口に甘し声
パタパタとはたきを振りながら埃を払っていく。壁一面には小さな箪笥が積み上がり、床から天井までを埋め尽くしている。
天井までは二メートルほどだが、僕は身長が低いので背伸びをしても手が届かない。仕方なく脚立を移動させながら、上から下へと順に埃を落としていく。
埃を落としたら今度は箪笥の壁を拭き掃除する。漢数字の番号が一つ一つに彫られていて汚れが溜まれやすいからだ。面倒ではあるが、日課なので慣れてしまった。
箪笥を綺麗にし終えたら、今度は床に落ちた埃を掃く。元々2畳ほどしかない細長い店内だが、この大きな箪笥のせいで余計に狭く見える。こんなものが両側にあるせいで、掃除もしにくいし壁にカレンダーをかけることすらできない。
唯一空いている、入り口と反対側の壁には壁を覆うほどの大きな鏡が掛けられている。店主の趣味か知らないが、あれがもし趣味で掛けているのだとしたら、随分と悪趣味だと思う。だって店のどこにいても鏡に映る自分の姿が目に入って落ち着かないのだ。
当の店主はその鏡の前で、店の幅ぴったりの大きな机に突っ伏してぐうぐうと寝息を立てている。鏡に映る自分と、仕事もせずに寝ている店主を目に入れないようにそっぽを向いた。床の埃をゴミ袋に入れた時、ちょうど店の扉が開く音がした。
引き戸は立て付けが悪く、嵌め込まれたすりガラスはガタガタと音を立てている。少し詰まりながら開けられた隙間から、やつれたスーツ姿の男性が顔を覗かせた。
男の人は最初に僕を見、続けて店の奥を見て、また僕を見た。男性が何か言いたそうにしながら半歩後ろに下がったのが見えて、僕は口を開いた。
「薬をご所望の方ですか?」
こういうパターンの人は、先に話しかけるのが吉だ。そうでないと、せっかくのお客さんを逃してしまう。実際扉を開いても入らずに帰ってしまう人も多い。
「そ、そうです。この辺りにいい薬屋があると噂を聞いてきたのですが……」
「間違えました」、「失礼しました」と言って帰ってしまいそうな雰囲気だ。どう見たって子供の僕が働いているのがそんなに不審なのだろうか。それとも看板も何もない、店の雰囲気が怪しげなせいだろうか。
お客さん獲得対策について考えを巡らせるのは後回しにするとして、店の奥へと走る。
「ほら、センセイ起きてください。大事なお客さんですよ」
僕の背丈ほど(と言っても百四十センチほど)の高さの机の上に手を伸ばし、そこにある頭をぺちぺちと叩く。サラサラの髪が手に当たるが、その奥にある頭皮に向かって一撃を放てば、呻き声と共に布が擦れる音がした。
「も〜〜何だよ人がせっかく気持ちよく寝てるのに……」
「寝てるから起こしたんですよ。ほら早くちゃんと身だしなみ整えてください。お客さんですよ」
「んぇ〜……お客さん……?」
寝ぼけているのか、もごもごと不満を口にしながら起き上がったその人は、後ろの鏡の方を向いて着ている着物のよりを直し始めた。無駄に大きな鏡で潰れた前髪を直した後、パンッ、と着物の端を伸ばして、その人はこちらに向き直った。
「わざわざこんな所まで来られるとは、よほど何かあられましたか」
そこまで高くない身長に、紺の着物。黒く細い髪は肩より少し上で切り揃えられており、肌は薄い色をしている。閉じられた瞼の奥から、深い海のような瞳が現れた。
「お話、されていかれます?」
机に頬杖をつきながら、センセイ、もといこの店の主人はそう言った。
センセイの雰囲気に安心したのか、男の人は店内に入って奥のテーブルに備え付けられている来客用の椅子に座った。対面側の、先ほどまで寝ていたところにセンセイが再び座る。僕が奥からお茶を入れて出すと、未だ僕のことを不審そうに見ながら男の人はお礼を言った。
彼はどうやら仕事や職場での人間関係がうまくいかないらしく、今日もなんとかして半日休みをとってここに来たらしい。午後からは会社に行かなければならないと言いながら、その姿はこれから働くと言うより精一杯働いてやつれた人のそれだった。
