第16話 最終話





 ドラーゴ公国の公女、リーシア・フォン・ドラーゴは大きな溜め息を溢した。



「……やっぱり怖いわね」


「殿下。やはり、殿下が生贄になる必要など……」


「駄目よ。かの黒竜との契約は、百年経った今も続いているのだから」



 かつて王国だったドラーゴは、ある罪人によって公国となった。


 黒竜の怒りを鎮めるために身を捧げた当時の姫を救うため、異世界から勇者を召喚したのだ。


 しかし、黒竜はその勇者たちを一方的に滅ぼし、当時の王は異世界人召喚という禁忌に触れ、女神アルティナからの神罰を受けた。


 当時の王族は天から落ちた雷によって亡くなり、一時ドラーゴは滅亡の危機にまで至ったと言う。


 ドラーゴが王国から公国になったのは、その際に国を再統治したのが一つの公爵家の令嬢だったからだ。


 その令嬢は病で何年も深い眠りに落ちていたが、ある時、側近の少女たちが冒険者から譲ってもらったという秘薬で目を覚まし、竜を信仰するようになったらしい。


 特に黒竜を神聖なものとして扱い、当時同じくして黒竜を信仰していたお隣の帝国の女帝と意気投合。


 王国を再支配するための支援を受け、無事にそれを成し遂げたそうだ。


 しかし、黒竜と禁忌を犯した王が交わした「百年に一度、生贄を差し出す」という契約は続いている。



「公女殿下、そろそろ」


「……ええ、分かったわ」



 そして、リーシアがその生贄だった。


 竜は美しい乙女を好むと言う。リーシアは公国で最も美しいと言われる美少女だ。


 もしかしたら、竜がその美しさに食べるのを躊躇うかも知れない。


 そういう淡い期待を込めて、公国民は黒竜の住まうエレスト山へ転移魔法で向かうリーシアの姿を見送った。



「んっ、ここは……?」



 リーシアが目を開くと、眼前には古めかしい神殿があった。


 その神殿の奥から巨大な影が出てくる。



「っ」



 それは、漆黒の竜だった。


 あまりにも大きく、圧倒的な存在感を放つ強大な生物。


 リーシアはその場で片膝を突いて頭を垂れた。



「……誰だ?」


「ドラーゴから参りました、生贄です」


「生贄? ……あっ」


「?」



 まるで忘れていた何かを思い出したように、黒竜は驚いた様子。


 そして、黒竜は更に驚くことを言った。



「あー、帰ってもいいぞ。国まで送ろう」


「え?」


「いや、その、なんだ。百年に一度生贄を出せとか言ったのはあれだ、若気の至りだ」



 若気の至り。

 リーシアはその言葉を理解するまで数瞬の時を要した。



「ええと、それはどういう……?」


「いや、そのままの意味だ。というか、今は相手している暇がなくてな……」



 その時だった。


 神殿の奥から、竜ではない何者かの影がいくつか見えてきた。



「ちち、あの人間なーに?」


「お父様!! 私はまだまだ遊び足りないです!!」


「姉上ばかり遊んでもらってずるい!!」


「パパ、私とも遊んでー!!」


「だめー!! 父様は私と遊ぶのー!!」



 まず出てきたのは小さな子供が数人。


 身体のところどころに竜の特徴があり、黒竜の子供だろうか。


 そして、その子供に囲まれながらリーシアと比肩する美貌の女性が神殿から出てくる。



「ドーラ様ったらモテモテですねー」


「アルメリア。俺は酔っ払い――アマテラス様の相手をしなきゃだし、子供の遊び相手を代わって欲しいんだが……。天使さんの身体はメンテナンス中だし」


「それはドーラ様が夜中にこそこそと使っているからでしょう? って、あら? 貴方は? あっ、もしかして生贄の方ですか?」



 リーシアはもう何が何やら分からなかった。


 異世界の女神を自称する酔っ払いが出てきて絡まれたり、アルティナを名乗る美女が出てきたり……。


 でもまあ、食われることはなさそうだった。


 リーシアの波乱万丈な人生は、まだ始まったばかりなのかも知れない。









―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「思うようにまとめられなくて変な終わり方になっちゃった……ごめん」


ド「子供もできたし、俺は文句ないよ」


作者「あんがと。『捨てられ王子が最前線で敵国の兵士を治療したら実は第七皇女だった件』の方も時間がある方はご覧になってください。ご愛読、ありがとうございました」



「子沢山で草」「完全に生贄のこと忘れてて草」「変な終わり方で草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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山暮らしの竜に転生したら生贄としてお姫様がやってきたので妻にする。 ナガワ ヒイロ @igana0510

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