異世界転生苦難の末路

助部紫葉

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「お願いします!セックスさせて下さいッッッ!!!」



恥も外聞もかなぐり捨てて俺は自分の買った奴隷に土下座でお願いしていた。


町外れのボロボロの激安借家。1Kのトイレ風呂共同の最底辺冒険者御用達のオンボロ借家が俺の住まいだ。


その狭い一室で俺は奴隷のジェスティと手を伸ばせば届く距離で向かい合っていた。



前世、現代日本のうだつの上がらない会社員(30歳)

今世、特にこれといったチートを持たずに異世界転生して日々汗水垂らして働く底辺冒険者(22歳)


それが俺、ゲルトであった。


前世では特に取り柄もなく出世出来ず会社に扱き使われ。趣味はアニメとゲームな典型的なオタク。彼女いない歴=年齢で風俗に行く度胸もないので当然童貞。


そんな俺は30歳になったぐらいで死を遂げる。死因はよく覚えてない。気がついたら異世界に転生していた。


気がついたら転生していた。神様とかに呼ばれた記憶もなく。異世界転生お約束のチート能力もなにも持っていない平々凡々な1市民として。


凡人としての異世界転生は苦労した。


テレビも漫画も勿論ゲームも無いこの異世界は現代日本でのうのうと生きていた俺にとっては苦痛でしかなった。


しかも、俺の生まれた家は超のつくほど貧乏で俺を食わせる事の出来なくなった両親は7歳で俺を家から放り出した。


なんとかかんとか凡人ではあるものの冒険者として活動し日銭を稼ぎ、なんとか生きながらえてきた。


悔しさ、惨めさ、ひもじさに震えて泣きながら何度も夜を越えた。


なんで俺がこんな目に遭わなければいけないのだと異世界転生させたであろう神を怨んだことか。


だが死ねない死んでたまるかと俺をこんな目にあわせたヤツらを見返してやる。絶対、幸せになってやる。可愛い美女と結婚して暖かい家庭を築いてやると自分で自分を鼓舞しながら生にしがみついた。


しかし、元はキモオタクソ童貞が異世界転生したからといってモテるわけもなく。というか生きていくだけでやっとだった。


そうして日々を生きる中、俺は奴隷のことを知った。異世界定番の奴隷だ。



「キモオタクソ童貞の俺でも奴隷とだったらスケベ出来るんじゃね?」



そう思い俺は奴隷を買うことに決めたのだが、奴隷めちゃくちゃ高い。処女の美少女奴隷は尚のことバカ高い。アホみたいな値段だった。だけど童貞卒業するなら相手は処女がいいし、美少女がいい。


童貞をこじらせていた俺はそこに妥協する気は一切なかった。


働いた。働いて働いて働いて。節約して節制して切り詰められるものは全部切り詰めてお金を貯めた。貯めるに貯めた。


そうして冒険者活動歴15年目にして、ようやく目標の処女の美少女奴隷が買えるだけのお金を貯めた。


これでやっと俺も童貞卒業して美少女と暖かな家庭を築いていける。やっと俺も幸せになれるんだと大金を握りしめ期待に胸を膨らませて奴隷商に向かった。



そこで出会った俺の運命の相手。


名前はジェスティちゃん。金色の艶やかな長髪、歩けば10人に10人が振り返るであろう圧倒的顔面偏差値に身長は少し小さめだが出るところは出て締まるところは締まっている文句なしのプロポーション。そして処女。


まさに天上から舞い降りた女神だった。


人目で恋に堕ちて購入を決めた。奴隷商の最上級性奴隷であったが、俺の血と涙の15年間でギリギリ購入出来た。


ジェスティちゃんとの共同生活が始まった。しかし買ったその日に即パコする度胸がキモオタクソ童貞にあるはずもなく。というか美少女との共同生活がまともに出来るはずもなく。キョドるオタつく鼻息は荒くなるし口調も変になった。


しかしジェスティちゃんが女神なのは見た目だけではなかった。その中身までもが女神だった。


テンパる俺に優しく接してくれた。裏表なく真っ直ぐに俺を見つめてくれた。激安ボロ借家の生活を嫌な顔ひとつしないで受け入れてくれる。


まさに優しさの権化とも呼ぶべき頂上の存在で、そんな最強女神に年甲斐も無く俺は恋をしたんだと思う。


彼女の為ならなんだって出来る気がした。こんな所にいつまでも住まわせている訳にはいかない。苦労をかけるわけにはいかない。俺は今まで以上に冒険者としての仕事に励んだ。


そして、ある程度のお金が溜まり、もっとまともな借家に引越しをする事が決まった。


激安オンボロ借家ではあるが、ここがあったからこそ俺はお金を貯められてジェスティちゃんに出会うことが出来た。辛く苦しい記憶は沢山あるが、それと同時に感謝もあった。


引越しの前日。オンボロ借家で過ごす最後の晩。


俺はここで童貞を卒業したいと思った。


ひとつの区切り、俺はここから旅立ってジェスティちゃんと共に幸せな家庭を築く。そのスタート地点はここがいいと思った。


だからこそ、なけなしの勇気を振り絞って俺はジェスティちゃんに土下座でセックスを頼み込んだ。


奴隷に土下座する主人の図とは随分と滑稽な図だった。奴隷は主人に逆らえない。ヤラせろと言えばいつだって出来る。だけどそんな無理に迫る度胸がない俺はただのヘタレであった。



「頭を上げてください、ご主人様」



そんなヘタレなご主人様に呆れることも、嫌な顔をするわけでもなくジェスティちゃんは優しく微笑んでくれた。



「私はご主人様の奴隷です。ご主人様が望むなら私はいつでもこの身を捧げますよ?だから大丈夫ですよ」



ふわりと温もりが俺を包む。優しくジェスティちゃんに抱きしめられる。女の子の身体めっちゃ柔らかい!すっごい甘い匂いするんですが!なにこれ!?



「あああ、あのッ……!その……!」


「無理に迫られても私たち奴隷は拒めませんのに……ご主人様は優しい方です。私を買ってくれたのが貴方で本当によかった」



そっと目を閉じジェスティちゃんの顔が迫る。ふわりと唇に柔らかな感触。


ふぁああああああ!!!!これがキスッ!?俺キスしてしまったっ!?やわっ!フニフニっ!幸せっ!



「私は最初、奴隷として買われたら酷いこといっぱいされると思って不安でいっぱいでした。でもご主人様はそんなこと無くて、私の事、凄く大事に大事にしてくれて、まるで奴隷じゃなくて恋人みたいに扱ってくれて、それが嬉しかったです」


「お、俺も……!俺さ、こ、こんなんだろ?なのにジェスティちゃん嫌な顔ひとつしないし、優しかったから……」


「それはご主人様が優しくしてくださったからですよ?ご主人様はもっと自分に自信を持ってください」



ジェスティちゃんに優しく諭される。これじゃどっちがご主人様かわかったもんしゃない。



「ご主人様……私まだ経験が無いので……その……優しくしてくださいね?」



その一言で俺の理性は吹き飛んだ。






「ご主人様のが……中に……あったかい……。こうしてご主人様と結ばれて……私、幸せです……」






そして俺たちは結ばれて――。






「おい!ここだっ!ここに居たぞっ!総員突撃ッ――……き、貴様ッ!なんて事を!コイツをジェスティ様から引き離せ!この場で処刑しろッ!」






「イヤァァァッッッ!!!ご主人様ッ!やめてッ!これは違うの!お願いだから彼に酷いことしないでッ!あぁ……ご主人様……ごめんなさい……ごめんなさいッ……!うぅ……」






――引き裂かれた……。



















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異世界転生苦難の末路 助部紫葉 @toreniku

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