前世ルーレットの罠

蠱毒 暦

彼女が残した箱庭で

見送った後、谷口は建物に戻る。


(はぁ…悪魔の次は天使か)


「巻き込まれただけの井上君はともかく…唯ちゃんには罪滅ぼしの意味も込めて、少しは頑張ってもらおっかな☆」


万が一に備えて拳銃を持ち待機していたアレイと目があう。


「アレイ君。数週間の座天使ちゃんの監視…本来ならお疲れ様と言いたい所だけど……」


「暫くは観察を続けろ…か。」


「!…いやぁ〜話が早くて助かるよ。」


拳銃をホルスターに戻し、アレイは敬礼した。


「…では。」


「気をつけてね。もし彼女が道に迷っていたら、ちゃんと助けてあげなよ。」


「了解だが…主はいい加減に睡眠をとれ。社員の皆もそうだが…俺もそれが気掛かりだ。だから相談して…こうする事にした。」


近くで職務をこなす社員の目が光る。


「えっと…皆どうかしたのかな?ちゃんと給料とか支払ってるよね!?ねえ!?!?」


「…丁重に仮眠室に連れていけ。」


『はい!!!』


「アレイ君…君はいつからそんなに交流して…げ、減給しちゃ…ぎゃぁぁあ!!!…待ってくれ。あのさ、お神輿感覚で私を担ぐのやめてもらえないかな!?かな!?!?」


アレイはその姿を一瞥してから自動扉から外へと出て行った。


「あ。しれっと今少し笑ったろ!?…ああもう、帰ってきたら覚えてろよぉーー!!!」


社員の皆に担がれながら、谷口は仮眠室へと強引に運ばれていった。


……




——数◾️年前


…パンッ



気づけば、見知らぬ場所にいた。


(……。)


辺りは薄暗く、手足は十字架に縛られ身動きがとれない。動ける範囲で周りを見ると円状に長机で囲まれていて…何人かは既に座りこちらの様子を伺っていた。


「あれが噂の…」


「……悍ましい。」


ヒソヒソと話し声が聞こえて、声を上げようとした…そんな時だった。


「…静粛に。」


カンカンと音が響き、辺りは静まり返る。いつの間にか、正面に四角い眼鏡をかけた青黒い髪の見知った男が立っていた。


「これより、大罪人の審判を始める。」


大罪人……俺のことか。


「此度も『中立神』カオス様の代理として、この審判を取り仕切る事になった。改めて名乗ろう…『裁定神』エクレールだ。悪魔との和平条約調印以来になるか…ラスト殿。」


「…そうだな。久しぶり〜って…言える空気ではないけど。」


「私も神の1人ではあるが…ユティの件だけは…同情しよう。」


俺は黙り、内心歯噛みする。


「…貴君への罪状は四つ。」


「一つ目は『元々一つの大陸で構成された世界を修復不可能な状態まで破壊した』事。これにより大地は何万と割れ、散り散りになった…異論はないか?」


「…ない。」


「二つ目は『貴君が造った対神兵器によって、神々の総数の8割…天使を至っては9割を無慈悲に殲滅した』事。直接手を下してしない故、あの兵器にも責任問題が発生するが…」


「しないよ。これは俺が全て主導した…だからエクスは悪くない。悪いのは…我1人だ。」


「は……ふざけるなぁ!この人間の所為でどれだけの神が滅ぼされたと思ってる!?」


「…その通りだ、さっさと殺せ!!」


「こんな茶番はやめて…早く判決を。」


その言葉に反応してか何人かの神が俺に罵詈雑言をぶつけてくるが…


「……静粛に。」


その一言でまた場はすぐに静まり返った。


「…エクレール。ありがとう。」


「どんな罪人であろうと、審判は厳粛かつ公正に行われるものだ……感謝は必要ない。」


俺が黙ったのを見てからまた話し始めた。


「三つ目は『5人いる大神の1柱であらせられる混沌神バリラ様や破壊神レレア様を殺害した』事。後…いや、何でもない。」


「…。」


エクレールが何かを言いかけたが、話は粛々と続いていく。


「最後は『貴君が産み出したものによる、人間の大量虐殺。及び、神や悪魔…精霊や竜とも違う存在の発生』…これについて、何か申し開きはあるか?」


「…ない。あれは万が一に、俺が暗殺とかで早くに死んだ時に発動する驕った人類に対する安全装置…抑止力だから。」


「…そうか。」


カンカンと音が響き、辺りに朧げな光が灯され、周囲の鮮やかなステンドグラスがよく見えた。


「この審判において弁護人は存在しない…その理由はもう理解しているな。」


「分かってるよ。」


一息おいてから、エクレールは言った。


「神や悪魔…果ては同族である人間やこの世界の理すら捻じ曲げた革命家…否、叛逆者ラスト…『天界』の硝子法廷においてここに判決を下す。」


貴君は——


……


天界のとある場所にて。



はは…それ、君が持っていたのか。


——。


俺が優秀だから執行猶予ができた?…結果的に敗北したから嫌味にしか聞こえないな。もう2度とするものか。


————。


あの時…ユティの事を言わないでくれた事だけは…感謝してやるよ。



——。


…そうだね。お互い、こうして変われたのは…全て彼女のお陰だった。




——えへへ、ラ〜ストっ♪




…目を開ける。



「…ユティ。」


クルクルと形を変え、何度人生を繰り返そうが決して忘れられそうにない彼女の姿を思い浮かべながら仮眠室で1人、涙を流した。

                  了

                             









































































































































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