12. 月と太陽

 バタバタバタバタッ、と多くの足音が廊下に響く。そんな中、立ち入り禁止の札が貼られた会議室に、ある五人の姿があった。


「状況は?」

「敵は東から侵攻を始めている。なんとか食い止められているが、破られるのは時間の問題。狙いは我が国への嫌がらせだろう」

「あはは……だいぶ恨みを買いましたからね。相手は戦争で利益を得ていた国ですから、平和はお望みではないようで」

「だからって、ウチに喧嘩をふっかけなくても良いと思うんですけどね」

「そうだな。相手が悪すぎる。愚かな判断だ」


ミロ、ギルベルト、ルークの会話を聞きながら目を伏せる男女に


「なぁ? 月と太陽」


ギルベルトは口角を上げて話を振った。


「残念ながら子どもの癇癪かんしゃくに付き合うつもりはありません。わからないのなら、体感していただきましょう」


ソフィアは静かにそう言うと、地図に印を書き込み始めた。


「今回は攻撃部隊を二手に分けます。ノア班と、ルーク班。北と南から挟んで攻めましょうか。防御部隊は引き続き国民の安全確保を。相手を油断させるため、多少は城下町付近まで侵攻を許して構いません。他は死守。偵察部隊は情報収集と、敵の偵察部隊の妨害を。情報戦に強い相手です。こちらの情報を隠すことも怠ることのないように」


大雑把な説明の後、詳細に指示を渡していく。ギルベルトはソフィアの姿に、ふっ、と微笑むと席を立ち


「まぁ、いつも通りやれば問題ないだろうさ。指揮はお前に任せるよ。また後でな」


早速、仕事に向かった。続いて、ミロも


「絶対に敵をここには入れないから。安心して勝利へ導いてくれ。頼んだよ、殿


余裕の笑みを浮かべて退出した。


「……さて、僕らも行こうか」

、お願いしますね?」

「まぁだ、あの時の作戦破ったこと根に持っているんですか? 勝ったんだから良いじゃないですか」

「ノア、部下の監視も追加でお願いしますね」

「あはは、了解」

「ちょっ、ノアさん……!」


にこにこと浮かべる笑みの下の静かな怒りに、ノアは苦笑しながらルークの手を引いて部屋を出る。誰もいなくなったか、と思えば、ノアが戻ってきた。そして


「忘れもの」


ソフィアの手にキスをした。


「……今はそういう時じゃないでしょう」


呆れて小さくため息をつくソフィアだったが、耳は赤く染まっている。


「勝利を持って帰ってくるよ、絶対に。だからここで待っていて。どこにも行かないでね」

「心配性ですね。ならば、早く帰ってくることです。私が痺れを切らして、動き出す前に」


ノアの言葉に、ソフィアは不敵に笑って見せると、今度はソフィアからノアの頬にキスをして


「いってらっしゃい」


そう言って、ノアの背中を押した。少し驚いた表情の後、ノアも柔らかく笑うと


「行ってきます」


左手を振り、ソフィアに背を向け走り出した。ソフィアもまた、ノアに手を振って後ろ姿を見送る。

 二人の左手の薬指には、同じ銀色の指輪が光を宿し、輝いていた。

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月の光に焦がれて 葉月 陸公 @hazuki_riku

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