第15話 山暮らしの竜、虐殺する





 大空を舞う。


 やっぱり空を飛ぶのは気分が良い。特に酒を飲んで身体が火照っているからか、風が一段と心地良い気がする。


 ……もしかして今の俺、飲酒してる状態だから空を飛ぶのが危なかったりするのかな?


 でもドラゴンがお酒を飲んだら空を飛んじゃダメって法律も無いし、別に大丈夫だよね。



「ヴァネッサ、お前の縄張りだった山までどれくらいだ?」


「ここからあと数時間もあれば着くかと……」



 なお、ヴァネッサは俺の背にしがみついている。


 ヴァネッサと並走するとどうしても飛ぶ速度が遅くなってしまうからな。


 それならヴァネッサを背に乗せて全力飛行した方が早く移動できる。

 俺は面倒なことはさっさと済ませてゴロゴロしたいタイプなのだ。


 それにしても、ヴァネッサたちワイバーンが住んでいた山って結構遠いんだなあ。


 なんて考えながら空を飛ぶこと数時間。


 俺たちはようやく目的地である山脈地帯に何事もなく到着した。


 ああ、いや。縄張りに侵入されたと勘違いしたグリフォンが襲ってきたので殺さないようできるだけ手加減して追っ払ったりはしたが。


 わざとではない。グリフォンは一匹も殺してないし、そこは許してほしい。



「ここか。しかし、山脈と言っても随分と広いな」


「こちらです」



 ヴァネッサが俺の背から降りて、羽ばたきながら案内を始める。


 広大な山脈地帯の上をしばらく飛行していると、ワイバーンの縄張りに入ったらしい。


 別に天使さんから教えてもらったわけでもないのに分かったのは、地上に無数のワイバーンの亡骸が転がっていたからだ。



「くっ、戦士たちは全滅したのか……」



 ヴァネッサが悔しそうに言う。しかし、あまり悲しそうではなかった。


 どうもワイバーンには戦士なら死ぬことは珍しいことではないし、悲しむものではないという考え方が当たり前なのだそうだ。


 死んだことよりも、敵に勝てなかったことを忌む根っからのバーサーカーらしい。


 と、その時だった。天使さんが声を発した。



『すぐ近くでワイバーンと人間が戦闘を行っています』



 ああ、俺も気付いた。


 どうやら異世界人、元同郷である日本人の少年少女たちはワイバーンをいたぶっているらしい。


 あ、いや。


 前世の俺は元々地球で生まれる予定じゃなかったらしいし、同郷というのは少し違うのか? まあ、何でも良い。


 彼らがワイバーンを痛めつける様は見ていてあまり気分の良いものではなかった。



「ドーラ様ッ!!」


「分かっている。お前は同胞を連れてエレスト山まで戻れ」



 俺は一気に急降下し、ワイバーンと少年少女たちの間に着陸した。


 大量の砂埃が宙に舞い、一時的に異世界人一行の視界を奪う。

 同時にヴァネッサが負傷しているワイバーンを連れて上空に上がった。


 怪我は酷いが、死ぬほどのものではない。あれなら自然に治癒するだろう。


 さて、問題は……。



「うわあ!? な、なんだ!?」


「くそっ、まだワイバーンがいたのかよ!!」


「ちょ、めっちゃ目に砂煙入ったんですけどー!!」


「うっぜぇ蜥蜴だな!!」


「はっ!! 今さら一匹増えたからって何ができ……ん……だよ……」



 砂埃が収まり、少年少女たちと視線が交差する。



「は? な、なんだよ、このめっちゃデカイドラゴン……」


「ワイバーンの上位種なんじゃね?」


「はっ!! なんだって一緒だろ。俺たちはチート能力持ちの選ばれし勇者!! ドラゴンなんか雑魚だっての!!」



 柄の悪いヤンキーが剣を片手に襲いかかってくる。


 俺は特に防御しなかった。天使さんがその必要は無いと言ったからだ。


 ガンッ!!


