第10話 レベルアップ……そして温泉へ!
「もう大丈夫、俺が来たッ!!」
そう言って振り向くと。
鷹野と高坂は、半ば放心状態で俺のことを見つめていた。
えっ、もしかして作戦失敗??
「……あっ」
その時になって俺は、一つの可能性を失念していたことに気付く。
もし【光の環】が俺を救助するために派遣された探索者パーティだったら?
そのことを全く考えてなかった。
もしそうだとしたら、俺の計画はなにもかもお終いだ。
だって俺を救出するということは俺の顔を知らなきゃならないわけでだな。もし【光の環】が俺を救助するために来たのなら、こいつらは俺の顔を知っているということになる。
俺の写真なんて、親ならいくらでも持ってるだろうからな。
どっちだ?
【光の環】は俺を助けるためにここにきたのか? それとも純粋にお宝目当てでこのダンジョンに来ただけなのか?
いや待てよ?
SFE画面でこいつらを見たとき、名前の横にEランクってあったよな?
ランクというのはFが最低で、E、D、C……というふうに高くなっていく。そして最高ランクはSとされていて、Sランクパーティは世界に数えるほどしか存在していない。
【光の環】が救出隊として派遣されたのなら、いくらなんでもランクがギリギリすぎる。
中にいるのは一般人。
しかも長年のニート生活で筋力も衰えている。
なのに、ギリギリのEランクに救助を依頼するか?
いいや、しないね。
もし俺に子供ができたとして、ダンジョン化現象に巻き込まれただなんて聞いたら、俺は少しでもランクの高い探索者に救助を頼みたい。
そのほうが助かる確率が高まるからな。
つまりこいつらは、俺を救助しに来たわけでなく、お宝目当てでやってきた探索者パーティということだ!!(この答えをはじき出すまでの時間、僅か0.1秒)
となれば、恐れることはなにも無い。
引き続き、俺は英雄を演じればいい。
「やっ、君たち。いま助けてあげるからね」
……とは言ったものの、どうしたものか。
どうやって罠を解除するか、その方法を考えてなかったぜ。
別に今この場でクラフト画面を弄ってもいいんだが、その場合、この四人からはどう見えるんだ?
画面は見えるのか?
それともなにも無い空間に向かって謎の動作をするマヌケな俺の姿が見えるのか?
あっ、そうだ。
いいこと考えた。
「ちょっとコイツ借りるぜ」
俺は剣使いの男が装備していた剣を手に取った。
そしてその剣で、触手を切断し、鷹野と高坂を救出した。
「あっ、ありがとう……ございます。おかげで、助かりました……」
「はぁはぁ。まさかF難度ダンジョンで死にかけるだなんて思わなかった。助けてくれてありがとうね、お兄サン」
「なに、構わないさ。困ってる人がいたら助ける。人として当然だからね。さて、電撃の罠もなんとかしないとね」
さて、ここからは演技が必要だな。
なんたって、電撃の罠を解除するだなんて俺には不可能だからな。
だから罠解除スキルを持っているかのように振る舞う。そしてタイミングを見てクラフト画面を操作して、罠を解除する。
そうすれば、罠解除スキルを使ったようにしか見えないはずだ。
当然「じゃあ最初からスキル使えばよかったじゃないですか」とか突っ込まれる可能性も出てくるが、その場合はMPが残り少なかったと言って誤魔化せばいい。
え?
最初から罠解除スキルを使えるように振る舞えば良かっただろって?
でもそれじゃあ女の子の体に触れないじゃん。
目の前には千載一遇のチャンスが到来してるんだぞ?
触手に絡まれ、手足を拘束され、身動き一つ取れない女の子……それが二人もいるんだ。俺みたいなニートが合法的に女の子に触るとなれば、それはもう人命救助のお題目を掲げるしかないだろ!
