天才青年科学者とスーパーアンドロイドは異世界で暮らす事に決めた
保毛山保毛の介
第1話 年越しに緑のポンポコそば食べたいって何よぉそれぇ~!わたしを召しあ......プン
______両親が名付けた、ここ南国ジャーブラ島でも、あと数分で年が明ける2053年の大晦日の事。
直線距離で5km、瓢箪のように縊れのあるこの孤島には、古そうなAI研究所が一棟あるだけで、住人は私一人と一体だけだ。
カッコン カッコン カッコン
研究室の柱にかけられた、今時古風なゼンマイを巻いて動く振り子時計が、歯車を回す音を鳴らして時を刻んでいる。
「これだよ、ゼンマイで動くこのレトロ感が私は落ち着くんだよ」
コッ コッ
振り子時計が穏やかな時を刻む中、美しく可憐な美少女がヒールを鳴らしながら一人歩んで来た。彼女がその手に持つトレイは、竹を編んで平たいトレイにした物で、一見ザルに似ていた。
そのザルには、レトロなカップに注がれた淹れ立てのコーヒーが載っている。
振り子時計とザルから推測出来るように、青年はきっと拘りの豆を使っているだろう。コーヒーもきっと芳醇で豊かな香りを奏でているに相違ない。
コト
カップ一つを落ち着いた作法で、ちゃぶ台を高くしたような木製テーブルに置くと、その美少女が少し呆れた顔になってこう言った。
「もうご主人様ったら、またそれをご覧になっているのですか?」
「なんだ悪いの? MHK金銀歌合戦も終わったし、煩悩を追い払うと言う百八の除夜の鐘を今年も待っている事が?」
「あのお言葉ですが、ご主人様が二百十六の煩悩まみれなのは、十分理解しています。でも、この島にはお寺なんてありませんけど?」
「おいどうして煩悩が増えているんだい? いいかい人間とは煩悩の塊なんだよ。だから除夜の鐘を訊いて、汚れた心を洗うんだ」
「......私には理解しかねますし、除夜の鐘に
「信じる者は皆、救われるんだよね」
話は終わったとばかりに、青年はまた視線をモニターに移した。
◇記録◇
______大型モニターに映し出されているのは、過去の戦争を記録したアーカイブだ。
それをアーモンドミルクがたっぷりと入った、コーヒーカップを片手に藤製のチェアに深く腰を落として、青年は映像を注意深く見入っている。
その青年は、甘いマスクに少し長めの黒髪を無造作に掻きあげる姿が、メンズモデルのように様になる爽やかなイケメンである。
ジジ ザザ
「ノイズの酷い30年前の記録ですね、いったいそれには何が?」
「これかい? 28年前に生まれた私だからね、これを見る度に色々と考えさせられる事があるんだよ」
......。
あの?
青年からは、それ以上の言葉が続かなかった。
実はここには鐘楼が無いので、別のモニターが除夜の鐘をリアルタイムで放送しているのを、青年は訊くつもりなのだ。
______ゴォ~ン ゴォ~ン
「あ、2054年になった!<年越し緑のポンポコそば>が食べたいから作ってよ」
「......もう何よぉ~それぇ」
『ぷくう~......もっとする事があると思うんですけどぉ~。折角二人っきりなのにぃ。でもアレって何なのか。ご主人様はどうして私に教えてくれないのかしら』
白衣の青年の横に立つ美少女は、青年の態度に頬を膨らませて不満を示しているけれど、それを青年は全く意に介してはいないのだ。
『この鈍感!あほ』
◆◇◆◇
<青年が見ている映像>
______西暦2054年の人類は、2024年に勃発しかけた第三次世界大戦を、辛くも回避して生き延びる事が出来のだった。
その原因となったのは2発の核ミサイルで、それを発射してしまったのは軍事独裁国家<ブラックフォーン>であった。
事の始まりと言えば、国家存亡の崖っぷちに立たされた<ブラックフォーン>が、既にどうにもならない経済状況に追い込まれ、国民は餓死者が絶えず疲労困憊の極致に達していた時である。
これは何の打開策も考える事が出来ず、破れかぶれになった他国頼りの無能な総統の重大な責任が齎した結果だ。
ジジ 時折映像にノイズが走る。
独裁国家<ブラックフォーン>総統が頼りにしていたルルシア、亜細亜宗国からの食糧をはじめとした援助物資が足りず、総統には<ブラックフォーン>国家滅亡の未来しか見えなかったのだ。
その八つ当たりの矛先がルルシア、
当然ルルシア、亜細亜宗国の二国は、この核弾頭ミサイルを無事迎撃に成功し、報復として広島、長崎級の小型核ミサイルを撃ち込んだのだ。
これにより、軍事独裁国家<ブラックフォーン>の首都平金(ぴょんきむ)は壊滅、6000万人の人口の内300万人が犠牲となった。
