開ける。

ゆ〜

あける。

まぶたを開ける。

そこにはいつもの自分の部屋の天井がある。

当たり前だけど、何故かほっとしてしまう。

今日が始まる。


入学式が終わった。

学校の葉桜は、もう散り始めているというのに美しく神秘的で、でも儚い夢のようでもあった。

帰り道、サッと通り抜けていった風は涼しくて穏やかで心地が良い。

その日、入学式で隣の席だった男子はそれに劣らないほど爽やかだった。

風でまた花びらが舞う。

一枚、読んでいた本の間に入ってきた。

桜が五枚の花びらで一輪であるのと同じように、幸せも五つ集まれば何かを成すのだろうか。



✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤


ロッカーが開く。

容量の大半が教科書で埋められたロッカー。

その隅に申し訳程度においてあるたった一冊の本はお気に入りの本。

教科書とともに押し込まれていた。

まるで私みたい。

そろそろ返さなきゃと思っても名残惜しくてついつい返しそびれてしまう。

でも、今日こそは。


「ありがとう」


メモを挟んで彼に返す。

それだけなのだから。


✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤・✤


まぶたを開ける。

隣には彼の可愛い寝顔がある。

今日は高校の同窓会。

当時あんな地味子だった私が彼と一緒に行ったら皆どんな顔をするだろう。


ベッドから見えるロッカーには本が沢山並べられている。

そこには一冊の思い出の本がある。

でも、その本は昔とは違う。

それは、ロッカーいっぱいの本とともに並べられていた。


お気に入りで思い出の詰まった本には今、一輪の桜が入っている。

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開ける。 ゆ〜 @MainitiNichiyo-bi

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