第27話

「どうぞ」


 開けられた部屋に覚悟を決めて入れば、そこは広々とした空間で、窓からは夜景が一望できる。ラブホテルとは全く違う空間。


「ロイさ……」


 名前を呼ぼうとした唇を、いきなり塞がれ、そのままベッドへと移動させられ、押し倒される。


「付き合おうか」


 サラリと発せられた言葉に、私はこれが夢かと疑ってしまった。

 でも、温もりがあって、ロイさんの重みが身体にのしかかっている事で、かろうじて現実だと理解できる。


「しぃ。好き」


 欲しかった言葉。

 例えこれが夢だろうと、嘘だろうと、今はただ喜びを噛みしめたくて小さく頷くと、ロイさんは私の唇を貪るように重ねて来た。

 その後は、激しく優しく口内を犯され、舌と舌が絡み合う。


「んっ」


 漏れ出る声に興奮したのか、ロイさんは私の胸をまさぐりだし、突起を探し当てる。思わず背をのけぞらせると、その隙にブラのホックまで外されてしまう。


「あぁっ」


 優しく突起を舐めたかと思えば、強く吸われ、その強弱で私は声を我慢する事も出来ずに、ただロイさんにしがみつく。


「もっと感じて」


 ロイさんの手が腰から足に……そして、大事な部分に移動していく。

 まさぐるような、探る手付きから、大事な部分にある突起を見つければ、そこを重点的に弄られる。


「ひゃあ!」


 悲鳴にも似た声が自分の口から出た事に驚いたけれど、それを止める余裕もない。

 ゆっくり、そして激しく責められ、気が付けば下着も脱がされていた。ロイさんは私の足を開かせ、顔を埋める


「や……だぁ!」


 恥ずかしさで声をあげるけれど、そんな事は構わず、ロイさんの舌が私の大事な部分を刺激していく。

 声を我慢できない。

 頭が真っ白になる。

 更に突起を口に含ませ吸われれば、声にならない悲鳴が私の口から飛び出す。

以前とは比べものにならない位の前戯と愛撫に、私はずっと翻弄されっぱなしだ。


「ロイさん……っ!」

「しぃの全部見せて」


 ロイさんの顔が近づいてきたと思ったら、固く熱いものに貫かれ、呼吸をするのも忘れる。


「ああああ!」


 軽くイかされ続け敏感になっている身体。奥まで入れば、私に余裕なんてもうない。

 そんな私の反応を楽しむかのように、ロイさんは色んな体位でイかせ続けてきた。

 頭が真っ白になる中、これが遊びと本気の違いなのかなんて、頭のどこか冷静な部分に過ってしまう程に違い過ぎる。


「も、イきそ」

「あぁああっ」


 早く激しく何度も奥をつかれ、ロイさんと共に達した私は、そのまま意識を手放してしまった。




 ◇




「おはよ、しぃ」


 意識が浮上して目覚めはじめた時に届いた声、そして目の前にロイさんの顔。

 思わず飛び起きそうになった私だが、しっかりロイさんに抱きしめられていて動く事が叶わなかった。しかも、ロイさんの腕枕で眠りについていたようだ。


「おはようございます……」


 恥ずかしさからベッドカバーで顔を隠せば、ロイさんの吹き出す声が聞こえ、カバーをめくられたかと思えばキスをされた。

 夢、ではなかった。

 優しく頬を撫でる手、愛おしく見つめる瞳、強く抱きしめてくる腕。その全てが私を彼女だと言っているようで、これが現実であると分からせてくれる。

 けど、今まで溜まりに溜まった疑惑と不安は、行動で示してもらうだけでは拭えなくて。


「……彼女……?」


 安易でも、言葉として欲しかった私は、自分を指さしてポツリと呟いた。

 そんな私を、ロイさんはキョトンとした顔をした後、笑い始めた。


「笑うとこ!?」


 冗談だったのか、それとも結局夢だったのか。

 恥ずかしさを誤魔化すように声をあげれば、ロイさんは笑うのを止めて私を抱きしめた。


「大事な彼女。俺、こう見えてもかなり一途だから。絶対大事にする」


 嬉しさが心に広がり、嬉しさに涙が溢れる。けれど、どうしても聞いておきたい事がある。


「どうして……私?」


 他にも沢山女は居ただろう。どうして、私なのか。そんな事を聞くなんて、自分に自信がないからだけど。