______ザザ また映像にノイズが走る。
全世界にとって、厄介者のブラックフォーン総統が死亡した事により、軍事独裁国家<ブラックフォーン>は、やっと総統の呪縛から解放されたのだけれど、復興には数十年の時間を要した。
モニターが映し出す映像は、ノイズの無いクリアな画面になって行く。
2050年までには、ハメリア合衆国と日本も協力した放射能の除染作業と経済援助が終わり、ルルシア、亜細亜宗国もやっと核戦争の愚かさに気づいた。
映像のナレーターは語る。
「第三次世界大戦____核戦争勃発の危機を脱したのです」
26分に渡る映像は、ここで終わった。
プッツン
___<第三次世界大戦の危機を脱した>しかしそれは表向き。
2030年代からルルシア、亜細亜宗国、ハメリア合衆国の目は、地球では無く月に向けられていたからだ。
日本を含めて月面には、数多くの基地が建設された2050年代、月の領有権は何度も国連で問題にされた結果、世界のどの国も月の領有権を主張しない事で一件落着となった事があった。
その裏には......各国を納得させる条件が信じられない事に、<太陽系の手付かずの惑星領有権は、この限りに非ず>とした事で、惑星一番乗りを目論む世界中のロケット開発競争に火を点けてしまったのだ。
ハメリア合衆国MASAは、2040年までに有人火星探査を計画して来たが、ロケットの技術的な問題が解決出来ず、計画が頓挫した事があった。
しかしここに来て、国連で太陽系の惑星の領有権が、早い者勝ちだと決議されると、世界の目は地球のちっぽけな領土争いから、太陽系へと矛先が変わったのだ。
◇怒り◇
______「本当に人間って奴は!」
「でもご主人様、そのお陰で全く利用価値がなくなった、ここ南国の無人島を、格安で購入出来たのですから」
「でもジャーブラ島を購入したのは、僕の両親だったけどね」
残り少なくなったご主人様のコーヒー。最後に一口含んだ青年の瞳は、モニターから窓の外の美しい南国の青い空に向けられ、ただ虚空をボンヤリ見つめていた。
『アフぅ~ンご主人様、その横顔が素敵ですぅ』
30年前に両親がハメリア合衆国領の無人島を購入し、研究所が完成した二年後に青年は生まれたのだ。
「ご主人様のご両親がお亡くなりなったのは、16年前でしたね」
「そう、当時12歳の僕はそれから一人で、この島で暮らして来たんだ。でも寂しくはなかったよ」
......。
「そして1年前に、この私を作ってくださいました」
『もじもじ』
「お前を完成出来たのは、両親が残してくれた次世代スーパーAIのお陰だよ。こんなAIは両親以外、世界中の誰も作れないんだから」
『でへへ そうでしゅか♡』
青年はこの島で12歳から27歳まで一人で暮らし、1年前に目の前のアンドロイドを完成させたのだ。
亡き両親が研究開発していたのは、ハメリア合衆国から依頼されたロケット用と、兵器転用が出来る次世代AIだったが、極秘に研究していたのが平和利用の次世代スーパーAIだった。
兵器転用ではない平和利用の為のAI。それは世界にたった一つしか完成出来なかった<次世代超AI-myu360>である。
そのAI-myu360が、ライバル国に狙われている事が分かり、隠し場所のパスコードを残した直後に事故死したのだ。
「そのスーパーAI-myu360が今は私の中にあるの......」
『ご主人様があの記録映像を見る理由は、未だに領土争いをしようとしている国、人類に怒っているのでしょうか?』
「今は宇宙ロケット開発に世界が過熱しているんだ。両親が開発していた次世代AIは、当然に探査ロケットに搭載される最重要パーツ......それは惑星の所有権を勝ち取る為に使われる予定だったんだよ!」
「でわ、でわですよ、ご主人様は、ご両親の死はライバル国が絡んでいるのではとお考えなのですね!」
「あぁ絶対に間違いないよ」
過激化する太陽系ロケット開発の邪魔になった両親を、ライバル国が事故を装って抹殺したと考えられるのは、ハメリア合衆国諜報部からの情報があったからだ。
情報を齎した彼女のエージェントネームはJoe(ジョー)。両親の事故死があってから、諜報局に抜擢された若き26歳のエリートである。
両親の死に違和感を覚えたジョーは、3年前からこの島に数回足を運んで来ているので、私にとっては数少ない顔見知りだ。
私が作ったアンドロイドとも、1年前から3度会っているのだが、会う度にアンドロイドと妙な? 何かがエスカレートしているような......それは私の気のせいだろうか?
