第6話 第一閉鎖弁解除、リミッター解放
「赤黒いドラゴンか」
《ダンジョン協会ではヴァーミリオンドラゴンと呼称されているようです》
「安易にレッドと付けられない辺り、強敵と見た方がいいな」
《そうですね》
ヴァーミリオンドラゴンは空を旋回し、様子を見ているようだった。
「まだ様子見か」
近づく魔物を薙ぎ倒しつつ、上空を警戒し続ける。
「これはこちらから攻撃を仕掛けるべきか……?」
《空は向こうのテリトリーです。迂闊に近づくのは危険でしょう》
「だよなぁ。かといって奴を討伐しないとダンジョンは消滅しないしなぁ……」
《遠距離砲撃を試しますか?》
「そうしよう」
俺はアイテムボックスから対物ライフルの形状をした魔銃を取り出す。
もちろん、魔石などで改造済みである。
「地上の魔物を近づけないようにしてくれ」
《かしこまりました》
俺の周囲にビットが待機し、接近する魔物を即座に貫き、討伐してゆく。
「コアとの魔力回路接続。エネルギー充填120パーセント」
コアから魔力が最大まで供給され、撃つ準備が完了する。
俺は引き金を引く。
魔銃内部に貯められた魔力が極限まで銃口にて圧縮され、射出される。
それは青白い光を放ち、銃らしからぬ強力な光の奔流となりヴァーミリオンドラゴンへ突き進む。
ヴァーミリオンドラゴンが雷鳴のような重低音の雄叫びを上げ、口に魔力を溜めすぐにブレスとして放ってきた。
《ブレスで対抗するようです。ただ、集まる魔力が通常に比べて少ないようです》
「その程度のブレスでこの魔銃を防げるか試してみろ!」
俺は引き金をさらに引き込み、出力を限界まで上げる。
ヴァーミリオンドラゴンの口から放たれる炎のブレスが、俺の放ったレーザーと衝突する。
空中で激しいエネルギーの衝突が発生し、周囲の空間が震えた。
激しい光と熱が迸り、しばしの間、互いの攻撃が拮抗する。
そして俺の魔銃から放たれるレーザーは、次第にヴァーミリオンドラゴンのブレスを押し返し始めた。
ヴァーミリオンドラゴンが負けじと出力を上げてくる。
完全な拮抗状態に陥り、双方の攻撃の終わりが来た。それにより、衝突した地点で魔力の爆発が発生。痛み分けという結果が残った。
「これじゃ倒しきれないか」
《そのようですね、ここで倒せなかったのは痛いでしょう。おそらく敵性生物として認識されましたので、これから激しい戦いになると予測されます》
「気を引き締めていかないとな」
俺は魔銃の冷却システムを作動させ、次の一撃に備える。だが、次も同じ出力を出せるかは怪しいかもしれない。
今の一撃で魔銃の限界以上の威力を引き出した。撃っている最中に分解する可能性もある。
そう考え、魔銃をアイテムボックスへ仕舞う。
煙が晴れる、より晴れさせられた。
ヴァーミリオンドラゴンが翼を使い、吹き飛ばしたのだろう。
明らかに先ほどの眼とは違う、敵を見る眼。そんな感じがする。
本気になってきよったな。
ヴァーミリオンドラゴンが翼を大きく広げ、雄叫びを上げる。
遠距離攻撃はブレスで返されるか、回避されるだろう。
となると————。
「近づくのはリスクが高いが、やるしかないか」
《私はサポートしましょう。ヴァーミリオンドラゴンの動きを封じるために、ビットで妨害を行います》
「ああ」
脚部装甲を展開、魔力を放出する。
俺は大きく息を吸い込み、ヴァーミリオンドラゴンに向かって地面を蹴り出す。同時に背部スラスターを全開にすることで、飛び上がる。
風を切る音が耳元を過ぎ去り、一瞬でドラゴンとの距離を詰めた。
ヴァーミリオンドラゴンは驚きの表情を浮かべ、その巨大な爪を振り下ろしてきた。
「遅い」
ビットによるバリアが攻撃を防ぐ。巨大な爪がバリアに衝突し、火花が散った。
そのまま、別のビットによる砲撃を行い、爪を退かせる。
そして生まれた隙に、俺は加速し、放出した魔力で強化した蹴りを食らわせる。
「これでも食らえッ!」
蹴りがドラゴンの腹に直撃し、唸り声を上げて吹き飛んだ。
翼を広げ、静止したのが遠くで確認できる。
ヴァーミリオンドラゴンが怒りの咆哮を上げ、その翼を大きく広げて反撃の準備を整えたのだろう。咆哮が聞こえてくる。
ヴァーミリオンドラゴンが咆哮を上げると、その周囲に強力な魔力が渦巻き始めた。赤黒い魔力がさらに濃くなり、空が歪むほどの威圧感を放つ。
《強力な攻撃が来ます》
「見たらわかる!」
ドラゴンが巨大な翼を一振りし、空中で急速に接近してくる。その速度は圧倒的で、地面が揺れるほどの衝撃が発生し、伝わってくる。
「速い……!」
さっきまでも本気じゃなかったってか?
