第2話 襲撃ライバル国ルルシア帝国  ゴミはゴミ箱がお似合いなのよ!

______ここ私が住む南国ジャーブラ島では、午前10時になるとコーヒータイムとなっている。と言ってもそれは私一人だけのオンリースケジュールだ。

「失礼します」

 静かにそれでいて優雅にコーヒーを差し出す姿は、高級ホテルで働く洗練されたメイドそのもの。

 ピク


汚物襲来おぶつしゅうらい

 しかしそのメイドの、中間から折れていたうさ耳が突然、ピンと直立して左右に動いた。もちろん、それはバニーガール仕様のアンドロイド、バニラ・アイスである。 


「いけませんご主人様、狂敵です。おぶつが島に侵入しました!」

「なんだっておぶつ! 本当なのかバニラ・アイス。どうして対地レーダーが反応しなかったんだ?」

「弾着まであと10m、0.1秒」

「くそ、何だって巡行ミサイルが!もう間に合わない!」


 などと言っている時間は無いのに、青年は頭を抱えて座り込むしかなかった。巡行ミサイル相手では、なんとも無駄とも言える反応である。

 ん?


 ぷしゃーん

 やがてロックドアが開いて現れたのは、工事現場の黄色いヘルメットを被ったエージェント・Joeだった。


「はぁ~い、お久ぁ~博士ぇ~私来ちゃったぁ~」

 ......。

「おいバニラ、このジョーが敵の巡行ミサイルだってか? AIが冗談噛ますのか? 全く脅かしやがって!」 

「地上レーダーでJoeは捕捉出来ないので、私が感知したのれす」


「汚物......それでジョー、今日は何をしに来たのさ?」

「そ、それわぁですねぇ......」


 ジョーが4回目となる青年の島を訪れたのは、もちろんライバル国の情報を伝える為だろう。それしか理由がないのだから。


「う~ン それだったら暗号通信か、古風だが伝書鳩でも良かっただろうに。わざわざ島まで来るとは、ご苦労様なのか暇なのか? エージェントってのは?」

 あはっ


 私の言葉にジョーが一瞬、目が泳ぎキョドッタのを、アンドロイドのバニラ・アイスは見逃さなかった。


「あ、そ、それはですね、海より深い訳がアリマシテ。暗号通信も ラ、ライバル国に解読されてたら、それは不味いでしょ、だ、だから私が直接出向いた た たって訳なのよさ」


「のよさって、それ随分と浅い海だよね」


『うぅ....このゴミ、心拍数が異常に上がっている!それに3回目に来た時よりメイクが濃く念入りになってるし、しかも何でパンティが見えそうなミニなのよ。ふふ、まあいいわ。......これで排除レベルに達したのを確認したから、今日はどんな手で......』


 エージェント・ジョーも、糞アンドロイド、バニラ・アイスがまた何か仕掛けて来るとピンと来ているので、工事現場用の黄色いヘルメットを被って来たのだ。ミニにヘルメット姿とは、実にアンバランスではあるけれど、工事現場コスで萌えるマニアもいるのかもしれない。


______「ジョロジョロ、美味しいコーヒーはいかが?」

「結構です!それに私の名前はジョーだ!アンドロイドの癖に、どうして覚えないの!」

「あらら?いつ改名したのですか?」

「してねぇし!」


 バニラが出す飲み物など、当然何かが混ざっている。前回は強力下剤入りコーヒーを飲まされ、トイレに缶詰めにされたのをジョーは決して忘れてはいない。


「あ、あの事ですね!前回は便秘だと思い、お薬を入れさせて頂きました」

 ジョーは糞アンドロイドとやり合うより、どうしても話さななくてはならない事がある。


______「博士、この島はライバル国達に依然として監視されているのですよ。ハメリア情報局では、奴らはまた何か仕掛けて来ると確信しているのです」


 ライバル国は次世代AIを研究していた両親を、事故に見せかけて殺害に成功したが、肝心の次世代AI<myu-360>を見つける事が出来なかった経緯がある。


「ジョー、ライバル国はこの島に、次世代AIがまだ隠されていると思っている訳? ハメリア合衆国でさへ、次世代AIの開発は出来ていなかったと結論を出しているのに、何でライバル国達はまだ諦めていないんだよ」


 天才青年博士の言葉に、エージェント・ジョーはジト目で博士の瞳を見つめた。

「博士ぇ、あなた絶対にまだ何か隠しているわよね。でなければ、ライバル国達が未だに監視活動をしている理由の説明がつかないもの。私だけに話してくれてもさぁ、もういいんじゃないかなぁ~」


『ゴミエージェントなんかに話せるものですか! 馬鹿なの? この年増のメスは!』


 ライバル国ルルシア、亜細亜宗国あじあしゅうこくの狙いは次世代AI<myu-360>であり、そのAIは私が完成させたアンドロイド、バニラ・アイスの中に埋まっているのだから、奴らが気づく筈はない。

