第60話


これがアシュリーの望んだ結末だ。

もっと罪悪感に苛まれるかと思ったが心は空っぽのままだった。


(みんな大っ嫌い……)


この気持ちだけは何も変わらなかった。



数日後……オースティンは馬車の中で息を引き取ったそうだ。

サルバリー王国に戻ったが壊滅状態。

魔獣溢れる辺境を抜けるために馬車を捨てて、なんとか城に戻ったサルバリー国王と王妃は待ち構えていた貴族や国民たちに嬲り殺しにされたと聞いた。

サルバリー王国は崩壊し、アシュリーの願いは叶った。


ギルバートは騎士たちを派遣して辺境を魔獣から守り、街を立て直して支持を集めていく。

ロイスとアシュリーは元サルバリー王国の貴族たちをまとめあげた。

サルバリー王家は長い歴史に終止符を打った。

そしてペイスリーブ王国が領地を広げる結果となった。


両親がどうなったかは最後まで知らない。

アシュリーにとってどうでもいい人たちのことなど思い返すにも値しない。

きっとどこかで野垂れ死んでいることだろう。

それでもまったくといっていいほど、アシュリーの心は痛まなかった。


ユイナは捕まえた魔法師によって元の世界へと返された。

そして魔法師は禁術を何度も使った影響で体は砕けてしまった。

魔法は万能ではない。それを証明する形となった。


ユイナに居場所を奪われてしまったが、彼女のおかげで幸せを掴めたのは事実だ。

それに国の事情に巻き込まれて追い詰められていく姿を見て放っておくことはできなかった。


(……苦しませてごめんなさい、ユイナ様)


そして、すべてを壊したことで本当の意味でギルバートの愛を受け入れることができた。

ギルバートは変わらず、アシュリーに寄り添い続けてくれた。

深い深い愛情は少しずつアシュリーを癒していく。 



──数年後



アシュリーは足繁く通ったサルバリー王国の王宮を歩いていた。

いつも結界を張るために使っていた部屋を見つめながら暫くその場から動かずにいた。

もうアシュリーが聖女として結界を張ることはない。


手のひらにキラキラと光る粒をアシュリーは握り潰す。

涙が溢れることはない。

窓に映る自分に手のひらを当てる。

綺麗に弧を描く唇と優しげな笑みがひどく滑稽に思えた。



「願いが叶って、幸せ……?」



問いかけても誰も答えてはくれなかった。

アシュリーは震える手を握りしめた。

ぽたり、ぽたりと温かい何かが流れていく。



「……わたくしったら、悪い子ね」



ふと壁に飾ってある短剣が目に入る。

アシュリーは短剣を手に取ってから静かに瞼を閉じた。


そっと自分の首に剣先を向けた時だった。



「母上──!」


「アシュリー、どこだい?」



自分の名前を呼ぶ声にピタリと手が止まる。

心臓がドクドクという音が体に響いていた。

バタバタと聞こえる足音が部屋の前で止まる。

ドアが開くのと同時……そっと短剣から手を離した。

短剣が床に落ちた瞬間、扉が開く。



「母上……!やっとみつけた」


「アシュリー、ここで何を?」


「ジノ、ギルバート……」



黒色の髪とライトブルーの瞳を持つ男の子が嬉しそうにアシュリーの元に駆け寄ってくる。

ギルバートはアシュリーの足元にある短剣を見て眉を顰めたが、すぐにそれを拾い上げる。

ジノはアシュリーにしがみついて顔を上げた。



「母上、なにか悲しいことがあったの?ぼくにできることはある?」


「…………」



心配そうにアシュリーを見ているジノ。

ギルバートはアシュリーの手が届かないサイドテーブルに置いた。



「父上もぼくもそばにいます。悲しまないでください」


「……ありがとう、ジノ」


「あっ、そうだ!クララが母上を探していましたよ?」


「まぁ、クララが……?」



小さな手から伝わる温かい体温に目を閉じた。

深く息を吸い込んでからアシュリーは瞼を開いて笑みを浮かべる。

目の前にいるギルバートにいつもの笑みはない。

アシュリーは彼を安心させるように頬にキスをした。



「アシュリーは僕をこれ以上、過保護にさせるつもりなの?」


「何を勘違いしているのかしら。懐かしく思って見ていただけよ」


「……。わかった、君を信じるよ」


「ギルバート、わたくしは幸せよ」


「僕も幸せだよ。君なしの人生なんて考えられない」



ギルバートはそう言ってアシュリーの手の甲に口付けた。

いつもと同じ幸せな日々。

アシュリーの視線は自然と窓の外へと向かう。


空には青空が広がって、鳥が空を飛んでいく。

風が吹き、木々はゆらゆらと揺れていた。

透明なガラスにはアシュリーの家族が映っている。



「母上……?」



ジノの声が聞こえて、ふと我に返る。

心配そうにドレスの裾を掴んだジノは、不安そうな表情でこちらを見つめている。

アシュリーは膝をついてから安心させるようにジノに擦り寄った。

ギルバートが両手を広げて二人を包み込むように抱き締める。

アシュリーは二人の背にそっと腕を回して、呟くように言った。



「みんな、大好きよ……ありがとう」







end

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捨てられた聖女の復讐〜みんな大っ嫌い、だからすべて壊してあげる〜 やきいもほくほく @yakiimo_hokuhoku

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