こりゃ、真面目にやらねぇとやばいかもな。
赤黒い魔力を纏い、突撃してくるヴァーミリオンドラゴン。時折、牽制として火球を放ってくるため、それにビットの防御を割かねばならず苦戦を強いられる。
アイテムボックスからさらにビットを増やす。
それを展開し、ヴァーミリオンドラゴンの火球を迎撃できるように展開する
「直撃コースの火球のみ、一機ずつで迎撃しろッ! 他は正面にバリアを展開!」
《かしこまりました》
飛んでくる火球に対して、ビット一機がレーザーを放ち打ち消す。
残りを正面に配置し、三機一組となりバリアを展開。
そして衝突。
複数のバリアを展開し、衝撃を受け止める。が、抑えきれず徐々に一枚、また一枚と破壊されていく。
火球の迎撃に回していたビットをヴァーミリオンドラゴンの背後に回し、攻撃を仕掛ける。
ドラゴンの鱗が砕け、血飛沫が舞う。しかし、ドラゴンは怯むことなく、突き進んでくる。
そして全てのバリアが破かれ、吹き飛ばされる。
地面に激突し、背中に衝撃を感じた。
「グハッ!」
《ヴァーミリオンドラゴンが迫ってきています》
マークが危険を知らせる。
俺はなんとか起き上がり、背部スラスターを起動し追撃を回避する。
「ふぅ……さすがにつえぇな」
《そうですね。追撃はどういたしましょう》
「いやいい、残ったビットは何機だ?」
俺はマークに残存機を確認する。
《バリアが破壊される際にほぼ全てを失いました。かろうじて動かせるのは四機でしょうか》
「十分だ。それで奴の気を引いてくれ」
《……何をするつもりで?》
マークが何をするのかと問いかけてくる。
新形態に移行してやろうという考えを伝える。
「あれを使う」
《まさか————強化形態は未完成です。このまま使用すると機能が完全に停止する恐れがあります。推奨できません》
「第一閉鎖弁解除」
《しかし……》
一緒に制作してきたマークはその危険性を十分に理解しているため、渋る。
「持ってきた保険を使うには、これでしか反動を抑えられないし扱えない」
《……かしこまりました》
なんとか説得に成功し、第一閉鎖弁を解除する。
《第一閉鎖弁解除します。リミッター解放》
マークの言葉と共に全身の装甲が変化する。コアから魔力が流れすぎることを防いでいた閉鎖弁を取り除くことにより、出力を大幅に強化することができる。
全身から蒼い魔力が吹き出す。
《タイムリミットは10分です。それまでにケ討伐してください》
「了解だッ」
蒼い魔力が全身を包み込むと、身体が軽くなる感覚が広がる。力がみなぎり、視界が鮮明になった。
周囲の魔物たちの動きが遅く見えるほどのスピードと力が手に入った。
また溢れ出る余波で周囲の魔物が灰となる。
ヴァーミリオンドラゴンは、依然として赤黒いオーラを放ちつつ、怒りに燃えた目でこちらを睨んでいた。
その巨体は空中で静止し、次の一手を考えているようだった。
「行くぞ……!」
背部スラスターを出力全開に、飛び上がる。装甲から溢れ出る魔力が蒼い光となってヴァーミリオンドラゴンに向かって突進した。
ドラゴンが驚愕の表情を浮かべる間もなく、俺の拳がその鱗に叩き込まれた。
鋭い衝撃音と共に、鱗が砕け散り、ドラゴンの体が揺れ動いた。
「押し切る!」
ドラゴンが反撃する間も与えず、続けざまに連撃を叩き込む。関節各箇所、背部スラスター、両腕部、両脚部が展開し、青い魔力が放出され、打撃を強化し、当たるたびヴァーミリオンドラゴンにダメージを与え続けている。
拳、肘、膝、蹴り——一瞬のうちに数十発の打撃を浴びせかける。ドラゴンの巨大な体が徐々に後退し、その目に焦りが浮かぶのが見えた。
今更、焦っても遅いッ!
「マークッ!!」
俺の意図を察し、四機のビットがドラゴンの周囲に展開し、レーザーや砲撃を放つ。ドラゴンがそれに気を取られている間に、俺はさらに強力な一撃を繰り出す。
全身の魔力を拳に集中させ、一撃必殺の拳を振り下ろす。その拳がドラゴンの胸部に直撃し、赤黒いオーラを吹き飛ばす。
ドラゴンが咆哮を上げ、血を吐き出す。その巨体が揺れ動き、地面に向かって急降下する。
《敵の体力が限界に達しています。追撃を》
「わかってるッ」
ドラゴンが地面に激突する前に、再び背部スラスターを全開にして追いかける。空中でドラゴンの背後に回り込み、魔力を全身に纏わせた一撃を放つ。
「これで、終わりだァッ!」
拳がドラゴンの腹に突き刺さり、腕部から魔力を爆発的に放出する。
ドラゴンの体が震え、傷口や眼、口などから激しい光が周囲を照らした。そして、その巨体が地面に激しく叩きつけられ、動かなくなった。
《ヴァーミリオンドラゴン、生体反応消滅。討伐を確認しました》
「終わったぁ」
全身から力が抜けるのを感じた。
《第一閉鎖弁を設定。閉鎖します》
「ああ」
蒼い魔力が徐々に消え、通常の状態に戻る。
「ふぅ……危なかった」
俺は深呼吸し、周囲の状況を確認した。
ボスの敗北と共に魔物は消滅し、辺りは静寂に包まれていた。唯一、戦闘痕だけが残り……。
復興は大変そうだな。
最後にヴァーミリオンドラゴンの死体を回収する。
これで新たな武器を作れるぜ。
何を作るかワクワクするなぁ。
「結局、保険は使わずだったな」
《そういえばそうでしたね。反動も大きいですし、素材も残らないので結果的には良かったのではないですか?》
「そうだな」
そしてダンジョンを出るべく、出口へと向かった。
ダンジョン専門発明家が潜るダンジョン探索。イレギュラー? いい素材になりそうだね 水国 水 @Ryi-
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