それは裏を返せば、ライバル国達の新型AI開発が遅れている証拠で、何としてもハメリア合衆国に勝たねばならない焦りからなのだろう。


◇襲撃◇

____エージェント・ジョーの情報は当たっていた。

 ビビ ビビ オールモードレーダーの警報音だ。


「ご主人様、敵です。国籍不明のステルス機が、島に着陸しようとしています」

「ほぉらビンゴ!博士、奴らはまだ次世代AIが島に隠されていると思っているから襲ってきたのよ。一刻も早く逃げましょう!」


 エージェント・ジョーの言葉に、博士とバニラ・アイスが目配せをすると、何かを観念したように博士がジョーの手を掴んで走り出した。

 ガシィ


「はぁん、博士ぇは強引なんだからぁ♡」

『ご主人様のそれは想定外。ジョロジョロ 殺す!』


 3人が走り向かったのは、例のウサギの縫いぐるみがある博士の部屋だ。

 そして博士が、ウサギの縫いぐるみに向かって手早く認証を終えた。

 グゴゴゴ ゴウン ゴウン

すると床に地下に通じる重厚な隠し扉が現れ、同時にオレンジ色の照明が奥に続く通路を照らした。


「は、博士、これは?」

「ジョー、時間がない。いいから黙って私に着いて来て!」

 はひっ


 バニラが見ると、いつの間にかジョーの両手は博士の左腕に絡みついていた。

『そこは私の排他的独占テリトリー! ジョロジョロ 絶対に殺す!』

 博士とジョー、そして不気味な黒いオーラを纏ったバニラ・アイスが階段を降り始めると、くぐったドアは自動で閉まっていった。



「あの博士、これは秘密の抜け穴で、島のどこかに出るとか?」

「違うよ」

 ジョーが黙って着いていくと、今度は鈍い光を放つ金属製の扉の前に出た。


「ここだ」

すぐにバニラが、ご主人様に絡みついているジョロジョロを強引に引き離すと、ジョーがバニラを睨んだ。


「この糞アンドロイド。何をするだに!」

「あら、ご主人様にゴミが付いていたので」

「こんな可愛いくて、ナイスバディなゴミがあるかぁ!」

「まちがえました。汚物でした」

「お前達、仲が良いのはいいけど、今はコントをしている時間は無いから。行くよ」

 うぐぅ


「......ご主人様、この汚物も入れるのですか? 私は汚物はここで放置するのが最善だと思いますが。ライバル国が奇麗に処分してくれます」

「汚物って誰の事なのよさ」


「バニラ、敵が侵入して来たんだ、ジョーを見捨てる訳にはいかないだろ」

「ウゲ それってやっぱり私のことなんだ」

「でもそれでは、ご主人様と私の秘密が......」

「時間がない。とにかく中に入ろう」


◇研究室◇

ドアを抜けると、自動で煌びやかな照明が点灯し、そこが何であるかをジョーに見せつけて来た。

「あの博士、ここは研究室ですか?」


 ここが亡き両親が残したラボであり、バニラ・アイスが誕生した場所なのだ。このラボの存在は、ハメリア合衆国でさへ知らないし、僕とバニラ・アイスだけの秘密だった。


「ジョー、研究室でもあるけど、それだけじゃないよ。実はここはね」


 ドガ ドガ ガガ


「ご主人様、敵が隠し扉を破壊しています。島を離脱しましょう」

 ジョーは抜け穴が無ければ最悪、このラボで籠城ろうじょうする覚悟でいた。それがバニラの離脱と聞いて首を傾げるしかなかった。


『ふふ、離脱したらすぐ、この生ゴミをダスト・シュートに放り込んで捨てる......完璧な策だわ』


◇離脱◇

「バニラ、エンジン始動シーケンス開始」

「はい、ご主人様」

「何? 何が始まるの博士?」

訳も分からず棒立ちになっているジョーに、バニラが微笑みながらこう言った。

「ジョロジョロ、揺れるからそこのダストボックスの中に入って」


 やがて蜂が飛ぶようなブ~ゥゥんと言う音がし始め、次第に音が大きくなっていった。

「何?これエンジンの音なの?」

 ブンブン ブウ~ン

「バニラ、Gate Open!」

「はい、ご主人様」


 ラボ全体が大きく揺れ出して、ジョーはダストボックスに入るようにと言ったバニラ・アイスの言葉の意味を理解した。

「こんなに揺れるからなのね、また嫌がらせを仕掛けて来ると疑ってしまった私って......謝るわバニラ・アイス」


 『ふっ、チョロイン』

「発進するぞバニラ、ナビシートに座れ」

「あの、私は?」

「ジョー、二人乗りでシートが無いんだ。君は吊り革で頼むよ」

 『へ?二人乗り? 吊り革? ここ何なの?』


 「スイッチON 発進!!」

 ひええ~ ゴロゴロ

 Gate、 発車 二人乗り シート 吊り革のキーワードと聞いて、エージェント・ジョーは理解した。

「このラボは......座席のない大型バスだったのね!」

 

 ジョーの言う大型バスが45度に傾斜すると、ジョーの足は宙吊りになって悲鳴を上げている。しかしそれにはかまわず、博士とバニラは操作を続行中だ。


「Gate 全開放しました!」

「Gエンジン接続、上昇開始」


 一瞬大きく振動したかと思った瞬間、大型バスは平行に戻った。その時ジョーは、大きな窓から青い空を見たと思ったが、すぐにまた45度に傾き、無様に床を転がっていった。


 キュィイ~

「博士、生ゴミが気を失いました。腐るので捨てましょうか?」

「バニラ、仲がいいのは分かるが、大気圏を離脱した地球軌道にいるんだから、冗談はその位にして世話してやれよ」


 ここまで来ればライバル国はもう手出しが出来ない。私がコックピットから立ち上がり、ジョーの様子を確認すると......。

 壁に激突したミニ姿のジョーが、ヒヨコを飛ばして120度大股開きで気を失っていた。


「黄色いヘルメット被ってたのがまあ幸いだったよね。流石に用意周到なんだな、エージェント・ジョーって......おっ白だ」


「ご主人様ぁ!」

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天才青年科学者とスーパーアンドロイドは異世界で暮らす事に決めた 保毛山保毛の介 @super70

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