星の映画館
喧騒に包まれた夜の街を歩く。輝くイルミネーション、どこかの店から流れてくる流行りの音楽。それらを横目で見ながら、しかし足を止めることなく進んで行く。
表通りから一歩入った路地裏。ビルとビルの間にある、小さく細い、地下に伸びる階段。そこが私の行きつけの場所だった。
微かに埃を被った階段を降りる。輝かしい光と音楽は段々と遠ざかり、地下のぼんやりとした灯りが近づいてくる。突き当たりまで降りると小さな扉がある。木でできた、すりガラスがはめられた扉を躊躇いなく引く。
カランとドアベルが鳴り、私がここへ来たことを知らせた。暖かい光に包まれた、まるで海外の老舗ホテルのロビーのような空間がそこには広がっている。
受付のような場所に1人だけ、綺麗なシャツベストを身に纏った男性が立っていた。彼は何か作業していた手を止めて、こちらを見上げた。
「おや、今日もいらっしゃったのですね」
そう言いながら彼は一枚の小さな紙を手渡してくる。
「今日は5番スクリーンですよ。では、良い時間を」
いつもと同じタイトルが書かれた紙を受け取る。ここはいわゆる映画館だ。一つ一つのスクリーンは小さいが、そこそこの数のブースを備えている。
ただし、ここは上映作品のお知らせもなければ、ポップコーン売り場もない。同じ作品を見る人はおらず、沢山並べられた席には必ず私1人しか座っていない。その時、そのお客さんのためだけの作品を、その1人のためだけに上映する。そんな不思議な場所で、いつも同じ映画を見るのが私の習慣だった。
私がここを見つけたのは偶然だった。終電を逃して途方に暮れ、まともに街灯もないような路地裏をぶらついていた時、ふとあの入り口の階段が目に留まった。
真夜中にも関わらず、階段の奥からは光が漏れていた。普段なら決してそんなことしないだろうが、その時の私はなぜか迷いなく足をおろした。中に入って映画館だと知り、どうせ始発まで暇だから時間でも潰そうと勧められた映画を見たのが始まりだった。
元々映画は好きでたまに見ていたが、ここで見た映画はこれまで見てきたものとは全く違った。ドラマチックなストーリーも、凄惨な悲劇もない。劇的な展開があるわけでも、面白い人が出てきたりもしない。奇跡も魔法も運命も何一つない。けれど、なぜかその作品から目が離せなかった。暇つぶし程度だったはずが、気づけば私は上映後もしばらく座席から立ち上がれずにいた。
それから、私は週に一度必ずこの映画館に足を運ぶようになった。一つ新しいものを係員が仕入れておすすめしてくれば、次の新作が出てくるまでそれを見続ける。たまに昔見た作品を見たりもするが、どの作品も同じような作品ばかり。1人の人間がただ生活をしている。ほんの少しの幸せと、稀に影を見せる苦しみを飲み込みながら日常を生きていく。誰かと出会い、誰かと別れ、何かを得て、何かを失う。そんなありふれた生活が大きなスクリーンに映し出されている。
それだけなのに、私はここでそんな映画を見ることをやめられない。初めて見た時のような衝撃があるわけでも、作品がとてつもなく好きだというわけでもない。それなのに、ここへ足を運ぶのをやめられない。
案内された部屋に入り、柔らかい座席に腰を沈めしばらく待っていると部屋の明かりがゆっくりと消えていく。大きなスクリーンが照らされ、私にだけ物語を運ぶ。それをただ、いつもと同じように眺めていた。
物語がいつもと変わらない終わり方を迎え、スクリーンが暗くなる。しばらくして、部屋の電気がチカチカと着き始めた。ここで見る映画にはエンドロールが無い。
決してカットされているわけではなく、そもそも作られていないそうだ。だから私は、この映画に出ている俳優の名前も、制作者の名前も何一つ知らない。まるでその情報は作品に不要だとでも言っているかのようだった。部屋が明るくなったのを確認してロビーへと戻る。係員は古めかしい箒で掃除をしているようだった。部屋から出てきた私を見て、彼が軽く会釈をしてくる。
