ファムファタール

@tsutanai_kouta

第1話


子供の頃から定期的に同じ悪夢をみる。

それは胸を刺されて死ぬ夢なのだが、

年齢と共に夢の細部は明瞭めいりょうになっていった。


中学生の頃、胸をつらぬくのは料理人が使うような大きな包丁だと気づいた。


高校生の頃、加害者が煉瓦色の着物を着た女性だと気づいた。目尻に黒子ほくろがあった。


高校卒業後、料理の専門学校に進んだが、それを機会に夢は更に明確になった。


夢の中で自分が白衣を着てること、料亭の厨房で同僚らしき女性から刺殺されること、そして包丁に店名らしきものが刻印されてることに気づいた。


自分は料理未経験のまま入学したが、まるで砂が水を吸収するように知識や技術を会得えとくした。それは才能が開花したというより何かに導かれているようだった。


二年後、自分は夢に出てきた店に就職した。初日に挨拶した際に目尻に黒子ほくろのある、未来に自分を刺すであろう女性とも顔を合わせた。


高校生の頃に夢で見た通り、美しい女性だった。夢で見て以来、心を奪われた。

ずっと、この人に会いたかった。

だから料理人の道に進んだのだ。


目の前に立つ女性は、自分の顔を凝視しながら消え入るような小さな声で呟いた。


「夢に出てくるひとだ…」




 ─了─

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