センセイはその人の話を聴きながら静かに相槌を打っている。男の人も話をしているうちに落ち着いたのか、怯えのような表情は消え、心の声を自然に吐き出しているように見える。僕は男の人とセンセイが話しているのを又聞きしながら、掃除の続きをしていた。しばらくそうしていると話が落ち着いたのか、センセイが僕を呼びつけた。
「なんでしょう、センセイ」
「百五十九番を百グラム分、取ってきてくれる?」
そう言って紙袋を渡すと、センセイは再び男の人の方に向き直った。チラリと男の人の顔を見ると、来た時よりもわずかに表情が和らいでいる。ここに来るお客さんはいつもそうだ。何か悩み事を抱えてここに来る。そして、センセイと話すと少し安心した表情で帰っていく。何度もそれを繰り返して、いつしかすっきりした顔でここにやってくることが大半だ。
センセイに言われた番号の引き出しを、壁一面の箪笥から探し出す。いつも掃除をしているからどこに何があるかは把握している。
脚立に登り、言われた通りの番号の引き出しを開けると、香りのする葉っぱがぎっしり入っている。それを備え付けの計量スコップで測る。最近は百グラムも大体の感覚でわかるようになってきた。少し多めに入れて、脚立から降り、秤に乗せる。案の定少し多いので、スコップで量を減らして百グラムぴったりに調節する。紙袋の口を折りたたんで、シールを貼って封をしたらそれをセンセイに持っていく。
「百五十九番、百グラム分です」
「ん、ありがとう」
センセイは僕から紙袋を受け取ると、それをそのまま男の人に渡した。
「寝る前にこれを煎じて飲むといいですよ。いつもよりは寝つきが良くなると思います。使い切って、また欲しければ来てください。それ以外でも、今日みたいにお話したい時は店が開いていればいつでもどうぞ」
「あの、お代は……」
「初回なので半額でいいですよ」
「そんな、そういうわけには」
「いいんです、また欲しければ来てください」
そうきっぱりと言い放つセンセイの姿に押されたのか、男の人はペコペコと頭を下げながら代金を払って帰って行った。閉じた扉を見ながら、なんとなくずっと疑問に思っていたことを聞いてみる。
「センセイっていつも、最初に来るお客さんには代金半額にしますよね。なんでですか?」
「そのほうがイメージいいじゃん。印象よかったらまた来てくれるかもしれないし、最初に安くしてもらうと、その分お返しに次来た時多く買ってくれる人が大半だからね」
そう言いながらセンセイは右手でお金のマークを作った。なるほど、なんとも現実的な答えだ。確かにセンセイの言う通り、ここには一定数固定客がいる。そういった人たちほど、多く商品を買って帰ってくれることが多い。そうでなくても何度もここに足を運んでくれる人はよく居るし、その都度商品を購入してくれる人がいる。そういう人たちのおかげでこの店は成り立っているのだろう。
「さて、もう一眠りしますか」
よっこいせ、と言いながらセンセイは再び椅子に座り直す。
「なんでですか、起きたならそのまま起きて事務仕事でもしてくださいよ」
僕が振り返った時にはセンセイはすでにすうすうと寝息を立てていた。丸い天窓から暖かな陽の光が差し込む。薄暗い店内を微かに照らす、唯一の光源であるその光の筋は、センセイの寝顔を照らしている。その呑気な顔を見ていたら、なんだか自分も眠たくなってきた。その後、書類の片付けをしていたはずが、いつしか僕も机にもたれて寝てしまっていた。次の日はしっかりと僕だけ風邪を引いた。
ある日、いつもと同じように掃除をしていると、荒々しくドアが開く音がした。来客かと思い、相変わらず寝ているセンセイを起こそうと振り返ると、あまりにもうるさかったのか流石のセンセイも既に起き上がっていた。
やってきたのは、若そうな男の人だった。シュッとした出立ちで、しかしその表情は真逆だった。怒りを滲ませた瞳で真っ直ぐにこちらを見つめ、息を切らしている。男が何か言おうとした瞬間、センセイが僕の方を向き口を開いた。