エージェントジョーと初対面で出したコーヒーに塩が入ってたのは、まぁ砂糖と間違えたとしてもだ、2回目には強力な下剤が入っていた。
『トイレに缶詰のジョーに.....私はうけた』
3回目にはドアをくぐった途端、ジョーの頭に金ダライが降って来た。もうこれは間違えたと言うレベルでは無いと私は思うのだが。
______「もう、ちょっと博士ぇ、どうなっているの?あなたんとこのアンドロイドは! 欠陥品のポンコツじゃ?!」
「お、おかしいな、こんな事はジョーが来た時しか起きないんだけど、偶然が重なるとは怖いね」
あはは
「偶然? そんな馬鹿な事あるわけ無いでしょ!」
あは あはは
と、その時の私はジョーを誤魔化すように大笑いしたものだ。
私はエージェントジョーから両親死亡の情報を得て来た。そして、ほぼ両親は殺害されたと確信するに至っている。
______殺害された原因は、やはりアンドロイドに搭載した次世代スーパーAI-myu360にあるのは間違いない。
◇エージェントJoe◇
エージェントジョーが初めて島にやって来たのは3年前。詳細な捜査により、両親はライバル国に殺害されたと教えられたのが切っ掛けで、私は両親の残したあるパスコードの事を思い出したのだ。
驚くべき本当の研究施設は、地上ではなく地下に作られていた。
それは私の部屋に飾ってあるウサギの縫いぐるみに関係していて、実はこれが研究室に通じる鍵となっていたのだ。
私の声紋、虹彩認証と僕の指紋による認証システム、更にお守りだと思っていたペンダントが、最終ロック解除キーだった。
見た目は只の玩具ロボットなので、侵入した暗殺者も気づかなかったのだろう。
「いい? 何かあったら、このウサギちゃんの目を見て話しかけるのよ」
確か母親が私にそう言っていた。「何かあったら」とは、恐らく両親は身の危険を感じていたからだろう。
そしてエージェントジョーの話を聞いてから、私はウサギの目を見て話しかけ、隠された地下研究室を無事発見したのだ。
______「バニラ・アイス、お前はそこで私が完成させた。両親が守り通した次世代AI-myu360を組み込んでだよ」
「はい、あの日あの時、目覚めた私は運命を心に刻んだのです」
「えっ? ココロに? AIがかい?」
キャラクター紹介
☆バニラ・アイス
1年前に天才青年科学者によって誕生したアンドロイド。
身長162cm 乾燥重量53kg、ブロンドの長い髪に、出る所は出て
地下研究室で発見した当時は半完成の状態で、恐らく両親が友達のいない私の為に、メイドも話相手も出来るアンドロイドを作ろうとしてくれたのだ。
しかし、それは叶わなかった。
ウサ耳を装備したエルフ型とは、両親は幼い私の好みを良く知っていると感激したものだ。
その半完成のアンドロイドを、天才を受け継いだIQ280の私が、更に改良して仕上げたのがバニラ・アイスなのだ。
ちなみに名前は単純に、私がバニラアイスクリームが好きなので即席で付けたもの。
一つ疑問があるとすれば、両親が残したバニラ・アイス専用のコスチュームなのだけれど、何と言うかこれが全く......。
「実にケシカランのだ」
今もそのケシカラン姿で、私の前に立っているんだけどね。
「あの.....ご主人様、私......なんだか動悸がしてきました」
「プログラムのバグかもしれないな。だったら自己診断を始めてみて」
「あはい、喜んで! じゃぁ行かせていただきます」
ぷちゅぅ~
ちゅぽん
はぃぃぃ?
☆エージェントJoe(ジョー)
ハメリア合衆国の秘密諜報局に抜擢された26歳のエリート。165㎝、内緒kg、これまた金髪ロングのボッキュン美女。
青年の両親の死後、身辺の監視をしながらAIを巡る陰謀を単独調査していたが、青年と初対面で胸騒ぎが始まっていた。
それにバニラ・アイスのAIは敏感に反応していて、ジョーに対する嫌がらせが始まったのである。
______この物語とは、青年科学者とバニラ・アイス、エージェントJoeの2人と1体が、次世代AI-myu360を狙う者達とのバトルを通した、奇妙奇天烈な<イチャプン>恋物語である。
次世代AI-myu360(バニラ・アイス)を守り通す、これは地球と太陽系の愛と平和と正義の戦いなのだ。
(たぶん)
「ところで博士、こんなAIは粗大ゴミに出せばこの物語は完結しちゃうんじゃ?」
「そうかも。でもさ、私はバニラ・アイスが大切だし物語は今、始まったばかりだよ」
「あぁん~、ご主人様ぁ~好きですぅ♡」
ナヌ!
______果たしてこの茶番恋物語は、続けられるのだろうか?
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