「今日もお疲れ様です」
「いえ、いつもの仕事ですから」
そんな当たり障りのない会話をしながら、料金を支払う。決してタダではないが、普通の映画に比べれば破格の値段だ。
こんなので経営は大丈夫なのだろうかと最初は思ったが、彼が何も言わないのでご好意に甘えて言われた通りの値段を払っている。
「そういえば、お客さんにおすすめしたい作品があるんです」
お釣りとレシートを渡しながら彼はそう言った。普段は「今日は新しいのを仕入れましたよ」などと言って勝手に作品を切り替えているので、彼がそのようなことを言うのは初めてだった。
「どんな作品なんですか?」
「いつも見てらっしゃるのとはテイストが大きく違う感じです。あなたが好むかどうかは分からないんですが……」
答えになっているようないないような、曖昧な返事だった。
「好みかはわからないけど、おすすめではあるんですね」
「……実はなんですけど、その作品は制作者の方から直々にいろんな人におすすめして欲しいと言われてるんです。もちろん誰彼構わずと言うわけではありませんが、お客さんならもしかしたら好まれるかもしれないなと思ったもので」
なるほど、そういうことかと納得した後、「制作者」という言葉を彼から初めて聞いたことに気がついた。
「制作者の方が、直接?」
「ええ、そうなんです。普段はそのようなことをおっしゃられる方は滅多にいないんですけど、稀におられるんですよね。多くの人に作品を見て欲しいという方が」
そう、ここで上映される映画にはある特徴がある。それは客ごとに制作者が固定されているという点だ。
普通の映画制作者なら多くの人に見て欲しかったり、世界に届けたいという思いが少なからずあるはずだ。しかしここの映画を作っている人は逆なのだと言う。
「多くの人には見られたくない」、「ただ1人のためだけに届けたい」、そういった思いで作る人が大半だと、初めて見にきた時に係員の彼に教えてもらったことを思い出した。だから私が見ている映画を他の人が見ることはないし、あの映画は私のためだけに作られたものなのだと。どういった形で映画がここに持ち込まれるのかは知らないが、わざわざこの場所で多くの人に見てほしいというのは不思議だと思った。と、同時に興味が湧いた。その不思議な人に、そしてその人が作る作品に。
「じゃあ、来週来た時はそれを流してもらえますか」
「ええ!もちろんです!」
大袈裟すぎるほどに喜ぶ彼を見て、思わず笑みが溢れる。私なんかにおすすめをするということはよほど他の客に断られたのだろうか。ふと、ここでは私以外の客も、彼以外の従業員も見たことがないことに気がついた。
スクリーンはいくつもあるからきっと客は他にもいるのだろう。しかし、この広さの空間を彼1人で捌いているのかと考えると、彼の苦労が偲ばれる。彼もまたこの社会で働く1人なのだなぁと考えながら、映画館を後にする。あんなに騒がしかった街はいつの間にか静かになっていた。ふと空を見上げれば、夜空にまばらに星が散っている。表通りに出る頃には、冬のイルミネーションに紛れて星は見えなくなっていた。
その一週間後、私は初めてここへ来た日と同じように座席から立ち上がれずにいた。あんなもの、私は知らない。知らないものを初めて見ると人はこうなるのだと身をもって知らされた気分だった。
彼がお勧めした作品は、これまで私が見てきた作品とは全く同じで全く違うものだった。これまで見ていた映画と同じ様にただの人間の生活が描かれている。
それなのに。人の人生を描いているだけのはずなのに、煌めいて見える。しかし輝くその人は、それをただの人生だと、自分はただの人間だと言い続ける。
数奇で、不可思議で、側から見れば奇跡や運命だと形容されるような出来事の全てを、映画の中の彼は「普通」だと笑い飛ばしていた。その姿に、心臓を後ろから鷲掴みにされた様な感覚を覚えた。かっこよく、眩しくて、それでいてその様に言うこと自体が愚かだとすら感じさせられる。彼を正しく言い表すことのできる言葉を探せば探すほど、その思考が間違っていると思わされる。
