蒼き夜・テンゲル /致命的な友人(Fatal Friend)4

頭の中で、パズルがつながっていく。絡まった紐がほどけていく。


「シェヘリは、僕を探しているかも。親衛隊まで出すなんて」


晩霧はうなずいた。考えていることは同じだ。


「モンゴル軍にそこまでの指揮の柔軟性があるかわからないですが、ありえます。しかし、見つかると面倒なことに

なるでしょう。脱出した方がいい。シェヘリにもメッセージを残しておけばいい。鳩を飛ばしておきましょうか?」


戦車が急に、ビルの角から飛び出して、戦車砲をモンゴル兵に向けた。


しかし、彼らの方が早く弓を撃った。ビルの上の弓兵だ。もちろん、戦車はやられた。

戦車兵達が逃げ出したが、瓦礫を投げつけられ、全員即死したようだ。見るまでもない。


「戦車もダメだね。やっぱり強い」


「ある距離なら強いんですが、超遠距離から間接射撃されたり、近距離に潜り込まれるとダメです。砲塔を旋回する速度が間に合いません。マスケット兵とか、クロスボウ兵みたいなものですね。弓兵には間接射撃でアウトレンジされ、白兵では負け、

騎兵は倒しきれなければ終わり。しかも、戦車砲と違って仰角に制限がありませんからね」


戦車砲の角度は、上は20度までしか上がらない。500m先では、せいぜい100m上までしか撃てないんだ。


「近づかれたら?」


「パワードスーツ歩兵のランチャーやドローン、地雷をよく使います。」


中国軍は完全に押されている。しかし、なぜ街へ突入した?焼くだけでも充分なはずだ。やはり、誰かを探しているのだろう。

シェヘリ。君は一体どこにいるのだろう。


「くそ。完全に奇襲ですね」、晩霧がため息をつく。


その間にも、街は砲火に包まれていく。


「エルリックにやられたね」


「あなたのが正しかったようです。2000年生きて、あなたとの賭けに負けるとは。過信は禁物ですね」


馬の蹄の音が聞こえ始めた。歩兵の後ろから、モンゴルの騎兵達がやってくる。


中国軍達が集まる横を、走って通過した。


甲高く、空を裂く音。空が真っ青に光った。蒼い火の群れが、天球を包む。


「矢の雨が来ます。どこかに砲撃観測員か、ドローンか、なにかがいる」


中国兵達が、走って逃げ始めた。しかし、遅すぎる。矢がビルを引き裂き、兵器を完全に破壊した。

しかし、歩兵達はなんとか逃げ切って、そこら中に散らばって、再編成をしようとしている。


「歩兵は殺し切れてない」


「矢の苦手なのは、大量の歩兵を倒すこと。サーベルで歩兵を倒せばいい。兵器や通信、司令部を倒せば、後は通常軍が処理する」


突然、派手な轟音が響き、目の前のビルが吹き飛んだ。それで、中国兵達は吹っ飛ぶ。


モンゴル騎兵達が、ビルを突き抜け、中国兵を切り倒した。馬にぶつかり、壁まで吹き飛ばされて死んだ中国兵もいる。

青い火が街を焼く臭いは、草原の匂いに似ていた。人が燃える匂いを除けば、やけに爽やかな匂いがする。


爽やかな青空、それに爽やかな匂い。風が吹き、肌を冷たくなぞった。あまりに多くの汗をかいているせいで、脂汗なのか、なんなのかもわからない。

「今のは危なかった。自分でも、魔馬の突撃を食らったら吹っ飛ばされます」


僕が喰らったら、血煙がけぶるだろう。


騎兵達は、次々とビルを突き抜けていく。


「さ、早く。ここから脱出しますよ」


空に、次々と青い光の矢がきらめき、高速で落ちてくる。青い矢は、建物に当たると、それを一瞬で焼き尽くす。

焼夷弾、言ってしまえば、魔術的な火矢だ。


夜明け前の青空のように、深く輝く蒼。もうこれ以上明るくならないだろうと思っていたが、まだ明るくなる。


そうして、あたりが次々と燃える。


これほど綺麗な死は、人類のほとんどが見たことないだろう。なぜか涙が出てきて、笑えてきた。


「わ、笑ってますか?」


「うん。理由はわからないけど、小さい頃行った峠の、青い夜明けに似てるんだ。懐かしくって。なんだか涙が出てきた」


「ちょっと頭のネジ飛んでます?」、晩霧は苦笑いを下。


「そうかも」


小さい頃、人生が辛かったとき。それには様々な理由があった。何をいうでもなく、完全にどん底であった。


あまりに人生が辛すぎて、乗ってきた自転車を崖から海に放り捨て、叫んだあの日の色に似ていた。


死ぬほど爽やかで、残酷なほど蒼い。鳥たちは爆撃機の編隊のように飛び回り、そうして僕の持っていたパンを奪い取った。


次の日、歩いて帰ってきた僕はその足で学校を辞め、晴れて中退し、家を飛び出た。


