そして彼はゆるされた
坂本忠恆
更生支援特別措置法
令和○○年法律第○○号
重犯罪者の更正支援のための特別措置等に関する法律
目次
第一章 総則(第一条 ― 第四条)
第二章 再社会化記憶調整手続(第五条 ― 第八条)
第三章 被処置者の保護及び支援(第九条 ― 第十四条)
第四章 関係機関等(第十五条 ― 第十六条)
第五章 雑則(第十七条 ― 第十八条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、死刑又は無期刑に相当する量刑が適用される犯罪を行った者に対し、その者の明確な同意を得て、全生活史に関する記憶を不可逆的に喪失する再社会化記憶調整手続を行うことにより、再犯防止及び社会復帰の促進を図るとともに、近年における世界的な人権意識の高揚を背景に、死刑をはじめとする強度の心的苦痛を伴う刑罰の廃止が強く求められていることに鑑み、これに応える措置を講ずることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「再社会化記憶調整手続」とは、受刑者の再社会化を促進するため、その全生活史に関する記憶を不可逆的に喪失させる外科的手術その他の処置をいう。
(基本理念)
第三条 再社会化記憶調整手続の実施に当たっては、対象受刑者の尊厳及び人権を尊重しつつ、その社会復帰及び再犯防止に資するよう行われなければならない。
(適用除外)
第四条 次の各号のいずれかに該当する者については、この法律の適用を除外する。
一 再社会化記憶調整手続に耐えられない恐れがあると医学的に判断された者
二 高齢、心身の故障又は障害により、再社会化記憶調整手続及びその後の社会復帰が困難と認められる者
三 前二号に掲げるもののほか、個別の事由により再社会化記憶調整手続によって更生を期することが著しく困難と認められる者
第二章 再社会化記憶調整手続
(対象者)
第五条 この法律の規定による再社会化記憶調整手続の対象者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する者とする。
一 死刑又は無期刑に相当する量刑が適用される犯罪を行い、有罪判決が確定したこと。
二 前号の犯罪が、再社会化記憶調整手続を受けることを目的として行われたものでないこと。
三 再社会化記憶調整手続を受けることについて、明確かつ自由な意思による同意があること。
2 前項の規定にかかわらず、再社会化記憶調整手続を実施するには、法務大臣の許可を得なければならない。
(刑の執行の免除)
第六条 前条の規定により再社会化記憶調整手続の対象者とされた者が、当該手続を受けることを選択し、かつ、当該手続が完全に実施されたときは、裁判所は、当該対象者に対して言い渡された刑の執行を免除するものとする。
(手続の方法)
第七条 再社会化記憶調整手続は、対象受刑者の全生活史に関する記憶を不可逆的に喪失するため、外科手術その他の医学的方法により行うものとする。
(手続実施後の措置)
第八条 対象受刑者が再社会化記憶調整手続を受けたときは、法務大臣の指定する医師は、当該手続が適切かつ完全に行われたことを確認しなければならない。
2 前項の規定による確認の結果、対象受刑者の記憶の喪失が十分でないと認められるときは、法務大臣は、当該対象受刑者を刑事施設に収容し、当初の判決に基づく刑の執行をさせるものとする。
第三章 被処置者の保護及び支援
(特別更生プログラム)
第九条 再社会化記憶調整手続を受けた被処置者は、法務大臣の指定する特別更生施設において、人格の再形成及び円滑な社会復帰に必要な特別更生プログラムとして、教育、職業訓練その他必要な処遇を受けるものとする。
2 前項の特別更生施設は、矯正施設(刑事施設、少年院及び婦人補導院をいう。以下同じ。)に準ずる施設とする。
3 第一項の被処置者は、特別更生施設において、自由を制限された環境の下、必要な処遇を受けるものとする。
4 前項の被処置者の処遇については、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)における措置入院者の処遇に関する法令の規定を準用する。
(被処置者の釈放等)
第十条 法務大臣は、再社会化記憶調整手続を受けた者(以下「被処置者」という。)について、特別更生プログラムによる改善更生が十分に図られたと認めるときは、釈放を許すことができる。