そうやって頭を回していると、すっかり明るくなった部屋に係員の彼が入ってきた。
「お客さん、大丈夫ですか?」
中々出てこない私を心配して様子を見にきたのだろうか。それだけ長い間ここで呆けていたのだと気付かされた。
「す、すみません。すぐ出て行きますので」
「急がなくても大丈夫ですよ、今日はほとんどお客さんがいませんから。それより、先ほどの映画はどうでしたか?もしかして、あまり好きでなかったとか……」
「そ、そんなことないです!すっごく好きで、でもなんて言ったらいいか、その、ただただ衝撃的だったんです」
自分で思っていたよりも大きい声が出て自分でも驚いた。先ほどの映画の中の彼に触発されたのだろうか。普段ならこんなに感情を大きく出すことなどしないのに、今は心からそのまま止めどなく言葉が溢れる様だった。
「これまでに見たことのないような作品で、きっと何度繰り返し見ても面白いだろうなと思うんです。でも、それ以上にもっとこの人の作品が見たいなと思って……」
「気に入っていただけたのであれば何よりです。もしよければ、この方のこれまでの作品をご案内することもできますよ。来週はそちらにされますか?」
その彼の言葉は私にとって待ち望んでいた言葉そのものだった。あまりにも都合が良すぎて幻聴を疑うレベルだったが、彼の表情からして聞き間違いではないことは明白だった。
「ほ、他にもこの方の作品があるんですか……?」
「ええ、かなり前から持ち込まれている方なので。もちろん全てがこの作品のように公開されているわけではないですが、紹介できる数はそこそこありますよ」
「み、見たいです!もちろん無理にとは言いませんが……」
「ふふ、そこまで気に入っていただけるとは思いませんでした。では次からはこの方の作品を優先的に上映する様にいたしますね。見返したい作品がある時もご自由におっしゃってください」
そう言いながら彼が部屋から出たのを見届け、私はどさりと席に腰を落とした。こんなに何かに興奮したのはいつぶりだろう。
社会に出て働く様になって、特に趣味のない生活を送って。いや、それよりずっと前を思い返しても、こんなに心臓が波打った記憶は見つからなかった。それほど、この作品との出会いは衝撃的だった。静まり返った部屋の中、さっきまで聞こえていた彼の声が私の中でだけ反響する。ふと、無意識に私の口から彼の名前が溢れた。
「 」
それが自分の声だと気づいて、はっと我に帰った。そうだ、どうして気づかなかったのだろう。
「エンドロールが……あった……?」
さっき見た映画には確かに、短くはあったがエンドロールがあったのだ。制作者の名前が確かにそこに書かれていた。しかも、主演兼監督という肩書きで。その名前を私は今、無意識に呼んだのだ。一瞬だけ見たその名前が自分の中から消えないように、何度も小さく口の中で繰り返す。
忘れないように、携帯を取り出してメモをする。ほんの少しの好奇心と期待をこめて検索欄にも打ち込んでみたが、ヒットしたのは一文字違いの商社マンのフェイスブックだけだった。でもその結果にどこか安心している私がいた。きっとこの人が伝えたいものは、全て映画に込められていたから。それ以外から得られるものは無くていい。ただ、この人の作る映画を見ることができればそれで。
席から立ち上がって上着を着、鞄を持って部屋を出た。もうふらつくことはなかった。憑き物が落ちたような気持ちなのに、心には確かに彼の姿が重みを持って焼きついている。ロビーで料金を支払って外へ出るといつもよりも街の灯りが少ない。上映時間自体はいつも見ているものより短かったはずなのに、帰るのが遅くなってしまったようだ。それだけ惚けていた時間が長かったのだろうが、それも悪くないと思った。
ビルのイルミネーションがまばらに消えていて、いつもよりほんの少しだけ星がよく見えるような気がした。
