第9話 英雄爆誕(鷹野芽衣視点)
※前書き※
ちょっと文字数多くなってしまいましたが、章完結1話前ということでご容赦下さい!
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その日、私の通う高校の近くにダンジョンが出現した。
元々はごく平凡な一軒家だったという。
けれど、一晩のうちにダンジョンになってしまったという。
本来、ダンジョンというのは自然発生するものだ。
上空数千メートル地点、暗く深い海の底、高く険しい山の中。そして、人々が生活する道路のど真ん中や、時に、部屋の中にそれは現れる。
グルグルと渦を巻く、ホールと呼ばれる黒穴。
その穴は何の前触れも無く出現し、そして、その先はダンジョンに通じている。
ダンジョンの中には目も眩むような財宝の数々が眠っている。そしてその財宝を守るかのように、モンスターと呼ばれる危険な生命体も生息している。
ホールの出現からわずか一年。
人類は、ダンジョンの難易度を測定する『魔力測定機』の開発に成功する。
魔力測定器は、ホールから漏れ出る魔力を測定し、難易度を調べることができる。
この機会の登場によって、ダンジョンでの事故死は大幅に減少した。
……話を戻そう。
つまり、ダンジョンというのは基本的にはホールと呼ばれる穴を潜ることで行ける場所。
でも、稀にそのプロセスを無視できるダンジョンがある。
時に学校、時に図書館、時に病院、時に一軒家……。
突如としてそれらがダンジョンそのものと化す場合がある。
そうなってしまっては、もう物理法則なんてものは一切通用しない。
ただの一軒家がダンジョン化した場合、建物内に一歩足を踏み入れれば、その先は信じられないほどに広大な砂漠が広がっていた――なんてことも多く報告されている。
ダンジョンとは、それほどまでに非常識的で未知数……故に、我々に人智を超えた施しを齎してくれるのだ。
ぴこん!
と通知音が鳴る。
スマホの画面を見てみると、そこには
『学校の近くに出たダンジョン、F難度だってよ。どーする?』
高田は私が所属しているEランクパーティ【光の環】のリーダーで、剣士のジョブに就いている。
高田の言う『どーする?』は形式的なもので、その本意は『来なかったら罰ゲームな』である。よって私たちに拒否権なんて無い。
【光の環】のルールはたった一つ。
リーダーの言うことは絶対。
このルールを破ったら面倒なことになる。
この前なんて喫茶店で全額奢らされたし……。
でも、どういうわけだか高田には反抗する気になれない。
アイツの「怖いものなんて一つもないぜ」みたいな目がそうさせるのかもしれない。
『分かった、行くよ』
私は短く返すと、さっそく身支度に取り掛かった。
【光の環】のメンバーは現地で集合した。
「おっ、来たな! 鷹野、こっちこっち~!」
高田に名前を呼ばれて、私は彼の元へと歩いて行った。
高田の装備は簡素なもので、武器は片手剣のみ。腰には布袋が括り付けられていて、その中には回復アイテムが入っている。
その横に立つのが
森のジョブはナイトで、基本的には壁役だ。
「よっ、鷹野。今日も眠そうだな!」
「別に、眠くはない」
森はショップで購入した鎖帷子を加工して、防御性能を高めた防具を着用している。頭部にはヘルメットを被っていて、本人が頑なに盾だと言い張っているのはタダの鉄板に持ち手部分を溶接したものだ。
とはいえ鉄板はそこそこの厚みがあって、アレを片手で持ち上げられるのは素直に尊敬するけど。
私のジョブは僧侶で基本的な役割はヒーラー。
でも罠探知のスキルも使えるから、斥候の役割を任されることもある。
一番最後にやって来たピンクの髪の子は高坂紫音。
「ごめ~ん。もしかして待たせちゃた~?」
「いや、そんなことは無い。いま集まったところ」
「そっか。それならよかった!」
紫音のジョブは魔法使いで、魔法に関係する攻撃や防御を得意としている。実際ステータスを見ても魔法攻撃力と魔法防御力はかなりのモノで、魔法攻撃力だけならDランク探索者にも引けを取らないくらいだ。
私たちはお互いの手荷物を検査して不足が無いことを確認した。
「よしっ、それじゃあ早速ダンジョン攻略だ! フォーメーションはいつも通りで行くぜ、いいな!?」
「おうよっ!」
「りょうかーい!」
「異議なし……」
こうして、いつものようにダンジョン探索が始まった。
森がドアノブに手を掛けてドアを開く。
するとその先には洞窟が広がっていた。
「よし、行くぜ!」
まずは森がダンジョンに侵入する。
そして次が紫音の番。
私は紫音の後ろについて歩いていた。
――と、その時。
視界の端で、二人の男女が話しているのが見えた。
「まさか俺たちの家がダンジョンになるとはな」
どうやら、家主のようだ。
「ほんと、ビックリしちゃった。でもいい機会じゃない。あのバカ息子がモンスターに食われでもすれば、私たちのストレスは無くなるんだから」
「オイオイ、冗談でもそんなこと言うなよ」
「あら。こう見えて半分くらいは本気だけど?」
