本作品は、春の美しい情景と屋敷の不気味な空気感という二面性を絶妙に描いた、絶品のホラー作品だ。桜の花びらが象徴する少女の無垢な心情と、徐々に明らかになる恐ろしい真実のギャップに、読んでいて息を呑んだ。桜の花びらが舞う美しい情景は、沙織の純真無垢な心情を象徴しているかのようだった。一方で、沙織の祖父や母親の不可解な行動、屋敷の家具や衣装から漂う威圧感など、どこか歪んだ空気感が巧みに表現されている。ホラーが好きな人に、是非、オススメしたい。
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耳朶を打つ怪異めいた擬音。鼻腔をつく美醜の馨り。雪という正体不明な女の存在。想像力の空白たる余地を残すことで醸されるホラーが余韻を残す。春の描写にこれらのホラー要素が五感を狂わせる、春の闇がいざなう禁忌を孕んだ怪の良作。