それから私は暇があればあの映画館に通うようになった。元は週に1度程度だったのに、仕事が早く終わった日には必ず足を運ぶようになった。彼の作る映画を見ている間はただそれだけに没頭していたし、なんとなく仕事へと向かう足取りもほんの少し軽やかになったような気がした。足繁く通うようになったからか、彼の作品の全てを見終わるまでそう時間はかからなかった。
その後は前に見ていた制作者の新作が来るまで、これまで見た映画を繰り返し見るようになった。それは前に見ていた制作者の作品も含めてだった。彼が作る作品はもちろん好きだが、名も知らぬ制作者の作品が嫌いになったわけではない。あの制作者の映画を見ることができるのは私しかいないし、何よりあの映画たちは私のために作られたものだ。そんな作品を嫌いになるわけがなかった。
彼の新作が入ったと係員が嬉しそうに伝えてきた時は私も嬉しくなったし、見終わった後に感想を伝えれば係員も笑顔で聞いてくれた。心なしか、係員との距離も少し縮まったような気がした。映画館にいる時間が長くなり、帰宅する時間も遅くなっていったが、その分帰りの街は静かなのがいいところだった。街が静かになればなるほど星がよく見える。昔から星を見るのが好きだったからそれも嬉しかった。
決して詳しくはないし星座も星の名前もまともに知らないが、無数に散らばる光を見ているのが楽しかった。好きな映画を見て、好きな星を眺めて。1日の終わりをそんな幸せな時間で迎えられる。これだけで全てが幸福になるわけでもなければ、日常の嫌なことが消えるわけではない。それでも、ただこの時間があるだけで毎日を生きる価値があると思った。
そんな生活がしばらく続いた後の、ある日のことだった。
「え……?」
思わず溢れた自分の声が思ったよりもロビーに大きく響いたことに気がついて、はっと口を手で塞いだ。
「それは本当なんですか……?」
「ええ、大きなお仕事が入ったらしく、しばらくこちらに作品を届けることができないそうです。でもそのお仕事が終わったら、またこっちに帰ってきたいとおっしゃってましたよ」
ある日の夜、映画館に訪れた私に係員はそう告げた。突然の知らせにしばらく私は何も言えないまま立ち尽くしていた。そんな私の表情があまりに酷かったのか、係員は「ここだけの秘密ですよ」と言って詳しい経緯を説明してくれた。元々彼はこの映画館に通う客だったらしい。いつしか自分でも作品を作るようになり、趣味としてここで上映してもらっていたのだという。
仕事にするつもりはなかったらしいが、彼の作品を気に入った人にどうしてもと頼みこまれて作品を作ることになってしまったそうだ。名前も変え、1作だけという条件で仕事を引き受けたらしい。
「彼は自分の作りたい作品を多くの人に見てほしいだけだと言ってました。だから、興行やら万人受けやらを気にするのが面倒なのだと」
係員の言い方からして、どうも彼と係員は仲がいいようだった。まるで知り尽くした長年の友人の癖を打ち明けるみたいに、その声色は柔らかだった。
「彼のことです、必ずまたここで上映する作品を作りに帰ってきますよ」
今日はどれにしますか?と聞きながら彼は受付カウンターに目をやった。
「全部、見れますか」
しばらく閉じたままだった私の口から出たのは、ありのままの願いだった。幸い明日は休みの日だ。どんなに遅くなっても支障はない。
「……彼の作品を全部、ですか?そうなるとお帰りの時間は大幅に過ぎてしまいますが……」
「それでもいいんです。営業終了の時間まででいいので、それで見れるだけ流してもらえませんか」
「ここは24時間やっているので、それは構いませんが……」
机から顔を上げて私の目を見た彼は、ふ、と笑みをこぼした。
「わかりました。では今夜は特別ノンストップ上映といきましょう。突き当たりの部屋でお待ちください」
係員は軽くお辞儀をして上映の準備に取り掛かり始めた。言われた通り案内された部屋に入ると、部屋自体はいつもより少し小さいが普段よりも上質な椅子が設られていた。こんな部屋もあったのかと思いながら椅子に座る。しばらくするとゆっくり照明が落とされた。スクリーンが白く光る。