そんな会話が聞こえてきて、ちょっと陰鬱な気分になってしまう。
けれど私はすぐに思考を振り払って、ダンジョンに潜っていった。
#
このダンジョン、何かおかしい。
そのことに、きっと全員が気付いていたと思う。
まず、何とも形容しがたい妙な気配を感じる。まるで、誰かにじっと監視されているかのような、そんな気配。
それにモンスターの挙動もおかしい。
「なんだコイツら、バカみたいに突っ込んできやがって」
森の言葉に、誰もが内心で頷いたはず。
だって、どう考えてもレベルの差は歴然。
今までの低レベルモンスターは、勝てないとみるや逃げ出すものも少なくなかった。でもこの中に、逃げようとするモンスターはいない。
それどころか。
「怯えてすらいない?」
「ははっ、そんなバカな」
私の疑問を高田が一笑に付す。
でもその笑いには、どことなく不安の色が滲んでいるように思えた。
私たちは違和感を覚えながらも、それでも探索を続け、モンスターを倒していく。
「はぁあ!!」
森が盾で殴打攻撃を繰り出し。
「フンッ!!」
高田が剣を振る。
「やああっ!」
そして紫音が魔法で援護。
うん、いつもながら完璧なコンビネーションだ。
ちょっと妙なダンジョンだけど、これなら負けることはなさそう。
「よし、この調子でどんどん倒していくぞ!」
パーティの士気を高めるために高田が号令を発したそのとき。
「なにっ!??」
森が驚いたような声を発した。
なぜ驚いたのか。
その理由はすぐに分かった。
今度は、モンスターが撤退を始めたのだ。
「なに、これ」
普段は明るい紫音も、この時ばかりは不安を隠せない様子だった。かくいう私も、内心では怯えていた。
「なんなの、これ……。まるで、一つの意志に従って統制されてるみたい」
「そんなバカな!」
私たちは一度その場に留まった。
この先に進むか、それとも撤退するか。
それを話し合う必要があった。
「俺は一人でも進むぜ。なんたって俺たちはEランクだからな。たかがFランクでリタイアなんて、そんな恥ずかしい真似できねーよ!」
多数決……とは言ったものの、結局は高田の一存で全てが決まる。
私と紫音は顔を見合わせた。
本当は撤退したい、お互いにそう思っているのがよく分かる。
でも、高田が進むというのなら、それに従うしかない。
「分かった、行こう」
「私も行くわ! たかがFランクダンジョンですもの、ビビッてられないわ!」
――この判断が間違いだった。
不安要素がある以上、念には念を入れておこう。
そう思って探知スキルを発動した私は、二つの罠を感知した。
「止まって!!」
叫んだ時にはすでに遅く。
高田と森は、電撃のトラップに引っかかってしまっていた。
「う、ぐわあああああああ!!」
「ぬぅぅううおおおおお!!!」
「そんな……」
まずい、急いで回復しなければ。
そう思った私だったが。
直後私は、信じられない体験をする。
「……ッ!??」
そんなバカな。
罠探知には二つしか引っかからなかった。
なのに今この瞬間、更に二つ増えた…………!??
「紫音、そこから動いちゃ――キャッ!?」
「え、芽衣ちゃん!? どうしっ――きゃああっ!!?」
あり得ない。
私は罠探知を発動して警戒心を高めていた。
それなのに罠を踏んでしまうだなんて、そんな!
その罠からは触手が飛び出てきた。
その触手は私の手足を拘束し、さらに、衣服の中にまで侵入してきた。
「いやぁああああ、やめてえええええっ!!」
必死に叫ぶも、触手の動きは止まらない。
ぬるぬるとした気色の悪い感触が全身に纏わり付いてきて……。
うう、最悪だ。
なんで私がこんな目に――。
すると今度は、タイミングを見計らったかのように大量のゴブリンとスライムが姿を現し、こちらへ向かってきた。
「なんなの、これ」
これじゃ、本当にダンジョンに意志があるみたいじゃない……。
なんとかして罠から脱出しなければ。
「んっ、く。ぅうっ、う……」
私は必死にもがいた。
でも触手の力は強くて、なかなか解放してくれない。
その間にもモンスターはにじり寄ってくる。
「うう、ぅ、やだ、こないで。こっちに、こないで……」
私は目を瞑り、死を覚悟した。
もうダメなんだ。
もう助からないんだ。
そう思うと、怖くて怖くて堪らなかった。
でもその時。
一人の探索者が現れて、次々とモンスターを退けていった。
そして彼は太陽みたいな笑顔を向けてきた。
「もう大丈夫、俺が来たッ!!」
「――ああ…………」
まるでその光景は、聖書の一ページのようだった。
彼の背後から後光が差し込み、屈託の無い輝かしい笑顔と相まって――それはまさしく、英雄の爆誕に他ならなかった。
#
突如として胸中に溢れる今までに一度も湧いたことの無い感情。
それが『好き』という感情だということを、私は後に知ることになる。
こうして私は無自覚のうちに、生まれて初めての恋に落ちたのだった。
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