不思議なチューハイ

口羽龍

不思議なチューハイ

 今日は3月31日。明日から新年度だ。晴樹(はるき)は大学生。まだ春休みで、その実感はない。だが、来年の4月には新社会人だ。いよいよ就職活動が始まる。そう思うと、頑張らなければと思ってしまう。


「明日から新年度なのか・・・」


 晴樹は時計を気にしていた。もうすぐ新年度が始まろうとしている。来年の今頃は仕事の事で頭がいっぱいになっているだろう。


 晴樹は冷蔵庫からチューハイを出した。そのチューハイは、今さっき、たまたま立ち寄ったコンビニで見つけた。見た事のないパッケージで、『4月1日になったら飲んでください』と書かれてあった。新年度を祝うためにあるんだろう。飲んでみようかな? 晴樹は興味本位で買ってきた。


「このチューハイ、何だろう。飲んでみようかな?」


 晴樹はチューハイを見ていた。商品名は『ウルフマン』。なんかかっこよさそうな名前だ。かっこいい商品名も気になった。


「4月1日になったらお飲みください、って?」


 晴樹は時計を見た。4月1日まで、これを飲むまであと少しだ。


「あと少しで4月1日だな」


 そして、4月1日を迎えた。いよいよ新年度だ。


「よし、4月1日になった」


 晴樹はチューハイを開けた。パッケージを見ると、このチューハイは無着色の水のようだ。どんな味だろう。想像がつかない。


「飲もう。カンパーイ!」


 晴樹はチューハイを飲んだ。なかなかおいしい。


「おいしい!」


 晴樹は柿の種を持ってきた。やっぱり酒には柿の種だ。これが一番だな。


「やっぱ酒には柿の種だな」


 晴樹はあっという間にチューハイを飲み干した。すると、すぐに眠くなってきた。こんなにきつい酒だろうか? 酒を飲んでも、眠る事はなかったのに。


「眠っ・・・」


 いつの間にか、晴樹は寝てしまった。それからのことは、覚えていない。ただ、オオカミになる夢を見ていた。晴樹には、その理由がわからなかった。


 晴樹は目を覚ました。どれだけ寝ていたのか、全くわからない。


「あれっ、こんな時間か」


 晴樹は時計を見た。もう午前5時だ。もうこんなに寝ていたとは。どうしたんだろう。まぁ、もう朝だ。朝食でも買ってこよう。


 晴樹は立ち上がり、鏡を見た。だが、鏡を見て、晴樹は呆然となった。目の前には狼男がいるのだ。いや、自分が狼男になっているのだ。


「さてと、えっ!? こ、これは? 狼男?」


 晴樹は戸惑っている。寝ている間に、何が起こったんだろう。晴樹は目の前の状況が全く信じられなかった。


「どうして狼男に?」


 晴樹はジーパンを見た。ジーパンからは尻尾が出ている。明らかにオオカミの尻尾だ。


「なんでこんな姿に?」


 と、晴樹は思い出した。あのチューハイの名前、『ウルフマン』だ。まさか、このチューハイを飲んだらオオカミになるのか?


「まさか、あのチューハイ?」


 晴樹はうずくまった。あのチューハイを飲まなきゃよかった。だが、後悔後先立たずだ。


「飲まなきゃよかった・・・」


 晴樹は戸惑っていた。このままでは外に出られない。みんな怖がってしまうかもしれない。


「どうしよう・・・」


 結局、晴樹は顔を隠してコンビニに行く事にした。尻尾が出ているが、うまく隠せば問題ないか。


「顔を隠して外に出るか・・・」


 晴樹はコンビニに向かって歩き出した。幸いにも、全く人はいない。晴樹はほっとした。こんな姿、誰にも見られたくないもん。


「おう、晴樹。どうした?」


 晴樹は振り向いた。そこには友人の隆史(たかし)がいる。晴樹は戸惑った。見られたらどうしよう。


「えっ・・・」

「顔隠してどうしたんだい?」


 隆史は顔を隠しているのが気になった。普通の顔なのに。


「いや、何でもないよ」

「どうしたんだよ。普通の顔なのに」


 晴樹は驚いた。狼男の顔のはずなのに。


「えっ!? 普通に見えるの?」


 晴樹は顔を見せた。狼男の顔だが、隆史には普通の男に見えるようだ。


「うん。どうしたの?」

「いや、狼男に見えるのかなって」


 隆史は驚いた。どうして狼男とか言っているんだろうか?


「狼男? 普通の人間だよ。どうしたんだい?」

「な、何でもないよ。ごめんね」


 晴樹はほっとした。どうやら自分にしか狼男に見えないようだ。よかったよかった。これで安心してコンビニに行ける。


「いいよ」


 晴樹はコンビニにやってきて、サンドイッチと野菜ジュースを買ってきた。これがいつもの事だ。


「いらっしゃいませ」


 晴樹は代金を支払った。だが、普通に見えるようだ。晴樹はすでに平常心に戻っている。


「ありがとうございます」


 コンビニから出てきた晴樹は、首をかしげた。自分にしか狼男に見えない。どういう事だろう。


「あれ? みんなには普通の人間に見えるのに。何だろう」


 晴樹はコンビニから帰ってきた。静かな朝だ。いつもの光景だ。


「うーん・・・。少し寝よう・・・」


 晴樹はもう少し寝る事にした。少し寝不足だ。少し寝たら、すっきりするだろう。


 晴樹は起きた。もう9時になっている。そろそろ本格的に起きないと。


 晴樹は手を見た。だが、普通の人間の手に戻っている。


「あれっ!?」


 何かを感じ、晴樹は鏡を見た。するとそこには、元の姿の晴樹がいた。晴樹は元に戻ったようだ。


「元に戻ってる・・・」


 晴樹はサンドイッチを野菜ジュースを出し、ネットサーフィンを始めた。これが休みの朝のルーティーンだ。


「ちょっとネットサーフィンしよう」


 ネットサーフィンをしていると、『ウルフマン』というチューハイの事が書いてあった。晴樹は興味を持ち、この記事をしばらく目を通していた。


「あれっ、このチューハイ・・・」


 晴樹がよく読むと、それは自分が狼男に見えるチューハイのようだ。そして、次第にみんなにも狼男に見えるようになってくるという。だが、すぐに元の人間に戻った。これはどういう事だろう。


「えっ、狼男に見えるチューハイ? そ、そんな・・・」


 だが、その下にはこんなのが書いてあった。



 今日は4月1日です。



 まさか、エイプリルフール。これは嘘なのか?


「あれっ・・・。え、エイプリルフール?」


 どうやらこれはエイプリルフールで、少しの間、狼男に見えてしまうチューハイのようだ。


「なーんだ、そうだったのか・・・」


 晴樹は肩を落とした。こんなエイプリルフールがあったのか。

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不思議なチューハイ 口羽龍 @ryo_kuchiba

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