「奥の部屋に行って、お茶の準備をしておいで」
僕は頷いて、掃除用具を持ったままセンセイの隣を通り過ぎ、扉を開けて奥の生活スペースに上がった。
来客時にセンセイがわざわざ「お茶の準備」を命令するのは、「奥から出てくるな」という合図だ。時折来る、面倒なお客の時の対応マニュアルみたいなものだ。
ここに来るお客さんは、いつも最初は思い詰めたような顔をしてやってくる。そしてセンセイと話をして、商品を買って帰る。それを繰り返すうちに穏やかになって常連さんになったり、そのうち来なくなったりする。そう言ったお客さんが大半だ。
だが、そういった「大半」にならない「面倒なお客さん」が、稀にあんな風にやってくるのだ。
センセイがどんな対応をしているのかは知らない。段々と騒がしくなって怒鳴り声がする。何を言っているかは聞き取れないが、明らかにセンセイとお客さん以外の声もする。それを聞きながらいつも以上にゆっくりお茶を入れて、茶菓子も準備して、そうして出ていくと「面倒なお客さん」は必ずいなくなっている。まるでその人が来る前みたいにお店はなんの変哲もない状態のまま、静かな店でセンセイが椅子に座っている。
センセイもどんなお客だったとか、どんな対応をして返したとかを言ったことはない。ただいつも、僕がお茶と菓子を持って戻ると、ブツクサ言いながら僕の出す茶菓子を不機嫌そうに食べるのだ。
だが、実を言うと一度だけ、センセイが「面倒なお客さん」の対応をしているのを覗き見したことがある。まだ僕が働き始めてすぐの頃に、奥の扉を少し開けて覗いて見ていたのだ。店の全体は見えなかったが、センセイの背後にある鏡が光ったのと、見たことのない服を着た人たちが沢山いて、「面倒なお客さん」を捕まえているのが見えた。店の正面を向いているセンセイの表情は当然見えないし、なぜか店がいつもより暗かったせいで他のところもよく見えなかったが、光がチカチカと付いたり消えたりしていたのを覚えている。
そこで僕は思った。きっとセンセイは、あの大きな鏡を使って「面倒なお客さん」を退散させているのではないだろうか?と。見たことない服の人は、もしかしたら鏡から出てきたのかもしれない。センセイはいつも独特で何を考えているかわからないところがあるから、それくらいできても不思議ではない。
むしろそれくらいのことをやってのけている方が簡単に想像できる。「面倒なお客さん」がそれ以降必ず来ないのも、もしかしたら鏡の中に閉じ込められているからなのではないだろうか。そう考えるとものすごく合点がいく。あの大きな鏡も、不思議な香りがする多種多様な葉っぱも、不思議な光も、知らない人も。きっとセンセイは、何か不思議な力が使えるのだ。でも、それを隠したいから僕をいつも奥の部屋に行かせるのだろう。もしかしたら僕が怖がると思って見せないようにしているのかもしれない。
「やっぱりセンセイは優しい人だ」
そんなことを考えているうちに、外の喧騒が収まってきた。僕は二人分の熱いお茶と羊羹をお盆に乗せると、扉を開けて店内に戻った。そこにはいつもの静かで薄暗い店内と、椅子に座っているセンセイがいた。
「お茶、持ってきましたよ」
「ああ、ありがとう。でもお客さんはもう帰っちゃったから、二人で飲もうか」
「はい、センセイ」
僕はお盆を机の上に置いて、センセイの向かいの来客用の椅子に座った。そこでふと、いつもの店内との違和感に気づく。センセイの背中側、僕の正面側にいつもある大きな鏡に、すっぽりとカーテンが被せられている。そういえば、いつも「面倒なお客さん」が来た後は鏡にカーテンが掛かっている。僕はそれに気づいて、ふ、と笑みをこぼした。
「どうした、何か面白いものでもあった?」
僕が笑ったことに気がついたのか、不機嫌そうに羊羹を食べていたセンセイがこちらを向いた。