「しぃは、こんな俺をずっと一途に思ってくれていたんだろ? それに……何だかんだ付き合いは長いけど、喧嘩なんてあの時だけだし」


 確かにそうだ。喧嘩という喧嘩はあの時だけ。と言っても、私が一方的にブロックして離れたような形だけれど。


「しぃが居ないと、こんなにつまらないんだってわかった」


 嬉しすぎる言葉に、涙がとめどなく溢れる。

 欲しい言葉を貰っているのに、それでももっと確信が欲しいと欲張りになる私が顔を出してしまう。


「でも、べびぃどぉるとか」

「とっくにブロックしたし、配信も止めたけど」

「え?」


 まさかの言葉に涙が止まって、顔を上げれば、首を傾げるロイさんが居た。

 ロイさんが配信を止めた? あれだけ配信を楽しんでいたロイさんが?


「ゲームは……」

「してないかなぁ。しぃにメッセージを送って、それを確認する位しかログインしてなかった」

「えぇえええ!?」


 まさかの事態に、思わず叫んでしまったけど、そんな私をロイさんは更に強く抱きしめる。


「もう要らないでしょ。変な女が寄ってきたら、しぃが不安になるし」

「そうだけど……」


 でも、ロイさんの楽しみを奪いたくないと言う私の言葉は、ロイさんの唇によって塞がれた。


「彼女優先して何が悪いの?」


 そして、私はまたもロイさんの指や唇に翻弄され、意識を飛ばすのだった。












「慶、もう配信しなくて本当に良いの?」

「詩帆との時間を大事にしたいの」


 あれから、ロイさんの本名を教えて貰った私は、最初はぎこちなかったものの、今ではスムーズに呼べるようになった。

 神宮寺慶、それがロイさんの本名だ。ロイナルという名前は、今は亡き親友が送ってくれたハンドルネームのようで、それを大事に使っていたと言っていた。仕事はシステムエンジニアで、課長をしている。付き合ってから、どんどん慶の事を知る事が出来て幸せだ。

 在宅で仕事が出来る分、私の仕事終わりに合わせて仕事を切り上げてくれたりして、週末はほぼ慶の部屋で過ごしている。いっそこのまま同棲しようか、まで言ってくれていて、今までの境遇から百八十度反転したと言っても過言ではない。


「楽しそうにしてたのに……今、慶は何が楽しいの?」

「詩帆と居る事」


 そう言ってもらえる事に嬉しさはあるけれど、本当にそれでいいのかと、長年に渡り慶を見て来た私は疑問に思うのだけれど、それがどうやら顔に出ていたようだ。


「なら、カップルでゲーム配信でもする?」

「いや、遠慮する。怖い」

「じゃあやらない。詩帆はゲームしなくて良いの?」

「……うん」


 言いにくかったけれど、シンも居る皆のグループメッセージに、慶と付き合う事になったとは伝えた。

 おめでとうの言葉は皆から貰えたけれど、やはりゲームにログインするのは気が引けるのだ。シンに合わす顔がない。

 そんな時、スマホの通知音が鳴ったのでメッセージを開いて見れば、そこにはシンからのメッセージがグループに入ってきていて、その内容がまた凄かった。


「ちょ! 慶! 新しいエリアの景色や装備が、物凄く綺麗で斬新なんだけど!」

「え!? 何それ! ちょっとやってみたい!」

「私も!」


 結局、新しいエリアの事でゲームにログインする。

 教えてくれてありがとうとメッセージを打ちながら、少しだけ私は頬を緩めた。


『俺の事をずっと思ってくれていた大事な彼女が出来たから、気にせず二人もゲームしろ』


 添えられた、仲良く写っている画像。

 変わらない仲間達と、大切な恋人と、私はこれからも幸せな時間を歩んでいく。

 手放さないように。後悔しないように。


 ――前を向いて。

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ネットゲームで知り合った配信者に恋をした かずき りり @kuruhari

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