悪者」。それを退治するため、Mライトは地球星人に魔法少女へと変身してもらっているのだ。
ちなみに悪者の総称は、彼らによって意図的に言いにくい言葉にされている。何故かと言うと、口伝で情報が広まりにくくするため。「ワルレレノ」もその例に則ったネーミングである。
Mライトは【ワームホール】――Mライトは【隣家超越穴(ネイバー・ホール)】と名付けたが、マロンにそれを伝えていない――を開き、ガラスのように透き通った椅子をこの場に設置した。
Mライトは華奢な身体をしているが、椅子は過剰に幅や奥行きが広く、体形に見合ったものではなさそうだ。
「……ちょっと休憩、っと」
言いながら、Mライトは一瞬光に包まれる。
……光が晴れると、なんとその姿が「ガタイのいい老紳士」となった!
「太郎くんは、まだまだ青いのう。じゃが、この先が楽しみじゃわい」
椅子に腰かけるMライト。椅子は「彼」にちょうどいいサイズとなっていた……。
マスター・ライト。その頭文字は「M」と「R」。
MとR。「MR」である。
……「Mr」?
おしまい
【短編】めいど・いず・魔法少女 ぐぅ先 @GooSakiSP
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