ピンと伸びた真白の舞台に、主役の顔が映し出される。何度も見た、台詞も、音楽も、表情さえも覚えている物語を、ただひたすらに見つめていた。
全て見終わった頃には、もう朝が近づいている時間帯になっていた。彼の作品は短いがその分数が多い。自分で言い出したことではあったが、流石に少し疲れてしまった。しかし、悲鳴をあげる体に対して心はどこか軽かった。本数分の料金を払ったので財布も軽くなってしまったが、こちらはうれしい悲鳴だということにしておこう。
「次に新作が入ったら、真っ先にお知らせしますよ」
私が店を出る時に、係員がそう言った。よく考えれば私はここの電話番号も何も知らないし、係員に自分の連絡先を教えた覚えもないのだが、私はただ彼の言葉に頷いた。
「これまで通り、また来週も見にきます」
そう言って、扉を開ける。階段を登って地上に出ると薄暗い空気が街を覆っていた。静まり返った道を駅に向かって歩いていると、ふと昨日見たニュースを思い出した。
それは、有名な星が爆発してなくなるかもしれないという話だった。いつ爆発するかはわからず、爆発する際の光を観測できるかもわからない。この先いつか、その星が爆発して、その輝きが見れなくなる日が訪れるのだという。ただ、光が伝わるまでに時間がかかる。今見ている光は随分前の輝きであり、爆発してからもそれより前の輝きは見ることができる。そして爆発の光が見えた時、ようやく私たちはその星がとっくの昔にいなくなってしまったことを知るのだと。
「ベテルギウス」
ニュースで何度も伝えられていた星の名前を口に出す。これまで全く星の名前も星座も知らなかった私にとって、どの星も夜を輝かす数多のうちの一つでしかなかった。
でも、私は名前を知ってしまった。その光がどこにあるのかも。けれどその姿をこの目で直に見ることは決して叶わない。
まるで彼のようだと思った。轟々とその身を燃やし続ける姿を、私はただ遠く遠くから見つめている。その煌めきに目を奪われるがままに。どうか、彼にはいなくならないでほしいと思った。人である限り、誰しもいつか終わりを迎える日がくることが定めだとしても。いなくなった後も彼の作品の輝きは決して失われないとわかっていても。
私が生きている間は、どうか燃えていて、その光を見つめさせていて欲しい。
駅に着く頃には、東の空が白み始めていた。タイミングよく来た電車に乗り込む。
流石に早い時間だからか乗客は誰もいない。
硬い座席に座り、荷物を胸に抱えて窓の外の流れてゆく景色を見つめた。
遠くに並ぶ山の上にはうっすらと雪がかかっていた。
やがて、夜が明ける。空は青く澄んで、星は段々と見えなくなる。それでも星たちは輝き続けている。青空の先で、この星の裏側で。一度は見えなくなったとしても、いつか必ず夜空へ帰ってくる。誰かに見せるためでもなく、ただ星はそこで燃え続けている。
昇る太陽が、車内を照らす。暖かい日の光を感じながら目を閉じる。彼の作品が遠く輝く星なら、私のためだけに作られた作品たちはまるで冬の朝日の様だと思った。瞼の外側には柔らかく大きな光が当たり、内側には鮮烈な輝きが焼きついていた。家に帰ったら、昼まで寝てしまおうか。お腹が空いたら起きて、何か美味しいものでも食べよう。燃える様な生き様でなくても、誰かに光を届けるような人生でなくても。奇跡も運命もなくていい。ただ、ほんの少し、柔らかな朝日を浴びて、きらきらと輝いて見える空気があれば幸せなのにと思った。しかしこの気持ちすらもすぐに消えてしまうかも知れない。いつだって幸せが溶けるのは一瞬だ。段々と強まっていく日の光から隠れるように、抱えた荷物をぎゅうと抱きしめた。電車の揺れに身を任せながら、心に薄く積もった幸せを眺めていた。
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