「いえ、なんでもないです」
そう答えた僕にセンセイは不思議そうな顔をしながら、二切れ目に手を伸ばした。やはりあの鏡にはきっと、何か不思議な力があるのだ。だからああやって、使った後にカーテンで被せをしているのだろう。面倒なものが出てこないように。
ペロリと羊羹を平らげ、センセイの機嫌も元通りになった。
「お片付けしてきますね」
僕はそう言って、お盆を持って奥のスペースに戻る。今日はきっともうお客さんはこないだろう。こういう時はセンセイが必ず閉店の掛札をしているから、後片付けもゆっくりできる。センセイの秘密にまた一歩近づけた気がして、僕はふふ、と笑った。
いつも優しいセンセイ。でもちょっとどこか不思議で、何かを隠しているセンセイ。きっといつか、僕もセンセイのような大人になるのだ。そう意気込みながら、キッチンで皿洗いを始める。流れる水の音が、心地よく耳に響いた。
なんだか楽しそうに皿洗いをしに行った彼を見て、ため息をついた。
「何かまた、面倒な誤解をされている気がする」
これは独り言だ。そう、ただの独り言。だがこういう考えをしっかりと口にするのも大事だと思う。個人的な意見だが。
どうも誤解をされることが多い気がする。さっきの彼にしてもそうだ。あの笑みは多分、何か勝手に夢を抱いて、勝手に妄想している時の笑い方だ。大方私が不思議な力でも持っていて、それでさっきのような面倒な人を退治しているとでも思っているに違いない。
そんな超常現象のような力が私にあるはずがないのに。ああいった人は適当に落ち着かせて、それでもダメならしかるべきところに引き取ってもらうのが正解だ。少しでも面倒だと思ったら警察の人を呼んで連れて行ってもらっている。威力業務妨害でしょっぴいてもらうのが一番楽だ。
ここに鏡を置いているのも、怒っている人に鏡を見せると落ち着くと聞いたから購入しただけだ。サイズを間違えて買ってしまい馬鹿みたいに大きい鏡が来た時はどうしようかと思ったが、返品もできず、結局ここに置いている。結果インパクトがあるからか、逆に初見のお客さんが入りにくくなってしまった。とんだ疫病鏡だ。
ついには、一部で「法外な薬屋」だと噂されている始末である。売っているものも出しているものも、一切違法ではないし、薬ですらない。ただのお茶だ。この前のサラリーマンに出したのもただの茎ほうじ茶だ。それもそこそこいい値段で美味しいやつ。
それがどこでひん曲がったのか、怪しげな薬屋さんとして知られるようになってしまった。最初はお客さんにも逐一説明をしていたのだが、困ってここに来る人は薬だと思い込む方が効くことも多いようで最近では面倒さも勝って説明するのをやめてしまった。プラシーボ万々歳。
そもそもここは相談所ではないし病院でもない。薬が欲しければ病院に行けばいい。ただ、薬は使い方を間違えれば毒にもなりうるが、お茶はそういった心配がない。だから安全でいい商売だと思ったのだが、なぜか今日のように妙な勘違いを起こした客が度々来る。全く面倒なことだ。
「センセイ、片付け終わりました」
あれこれ考えていると、奥から彼が戻ってきた。
何より面倒なのは、これだ。前々から不思議に思っていたことを、なんとなく聞いてみる。
「そういえばなんで、私のことセンセイって呼ぶんだい?」
そう問われた彼は、一瞬きょとんとした顔をして、すぐににっこりと笑った。
「だって、センセイの方が先にここにいるからですよ。それ以外の理由がありますか?」
そう言った彼の顔は、まるでそれが当たり前かのような表情だった。彼の瞳がじっとこちらを見つめる。それがなんとなく落ち着かなくて、ふいと顔を逸らした。
「あ、でも、もちろんセンセイのことを尊敬しているからっていうのもありますよ」
私が不機嫌になったと勘違いしたのか、彼は必死そうに口を開いた。
「どんな人に対しても万能の薬みたいな、センセイみたいになりたいからです!」