もちろんろくでもない人生になることはわかっていたが、それでもそうした。


もし人生が詰んだら、モンゴルにでも行って、悪の兵隊にでもなってやろうかと思っていた。


しかし、幸運にも彼らと知り合った僕は、そのような事態にはならずに済んだが、代わりに今街が焼かれている。


人生とは面白いものだ。あんなに死にたくてたまらなかったのに、今は生きたくてたまらない。


「僕を探してるのか、殺したいのかどっちなんだろう」


「さぁ。彼らはワイルドですから。それに、晩霧がここにいると知ったなら、このぐらいやっても大丈夫だと思っているかもしれません。シェヘリは知り合いです」


「信頼されてる?」


「ある意味。将軍達は知り合いですからね。非人間族はだいたい知り合いです」


「今街に来ている奴らも?」、僕は聞いた。非人間族は、たいていは皆仲間だ。


「いいえ。知りません。カーンや、今来ているような騎兵軍の奴らは。彼らの顔も、2000年生きていてほとんど見たことがない。地中に隠れているのでもなければ。明らかに新造だ。そして人類史上、これほど大規模に生産するのは不可能だったはず。誰も出来なかった」


「やっぱり人工?仙薬とか?」


晩霧は、仙薬を飲んで、仙人となった。仙薬を飲んで、死んだ人間は数多くいる。

中国の皇帝たちは、無限の生を求め、そうして死んでいった。


「自分は絶対に出来ません。仙術や仙薬、錬金術、魔法、幽霊になって人間を辞めるのは、数十年とか、百年に一人とかそういうペースです。しかも国に何人出来るかもわからない。制御不能なんです。もしそんなことを出来る者がいるとしたら、誰もがその名前を知っているはず」


「不明か。モンゴル最大の国家機密だろうね」


晩霧は、軍にいた。誰もが知りたい秘密なのだろう。


そうして喋っている間にも、街を南下し、そのうち市外に出るはずだ。問題は、包囲をどう突破するかだ。


街の周囲は、たぶん包囲されている。音速に近い速度で走ることも出来る騎兵達は、歩兵など軽く一ひねりのはずだ。

もしくは包囲の穴を開け、逃げるところを後ろから撃ちまくる。


「包囲は抜けられる?」


「たぶん。彼らが新造だとするなら、彼らの練度は自分より遙かに低い。100倍以上の経験値の差があります。普通の人間の兵では、逆立ちしても非人間族には叶いません。刀槍や弓はいうまでもなく、アサルトライフルだって我々のがうまく使える。砲兵や戦車も」


「頼もしいね」


「ただ、将軍達は無理でしょう。祈るしかない」



次のブロックを曲がると、たった一人で、たたずんでいるものがいた。


馬の上に乗って、青く燃えさかる街をバックに、真っ黒な影。縁が青く輝いている。白馬に乗っているようだ。


明らかに鎧が違う。明らかに鎧ではなく、完全に平服のような見た目だ。しかし、防御力はたぶん鎧と変わらないのだろう。


大きな帽子が、ただの兵ではないということを一瞬で理解できるほどだ。まるで貴族のようにも見える。


「もしかして、あれは」、僕はそうつぶやいた。


https://note.com/kyomunomahou/n/na148d46614e0

キャラクターの設定絵。このNOTEにはモンゴル側の軍隊とかの設計(部隊編成、師団編成、戦術~ドクトリンや、世界観、非人間族についてなどや、この世界観を生かしたウォーゲーム=ターン制のリアルな戦争チェスみたいなものの設計、満州語の勉強記録とかもあるよ)


https://twitter.com/kyomunomahou

Twitter


https://www.youtube.com/@user-mj6in1fr4s/videos

YOUTUBEアカウント(これの映像化、中東・遊牧などの武術・ゲーム・戦争・歴史などの解説。映像化、中東・遊牧武術解説、軍事解説があります。)


ノクターンでのR18小説。世界やキャラの説明としても有用。

まずは優×タルサ編:https://novel18.syosetu.com/n4411jd/





今回のぶんに相当する動画:https://www.youtube.com/watch?v=Mrz6NG_bp2k


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The Deludge (大洪水) ~えっ!日本で暮らしてたはずの僕がいきなり魔族たちの小隊長に!?~ りりり・りり @kyomunomahou101

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