 ヤンキーの振るった剣が当たると、金属がぶつかったような鈍い音がした。


 俺の鱗には傷一つ付いておらず、ヤンキーの振るった剣が欠けていた。


 おお、我が鱗ながら素晴らしい硬さだな。



『むしろ折れなかった剣を褒めるべきでは?』



 天使さん、こういう時は思っていなくても俺を褒めて欲しいな。


 モチベーションに繋がるから。



『承知しました』



 なんて会話を脳内でしていると、ヤンキーはガタガタと震え始めた。


 どうかしたのだろうか。



「う、嘘だろ? オレの『何でも斬る力』が効いていない!?」


「な、なんでだよ!?」


「お、おい!! 今度は全員で攻撃するぞ!!」



 そう言うと、少年少女は各々の持つ手段で俺を一斉に攻撃してきた。


 しかし、あまり効かない。


 というか俺に当たる前に攻撃が無効化されているような感覚がある。


 ……ふむ。

 へい、天使さん。どういうこと? ていうかチート能力って?



『他世界から召喚された者は、世界間を渡る際に生じたエネルギーの余剰分を吸収して特殊な能力に目覚めます。いわゆるチートスキルです』



 なるほど。


 この少年少女たちはそのチートスキルを使って攻撃していると。


 でもそれが俺に当たって無効化されてるのはなんでだ?



『彼らのチートスキルは許可されていない召喚によって付与された能力です。不正な力は正統な力の前に無力化されます』



 ……正統な力……。


 ああ!! 俺ってドラゴンそのものがアルティナ様の公認だからか!!


 ほぇー、つまり俺ってば異世界人特効?


 少しばかり苦戦するかな? とか思ってたから拍子抜けだわー。



『あくまでも無許可の召喚に際して獲得した能力に限ります。正統な力は普通に通じますので気を付けてください』



 天使さんから「そういう慢心は良くないです」と言われて俺は黙り込む。


 正論だね。



「な、なんなんだよ、この化け物!!」


「に、逃げろ!!」


「ちくしょう!! 今度会ったらぶっ殺してやる!!」



 勝てないことを理解した異世界人が蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。


 少し可哀想だけど――えいっ。



「ぎゃ!?」



 取り敢えず一番手前にいたヤンキーを尻尾で叩き潰した。


 ぷちっと簡単に潰れて絶命する。


 一人を狙ったつもりだったが、その余波で数人が吹っ飛ばされて死んだ。


 あ、あらら。

 結構手加減したつもりだったけど、思ったより威力が出たな……。



『魂を回収します』



 魂? の回収は天使さんが全てやってくれるらしい。


 あ、ちなみに俺が虐殺を躊躇わずにできる理由はちゃんとある。


 天使さん曰く。



『回収した魂を元の世界に戻し、その魂から肉体を復元します。彼らからすると、死んだと思ったら召喚される前の状態に戻っている感じです』



 とのこと。


 つまり、ここでの虐殺は殺したことにならないのでセーフってわけだ。



「ひいっ!?」


「や、やだ、死にたくない!! お母さんっ!、」


「だ、誰か助けてぇ!!」


「な、なんで俺たちがこんな目にっ!!」


「うわあああああああああああっ!!!!」



 ……いや、別に本当に死ぬわけじゃないと分かっていても少し申し訳ないな。


 ごめんよー。



「あぎゃ!?」


「ぎひっ!?」


「い、いやだああああがっ!?」



 とまあ、こんな感じで全員始末して、天使さんが魂を回収。


 俺はヴァネッサと合流してエレスト山に帰るのであった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「怖いンゴ」


ド「草」


作者「次回、最終回」


ド「!? な、なんで!? 警告来たん!?」


作者「……ううん。話を広げるのが難しくて……」



「どうでも良くなくて草」「打ち切り!?」「まあ、エタるよりはええで」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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