そう言って、急に恥ずかしくなったのか彼は逃げるように店の奥に引っ込んでしまった。なるほど、彼に言われてようやく合点が言った。
「薬だと呼ばれているのは私でもあるのか」
自分からでた言葉があまりにもおかしくて、笑いを噛み殺す。薬は使い方を間違えれば毒にもなりうる。だから今日の客にとっては毒になった。だがそれをどう捉えるかは、客次第だ。そもそも私自身薬になったつもりなど毛ほどもない。客が勝手にそう解釈して、勘違いしているだけだ。だからこれからもやることは変わらない。話を聞いて欲しい人の話を聞く。いい人は何度も来てお茶を買って行ってくれる。面倒ごとは警察に任せればいい。
ただ一つ、問題があるとすれば。
「あれは一体、なんなんだろうな」
先ほどまでそこにいた、私を「センセイ」と呼ぶ彼を思い出す。
「私の方が先にいたからって、突然現れたのはお前だろうに」
私がこの狭い建物を買い取って、ようやく夢の自分の店を開いた後。当時は閑古鳥がクソデカボイスで鳴いているのかというほど全くお客さんが来なかった。今考えればそれもそうだ。こんな怪しげな狭い店、私だとしても扉をすぐに閉めて帰ると思う。
開店からしばらくして、もう店を畳もうかと考えながら奥の住居スペースの掃除をしていた時。ずっと開かずの扉で、内見時から不動産屋も「開いているのは見たことがない」と言っていた押し入れがあった。そこが突然開いたのだ。押入れの中には小さな子供が入っていた。その子供はパッと目を覚ますと、私を見て、ただ「センセイ」と言った。そこから先はあれよあれよという間に、気づけば従業員として私よりも働く子供になってしまった。結局彼が何なのかは分からない。便宜上彼と呼んでいるがそもそも男なのかすら分からない。見た目はどちらかというと男の子に近いが、成長する様子がないあたり人間ですらないかもしれない。というより、あんな押入れに子供が閉じ込められていたら、とんだ事故物件だ。
最初は「厄介ごとは警察」の法則に則ってしかるべきところにお願いしようかと思っていたが、彼が働くようになってから不思議とお客さんが来るようになったのでそのままにしてしまっている。警察を呼ぶ時だけいつも店の奥に隠れていてもらっているが。彼はなぜか当たり前のように店の外に出ないし、鏡を苦手に思っている節がある。きっとこの建物に住み着いた座敷童子みたいなものだろう。座敷童子が鏡が苦手だという話は聞いたことないけれど。
ただ、あの紫と青が混ざったような、深い瞳だけはどうも苦手だ。時折中で何かが煌めいているように見える、不思議な瞳。あれに見つめられると、背筋にぞわりと冷たいものが走る感覚がある。もしかしたら、座敷童子や妖怪なんかより、よっぽどタチの悪い何かかもしれない。ただそれでも、彼がいればお客さんはやってくる。そして彼は運のいいことに私を「センセイ」と慕ってくれている。
毒も使いようによっては、よく効く薬になる。
確かにそう考えると、私はあの毒を使いこなす薬屋でもあるのかもしれない。薬屋と呼ばれるのも間違いではないのかもなと思いながら、店の扉に鍵をかけた。
街の片隅の小さな小さな建物。
そこは知る人ぞ知る、不思議な薬師と小さな助手が営む薬屋だという。
出される薬はどれも一品で、立ち所に悩みは解決する。
ただし、どれを薬と思うかはあなた次第。どれだけ使うかもあなた次第。
何の変哲もない葉を薬にするのも、薬を毒にするのも、全てはあなたの選択。
そんな風に噂されるお茶屋には、今日も居眠りばかりの何の変哲もない店主と、働き者の不思議な助手がいる。今日も誰かが店の扉を叩く。たくさんの積み上がった勘違いと、ほんの少しの悩みを抱えて。
次の更新予定
毎週 金曜日 19:00 予定は変更される可能性があります
碌の塔 ゆか太郎 @yuka_taro
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