2 前項の規定により釈放を許された被処置者は、更生保護法(平成十九年法律第八十八号)の規定による保護観察に付する。
3 法務大臣は、被処置者を釈放するに当たり、被処置者に対し、新たな戸籍を付与するものとする。
4 前項の被処置者に対する新たな戸籍の付与については、戸籍法の一部を改正する特例に関する法律(令和〇〇年法律第〇〇号)の規定に従うものとする。
5 第一項の規定による被処置者の釈放は、公にしないものとする。
(被処置者に対する支援)
第十一条 国及び地方公共団体は、被処置者が円滑に社会復帰することができるよう、被処置者に対し、就労、住居、生活支援その他必要な支援を行うよう努めるものとする。
(被処置者の権利義務の非承継)
第十二条 被処置者は、再社会化記憶調整手続を受ける以前に有していた民事上又は刑事上の権利及び義務について、その全てを失うものとする。
2 前項の規定は、被処置者が再社会化記憶調整手続を受ける以前に取得した資格、免許その他の権利についても、同様とする。
(被処置者の保護及び接触制限)
第十三条 何人も、次に掲げる者と被処置者との接触を図ってはならない。ただし、被処置者の社会復帰を妨げない範囲内において、特別更生施設の長の許可を得た場合は、この限りでない。
一 被処置者の再社会化記憶調整手続実施前の配偶者、直系若しくは同居の親族又はこれらに準ずる者
二 被処置者が再社会化記憶調整手続実施前に行った犯罪行為の被害者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族
2 前項の規定は、被処置者が特別更生施設から釈放された後も適用する。
3 特別更生施設の長は、第一項ただし書の許可をするに当たっては、被処置者の意思を尊重するとともに、その社会復帰を妨げることのないよう配慮しなければならない。
4 特別更生施設の長は、第一項ただし書の許可に関する事務を行うため必要があるときは、関係行政機関又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
(記憶の回復に係る禁止行為)
第十四条 何人も、被処置者に対し、再社会化記憶調整手続により喪失された記憶を回復させる行為をしてはならない。
第四章 関係機関等
(関係機関の責務)
第十五条 法務省、厚生労働省その他の関係機関は、再社会化記憶調整手続の適正な実施、被処置者の社会復帰の促進等のため、相互に協力するものとする。
(民間団体等との連携)
第十六条 国及び地方公共団体は、被処置者の社会復帰の促進等を図るため、犯罪をした者等の支援を行う民間団体その他の関係団体との連携に努めるものとする。
第五章 雑則
(受刑者の意思の尊重)
第十七条 対象受刑者は、再社会化記憶調整手続を受けるかどうかについて、十分な説明を受け、自由な意思に基づいて選択することができる。
2 刑事施設の長は、対象受刑者に対し、再社会化記憶調整手続の内容、その実施に伴う危険性等について十分な説明を行った上、対象受刑者の同意を得なければならない。
(主務大臣等)
第十八条 この法律における主務大臣は、法務大臣とする。
2 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のための手続その他この法律の施行に関し必要な事項は、主務大臣が定める。
附則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(再社会化記憶調整手続の試行的実施)
2 法務大臣は、この法律の施行に先立ち、再社会化記憶調整手続の効果を検証するため、特に選定した対象受刑者について、試行的に再社会化記憶調整手続を実施することができる。
3 前項の規定による試行的実施に係る対象受刑者の選定、手続の実施方法その他必要な事項については、法務大臣が定める。
(検討)
4 政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況、再社会化記憶調整手続に関する科学的知見の発達状況等を勘案し、この法律の規定について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
——
※上記は本小説のために創作された架空の法令です。
そして彼はゆるされた 坂本忠恆 @TadatsuneSakamoto
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