第5話 伝えたい
結局、真田がフラペチーノを飲み終わるのを待つまでの時間も俺たちの間には会話がなかった。
こうして飲み終わった今も、気まずい空気の中でなぜかお互いに向かい合っている。
でも自然と嫌な感じもしない。
今日一日を通して、真田は無口なようで意外とそうでもないことがよく分かった。
少しは喋ってたし、無愛想なのには変わりないけど、こうやってスノトに誘われたら来るくらいノリは良いのかも。
一匹狼みたいなイメージがあったが、意外とそうでもないみたいだ。
だが、こうやってダンマリなままなのはもう限界だな。
俺だって話すのは得意じゃないが……少し頑張ってみよう。
「さ、真田ってさ……凄いよな。何も喋らなくても高校では人気者だし、ファンクラブもあるし……」
俺が何げなくそう呟くと、真田は急にスマホを取り出してスマホに目を落とす。
俺がつまらない話を振ったから無視された!? と、思った刹那。
(ん? lime……?)
俺のスマホにlimeの通知が入り、俺もスマホを取り出した。
すると、
『真田:わたし、凄くないよ』
なぜか真田からlimeが送られて来ていた。
「え、なんで真田が俺のlime!」
問いかけるとすぐにポロンと通知が。
『真田:お姉さんから聞いた』
あのバカ姉……!
でもこれなら真田と会話できるのか。
真田って普段はほぼ喋らないだけで、limeならコミュニケーション取れるんだな。
「じゃあ、あのさ。真田はなんで喋らないんだ? もしかして面倒くさいとか?」
素朴な疑問、というか今更な質問だった。
でも知りたいと思って興味本位で聞いてみてしまったが、俺は次に送られて来たlimeを目にして、少し後悔する。
『真田:前に声があざといってバカにされたことがあった。それから喋るのが怖くなって、性格も暗くなって、いつの間にか喋らなくなった。ただそれだけ』
淡々と書いてあるが、それは彼女にとって辛いものだったに決まっている。
真田は声をバカにされて喋るのが嫌になってしまった……のか。
(やっぱり、変に踏み入るもんじゃなかったな)
俺は真田に余計な事を聞いてしまったと後悔する。
「ご、ごめん……真田。嫌なこと聞いて」
「…………」
怒っているのか否か、それすらも分からない真田の真顔。
もっと謝るのが正解なのか、それとも話題を変えるのが正解なのか、友達なんかいなかった俺には分からない。
それでも……。
「真田はどう思ってるのか分からないけどさ」
「……?」
「こ、声は人それぞれ違うし、気にする必要ないっていうか……なんていうか」
口下手なせいで纏まったことを伝えられない。
もっと、絞り出せ……俺!
「ま、周りの人はさ、きっと真田みたいに特別な物を持っているのが妬ましいだけっていうか! 真田は美人でキラキラしてて、眩しいからイジワル言ったんじゃないかなって……だから、周りのことなんか気にしないでいいんじゃないかな!」
口下手でもいいから、少しでも真田に伝わって欲しいと思った。
だが真田は、フラペチーノの空コップを手荷物と椅子から立ち上がる。
「さ、真田?」
すると真田は俺の耳元に顔を近づけ——
「また、来ようね?」
と、呟いてテラス席からそのまま外へ行ってしまった。
「……な、な、なっ」
やっぱり……真田は分からない。
☆☆
無口ギャルは口下手な俺と"話したい"らしい。 星野星野@2作品書籍化作業中! @seiyahoshino
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます