第32話
その後、かなり顔をやつれさせた二人にも話をして許可をもらったことで、英司達が各地の『十大迷宮』を攻略することが決定した。
様々な話し合いを行った結果、英司達が自由になった時には既に日が沈み、空に満月が上っていた。
「ふぅ~疲れたね」
「だな~」
「いつも疲れていたが、今日は特に疲れる日だったな~」
用意された部屋で夜風にあたりながら英司達がそう呟く中……
「……あの、どうして私もここに?」
リーナが困惑した表情で三人を見る。
「これからについて俺達でもう一度、話しあっておきたかったんだよ」
「そうそう、軽く世間話をしようぜ~」
蓮と蒼衣があまりにいい笑顔でそう言うので、リーナは思わずジト目で二人を見る。
「……何か裏がありそうですね」
「「当たり前だろ?」」
「開き直るな!」
一切悪びれる様子のない二人にリーナは突っ込みながらグラスに注がれた水で喉を潤す。
「さて、おふざけはこの辺りにしてっと」
「二人は今後、何かしたい事はあるのか?」
「んー僕はこれと言った物はないかな~」
二人の問いかけに「今は特にない」という意志を含ませて答える英司。
「私は……色々なところを見て回りたいかな」
それに対し、リーナは夜空に浮かぶ月を眺めながら小さな、されどはっきりと聞こえる声で零す。
「色んな村、色んな街、色んな国を巡りながら迷宮を攻略する……そんな旅がしたいかな」
確かな意志を持って紡がれた言葉に、英司達は一瞬呆けるも……
「そうだね。そんな旅が出来たら、きっと楽しいだろうね」
「魔法を倒すための旅じゃなくて、世界を巡る旅の方が楽しそうだな」
「そうだな。むしろ、それぐらいの方がちょうどいい。ぶっちゃけ、魔王を倒すなんて、俺達には関係のないことだからな」
「正直に言い過ぎですよ……」
「ははっ……まぁ二人はいつもこうだからね……」
二人の言葉にリーナが呆れ、英司が苦笑する。
その後、英司達は他の『十大迷宮』や旅の中で何をしたいかなどを夢中で話し合い、気づけば……
「あらら……二人は完全に寝たね~」
「疲れが一気に来たんだろうね、ゆっくりと休ませてあげよ」
蓮と蒼衣はベッドで熟睡しており、英司は布団をかけなおしながら「お疲れ様」と呟く。
「僕はまだ起きてるけど、リーナはどうする?」
「眠れそうにないし、せっかく二人の時間が出来たから私も起きていようかな」
そう微笑むリーナに英司も笑みを返し、部屋にあった椅子に深く腰掛ける。
「さっきの話……何かしたい事はあるかって、二人が聞いてきたでしょ?」
「うん」
「その時は「特にない」って答えたんだけど、本当はあるんだよね」
「そうなの?」
英司の言葉にリーナは目を点にする。
英司の性格からして蓮と蒼衣に内緒にするとは思えず、どうして私にその事を話したのだろうかとリーナは困惑の表情を浮かべる。
「二人に直接言うのが恥ずかしくてね。今はリーナと二人きりだからいいと思ったんだ」
「あ~そういうことね」
英司の説明に納得の表情を見せるリーナ。
「それで、英司がしたい事って何なの?」
「僕がしたいのはね……二人と一緒に冒険をすることだよ」
「ん? どういうこと?」
英司の言葉にリーナは首を傾げる。
それのどこかが恥ずかしいのか、と目で訴えると英司は頬をかきながら口を開く。
「僕ってさ……二人に比べて、どこか劣っているんじゃないかって思うんだよね」
「……」
「根拠はないんだけど、それでも僕はそう思ってしまうんだ」
「……」
「だからこそ、二人といる時を大事にしたい。もっと二人と一緒にいたい、それが僕のしたい事……いや、願いかな」
「なるほどね……」
リーナは小さく頷くと英司と目を合わせる。
「私は英司が二人に劣っているとは思わないんだけどな~」
「まぁ僕個人の考えだからね、リーナがそう思ってくれるのは素直に嬉しいよ」
「で、なんで二人とは一緒にいたいって言っていたのに、私には言ってくれないのかな?」
「え、な、なんでって言われても……」
唇を尖らせ詰め寄るリーナに英司はたじろきなぎながら質問に答える。
「リーナは……その、言わないでも一緒にいてくれると思ったからさ……///」
「ッ!? そ、そうだけどさ……///」
英司には自分の顔が赤くなっているのがバレバレであろうが、それでも恥ずかしさのあまり思わずをリーナは視線を逸らす。
「……ん?」
そして、視線を逸らした先であることに気づいた。
「「……」」
寝ているはずの蓮と蒼衣が静かすぎたのだ。
「もしかして……」と思いながら、リーナは二人に近づく。
「……寝たふりをしているね?」
「「……」」
「もし寝たふりを続けるようなら魔法をゼロ距離で放つけど……どうする?」
「「すみませんでした!」」
声を揃えて布団から飛び上がり、惚れ惚れするほど綺麗な土下座を決める二人。
「許すわけがないでしょうが!!!!」
「「ぎゃぁあああああ!!!!」」
背後に般若を顕現させたリーナが顔を真っ赤にさせて魔法を連射し、二人はその衝撃で窓から外へと吹き飛ばされていった。
ご丁寧なことに防御と防音の結界が展開されていたために周囲への影響は皆無であり、リーナは嬉々として魔法を二人の頭上から放ち続ける。
「英司! チョロインが暴走したぞ! 助けてくれ!」
「お前のことが大好きでたまらない王女様が乱心したぞ! 何とかしてくれ!」
「二度と喋れないようにしてあげましょうかねぇ!?」
「「あぁああああああ!!!!」」
命知らずかとツッコミを入れたくなるような言葉を並べる二人がリーナに襲われるのを一瞥すると、英司は空を見上げる。
(この当たり前が、どうかいつまでも続きますように……)
そう心の中で呟き、英司は大切な三人のもとへと駆け出すのだった。
――――――――――――
これにて『Over World Quest』完結です!
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
Over World Quest 苔虫 @kokemusi
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