#
「クソ、まさか電撃の罠に引っかかるとは! 回復薬と毒消し薬は持ってきたが、麻痺直しは持ってきてねーぞ!」
二人を助け出すと、剣使いの優男が悔しそうに歯噛みした。
俺の推測は正しく、【光の環】はお宝目当てでここに来たそうな。
「麻痺状態……こいつは厄介だぜ。なぁ孝一。悔しいが、ここは撤退するしかなさそうだぜ。命あっての物種っていうだろ?」
盾使いの低い声に説得され、剣使いの優男はガクリと項垂れた。
「この借りはいつか必ず返す。ところであんた、名前は?」
「俺はあけ――」
明智。
そう言いかけたところで俺は口を閉ざした。
ここは明智家がダンジョン化したもの。
【光の環】はそのことを知っているかもしれない。
仮に今は知らなくとも、後々に知る可能性はゼロじゃない。
もしここで馬鹿正直に本名を名乗れば、【光の環】の中で、俺に対して何らかの疑惑が生じるかもしれない。
だから俺は、適当に思いついた偽名でお茶を濁した。
「俺は
「そうか。俺は【光の環】のリーダーで、高田孝一という者だ。そしてそこの盾使いの大男が森守。んで、銀髪人形が鷹野芽衣で、ピンク頭が高坂紫音だ。織田さん、あんたのおかげで助かったよ。【光の環】リーダーとして、そして一人の人間として、感謝する。ありがとうな!」
「織田さん、これ……」
そして、鷹野が一枚のメモ用紙を渡してきた。
そこには【光の環】に所属するメンバーの名前と電話番号が記載されていた。
「これは……」
「次の土曜日か日曜日……電話くれたら、すぐに向かう。せめて食事、奢らせてほしい……」
すると鷹野は他のメンバー3人に向き直り。
「いいでしょ? これくらいは……」
「アンタってこういう時は意外と積極的だよね~。ま、私としても言葉だけのお礼なんて納得いかないし?」
「そうだな。俺たちゃまだまだ貧乏だけど、命を救われたとなったらなぁ。何もしねーってのはどうにも頷けん。そうだろ、孝一?」
「ったく、リーダーの俺を差し置いて勝手に決めるなよな。まっ、俺は最初っからそのつもりだったけどな。織田さん、そういうことだ。土日と言わず、何かあったらいつでも俺たちを呼んでくれ。プライベートだろうが探索者としてだろうが、俺たち【光の環】はいつでもアンタの味方だ。……さてと。せっかく助けてもらった命だし、麻痺が悪化する前に撤退するかな。ちょっと悔しいけどな」
そうして、四人はゆっくりとダンジョンを去っていた。
俺は四人を見送った後、自分の部屋に戻り。
そして、悶絶した。
「ぐわわぁあああああああああああああっ!! なんだアレ眩しすぎるだろ! ちくしょう、これでもかというほどに青春を見せつけてきやがってっ!!」
っていうか、罪悪感ハンパ無ぇえええええ!!
「うう。高田と森って言ったっけ? アイツらめーっちゃいいヤツじゃんかよ。目に毒とか思ってごめんなぁ……」
――マスター、傷心のところ申し訳ありません。お伝えしておきたいことがありまして。
「なんだよぉ。いまめっちゃ胸きゅーーーなってんだから、手短に頼むぞぉ……」
――かしこまりました。では一つ目。マスターの仕掛けた電撃トラップにより【光の環】のメンバー、高田孝一と森守にダメージを与えました。その結果、ダンジョンのレベルが上昇しました。
「えっ、マジ?」
――はい。いろいろとできることが増えましたので、後ほど確認してみてください。チュートリアルも増えましたので、ぜひチャレンジしてみてください。
「そっかそっか。それはいいことを聞いたぜ。それで? 一つ目というからには他にも何かあるんだろ?」
――そのとおりです。マスターはチュートリアル4とチュートリアル10をクリアしました。ですので、140000ダンジョン・ポイントが付与されます。既に所持していた40000ダンジョン・ポイントと合わせますと180000ダンジョン・ポイントになります。
「……っ!! ってことはもしかして!?」
――えぇ。マスターの望み通り、温泉を設置することができます。
「やった、やったぞ!! よーし、そうとなればさっそく温泉設置だ! そしてこの胸の痛みを癒そう……」
こうして俺は50000ダンジョン・ポイントを消費して、9Fに温泉を設置したのだった。
#
髪から一滴の水が滴り、ちゃぷん……っ、と波紋が広がる。
もくもくと湯気が上がって、スライムやゴブリンたちが珍しそうなものを見るかのように、首を傾げていた。
「は~~、気持ちえぇ~~~」
こーんなに広い浴槽を独り占めできるだなんて。
ぐふふ、ダンジョンってサイコーだな!
「まだ130000ダンジョン・ポイントも残ってるし、風呂あがったら次は図書館だな」
そういえばダンジョンのレベルが上がったって話だったよな。
これからどんなことができるようになるのか楽しみだな!
ああ、なんだろう。
こんな感覚、子供のとき以来だ。
なんだかすっげーワクワクしてきたぞ!
俺は温泉に浸かりながら、これからのダンジョンライフを想像する。
ついうっかりニヤニヤしてしまったが、誰にも見られていないのでヨシとしよう。
――マスター、なぜニヤニヤと笑っているのですか?
「…………そういえばお前がいたな」
――――――――――――――――――――
ここまで読んでいただきありがとうございます!
これにて第一章は完結です!
面白い、続きが気になる、期待できそうと思って頂けた方にはぜひ↓の☆☆☆を入れて応援して頂きたいです!(+ボタンを押すと1回につき星が1つ入ります)。
また、栞マークを押して作品をフォローして頂くと、作品が更新されたときに読者様の元に通知が届くようになります。作品の応援にも繋がりますので、なにとぞろしくお願いします!!m(__)m
【悲報】ニート俺、自宅がダンジョンになる~発現したスキル【自宅警備員】で、俺は何としてでも自宅を守る!!~ 藤村 @fujimurasaki7070
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。【悲報】ニート俺、自宅がダンジョンになる~発現したスキル【自宅警備員】で、俺は何としてでも自宅を守る!!~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます